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【TICAD7に向けて~私とアフリカ~:Vol.10】ナイジェリアでSTI(科学技術イノベーション)の可能性を模索する:渡辺英樹JICAアフリカ部職員

2019年8月8日

今月28日から横浜で開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)で、大きなテーマの一つになると予想されるのが「イノベーション」です。アフリカ大陸最大の人口を誇るナイジェリアでは現在、「STI(科学技術イノベーション)」を活用した開発協力の可能性の検討が進められています。JICAは、ナイジェリアの政府機関がSTI分野の民間企業とアイデアソン形式(「アイデア」と「マラソン」を掛け合わせた造語で、マラソンを行うように数回にわたって優れた案をブラッシュアップすること)で話し合い、公共サービスの改善を図る取り組みをサポートしています。

東京で開催されたアイデアソンで、アフリカの現状を説明する渡辺職員(2018年6月)

シリーズ【TICAD7に向けて~私とアフリカ~】の第10回では、JICAでSTIを担当するメンバーとしてアフリカのイノベーションを推進する渡辺英樹職員に、ナイジェリアでアイデアソンに参加するスタートアップ企業が持つ可能性や、STIを通じた支援のこれからについて聞きました。

STIで社会課題を解決する 

【画像】

2019年5月ナイジェリアの首都アブジャで開催されたアイデアソンの様子。民間企業とナイジェリア政府関係者が、ナイジェリアの水問題についてオープンに話し合う。

「ナイジェリアはアフリカ最大のGDPを誇り、人口も約1億8500万人。一方、貧困人口は約8700万人で世界最大です(2018年CNN)。ナイジェリアの問題解決なくしてアフリカの問題解決はあり得ません。最近では、アフリカ初のユニコーン企業(注)として2019年4月にニューヨーク証券取引所に上場し『アフリカ版Amazon』との呼び声高いJUMIA(ジュミア)や、トラック版Uberと名高いKobo360(コボ360)など、民間企業、特にスタートアップ企業が非常に伸びつつある国です」と、ナイジェリアの現状について渡辺職員は話します。

(注)評価額10億ドル以上の非上場・設立10年以内のベンチャー企業

ナイジェリア政府とJICA共催のもと、同国で2019年5月に開かれたアイデアソン「ナイジェリア オープン イノベーション チャレンジ」は、そんなスタートアップ企業のSTIを既存の公共サービス改善に生かそうとする官民連携でのJICA初の試み。渡辺職員はJICA現地事務所とともにアイデアソンのプログラム構成やテーマについて協議を行い、水道事業の運営上の課題である「料金回収改善」をテーマに、民間企業からのアイデアを募りました。

「今回は、デジタル技術を適用できる可能性が高いながらも、まだ実施されていないセクターである『水分野』をターゲットに絞りました。例えば、ナイジェリアの一部地域では水道メーターそのものが取り付けられておらず、みなし料金での徴収や、徴収自体ができていないケースもあり、課題が山積みです。今回のアイデアソンがうまくいけば、現在の日本よりも先進的な料金回収の形が生まれる可能性もあります」

民間に開かれた場がイノベーションを生む 

渡辺職員がアイデアソンのような「民間に開かれた場」の創設を考え始めたのは2016年頃。人口1億人を超えるエチオピアでの駐在経験を踏まえて、よりインパクトを出せるような国際協力のあり方を考えていました。

ナイジェリア・アブジャのコ・ワーキングスペースの様子。ナイジェリアには技術者や起業志望者が集まって情報交換しながら仕事をする「テック・ハブ」と呼ばれる施設が55ヵ所ある。

ただ、当時はまだ「『JICAがやることではない』という風潮があったように感じていました」と振り返ります。風向きが大きく変わり始めたのは、それから間もなく。アフリカ・ルワンダのICT(情報コミュニケーション技術)立国としての注目、TICADに向けた民間セクター、イノベーションへの注目などが追い風となりました。

「アフリカでは、電子マネー、オンラインショッピング、ドローンによる輸血用血液の輸送など、新しいサービスが続々と誕生し、経済活動の活性化や社会課題の解決に役立ちつつあります。同時に、デジタルツールにより飛躍的な発展を遂げるリープフロッグ(かえる跳び)現象で、先進国が体験してきた発展過程とは違うスピード感がアフリカでは求められています。SDGs達成のためにも、いかにスピードとスケールを両立した支援を行っていけるかと考えたときに、STIに強い希望を感じます」

その希望の光こそが、独自にさまざまなサービスを生み出しているスタートアップ企業の活力です。アイデアソンという民間に開かれた方法に、社会イノベーションのチャンスを見出す機運が高まりつつあります。

「JICAもまた新しい支援を考える必要があります。現在、アフリカでは毎年1,200万人の若者が労働市場に出るものの(AfDB, 2015調べ)、その3分の1以上は、失業状態にあると言われています(2019年ILO調べ)。貧困削減のための雇用創出においても、STIによるイノベーションが期待されているのです」

アフリカは世界の成長のエンジン、第二のM-PESAをJICAは生み出せるか

ナイジェリアの旧首都であり世界有数の勢いを持つ都市ラゴス。ラグーン周辺に高層ビルが立ち並ぶ一方、アフリカ最大規模の水上スラム地帯も存在する。(2018年8月撮影)

「STI × アフリカ」という組み合わせに渡辺職員が大きな期待を寄せているのは、地域が秘めるポテンシャルの高さがあってこそ。

「2050年にはナイジェリアがインド、中国に次いで世界人口3位になる見込みです。遠い日本にいると感じにくいのですが、ナイジェリアに対する世界の注目度は非常に高まっています」

現時点でも、シリコンバレーのナイジェリア版として名付けられた『ヤバコンバレー』という一帯のスタートアップ企業は急成長。ハリウッドならぬ『ノリウッド』というナイジェリア映画は、アフリカ中で人気を博しています。

「近い将来、ナイジェリア、引いてはアフリカが世界の成長エンジンになることは間違いありません。その成長を支えるのがSTI。今月、横浜で開かれる『第7回アフリカ開発会議(TICAD7)』では、3年前のケニア・ナイロビ開催時よりも、STIによるイノベーションへの注目度が高くなることは間違いないでしょう。ケニアでのモバイルマネーサービスM-PESAの開発に、英国開発援助機関DFIDが関わっていた話は有名ですが、JICAも「第二のM-PESA」となるような、アフリカの社会を変えるような新しいイノベーションを生み出せるのか。将来、振り返ったときに『TICAD7が転換点だった』となることを期待します。私は、そのためのアイデアや情報を出すサポート役を務められればうれしいです」と、渡辺職員は目前に迫ったTICAD7を前に気持ちを引き締めます。

(プロフィール)
渡辺英樹(わたなべ ひでき)
2004年JICA入構。エチオピア事務所に2009年~2011年駐在し、その後JICA研究所研究員、アフリカ部などを経て、現在はナイジェリア総括、STI基礎調査などを担当。東京都出身。

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