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「誰一人取り残さない社会を目指して」:ルワンダ虐殺から25年、障害を負った元戦闘員と一般障害者の職業訓練で多様性のある社会をつくる

2019年4月5日

犠牲者数が50万人とも100万人とも言われる「ルワンダ虐殺」から今年で25年。JICAはルワンダが進める平和な国づくりの過程のなかで、支援が行き届かない障害を負った元戦闘員に加え、一般障害者も対象とした職業訓練と就労支援プロジェクトを実施してきました。プロジェクト終了後も職業訓練を受けた人たちの生活状況をモニタリングするなど、腰をすえた包括的な取り組みは、紛争を再発させない強靭な国づくりを目指すルワンダの復興を力強く後押ししています。

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自動車整備の技能訓練を受ける障害を持った元戦闘員たち

かつての敵も、一般障害者も共に職業訓練で支援する

長年続いた民族紛争や1994年に起きた大虐殺によって、ルワンダでは多くの戦闘員や一般市民が負傷し、障害を負いました。内戦終結後、ルワンダ政府は元戦闘員への社会復帰支援を積極的に進めましたが、障害を持った元戦闘員たちはその枠組みからこぼれ、社会から孤立し経済的に困窮していました。

裁縫の技能訓練を受ける元戦闘員

そのためJICAは2005年から、障害を持った元戦闘員に経済的・社会的な自立を促すため、ルワンダ動員解除・社会復帰委員会と共に地元の職業訓練校と協力して、溶接や電気、裁縫といったさまざまな技能コースを提供するプロジェクトを開始しました。

ルワンダ政府が内戦中の所属に関わらず元戦闘員たちを平等に支援していたことから、敵対していた政府側・反政府側双方の元戦闘員を対象としました。彼らが円滑に社会復帰し、安定した生活を送ることができるようにすることは、紛争の再発防止につながります。

障害を持つ元戦闘員と一般の障害者を対象にした農業技術訓練の様子

2011年からは元戦闘員に加え、一般の障害者もプロジェクトの対象としました。一般の障害者は社会と接点のない生活を送っている人が多く、支援を受けられないままでした。

異なる立場の人々を一つのクラスで訓練することにより、一般障害者は積極的に発言し行動する障害のある元戦闘員から刺激を受け、「障害があっても自立できる」と自信をつけ、「支援が必要な人」から「社会に貢献する人」に大きく成長。職業訓練後には元戦闘員と一般市民が共同でビジネスを始めるなど、それぞれの立場を越えた交流が生まれました。

障害者といった脆弱層や紛争の敗者たちなど、取り残されがちな人たちも平和な国づくりを支える一員となったのです。

プロジェクト終了後も、元受講者を訪ね、生活状況を調査

「プロジェクトが終わった時点で成果がでていても、それが定着しなければ、真に平和に貢献するとは言えません。その後も現地をモニタリング(定点観測)することで、プロジェクトの本当の成果を測ることができるのです」と語るのは、プロジェクト開始当初から関わる小向絵理JICA国際協力専門員です。

技能訓練を受けた視覚障害がある一般障害者に話を聞く小向専門員(右)

小向専門員たちは2014年のプロジェクト終了後から5年間、技能訓練の受講者を毎年訪問し、生活状況などについて調査しました。戦闘で腕を失くした男性は、裁縫に関する技能訓練を受けた後、洋裁店を開設、事業を継続させ、幹線道路沿いに店舗を移設するなど、技能訓練で得た技術が生活向上に役立っている例も多くみられました。

元受講者からは、「家に閉じこもるしかなかった生活が、職業訓練のおかげで社会に出ることができ、世界が変わった」、「JICAの研修のおかげで、収入や友人が増えるなど生活が変わった」といった回答のほか、「職業訓練が終わった後もJICAの方が自宅まで訪ねてくれるのが嬉しい、今後も来てほしい」という声もありました。

一方で、「今も戦闘員時代の夢に悩まされる」といった言葉に、ルワンダの人々にとって壮絶な内戦の経験は心に重く圧し掛かかっていることを改めて実感したと言う小向専門員。JICAのプロジェクトで構築したノウハウを発展させて、ルワンダ動員解除・社会復帰委員会が障害がある元戦闘員への支援を今も続けていることを「JICAの協力が紛争後の脆弱層への支援のきっかけになったのであれば嬉しい」と語ります。

ルワンダの取り組みは「アフリカの奇跡」

今年2月、この障害者支援プロジェクトとその後のモニタリングの結果を共有する「平和構築セミナー」が首都キガリで開催されました。ソマリア、スーダン、南スーダン、ナイジェリアなど、現在も紛争に苦しんでいる国々から参加した関係者からは、ルワンダのこれまでの取り組みに対し「まさに奇跡だ」との声があがりました。

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2月にルワンダの首都キガリで開催された「平和構築セミナー」の参加者たち

セミナーに出席したスーダン大統領府動員解除委員会のアブドゥラ・マームード・ゼイネラブディン計画調整課長は、「アフリカ諸国の平和構築の取り組みはお互いに学べる部分があり、今回のようなセミナーなどを通じて取り組みを共有することは重要」と語ります。

また、在ルワンダ・エジプト大使からは、2019年のアフリカ連合(AU)議長国として、エジプトは今年8月に横浜で開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)などの機会を捉え、日本とともにアフリカの平和構築推進をリードしていきたいという発言がありました。

ルワンダでのインクルーシブな障害者支援は、「人間の安全保障」や、「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げる「誰一人取り残さない」社会を実現する取り組みそのものと言えます。ルワンダは、25年前の虐殺という負の遺産を乗り越え、社会的弱者を取り込んだ多様な社会の実現を国を挙げて目指しています。JICAはルワンダでの成果をTICAD7にも反映し、そこから得た平和構築の知見を、他国でも広げるよう取り組んでいきます。