【12月3日は国際障害者デー】障害者の人権を守るために:国連障害者権利委員会 石川准・静岡県立大学国際関係学部教授に聞きました

2019年12月2日

12月3日は、障害者の社会参加をより一層促進するため、国連が定めた「国際障害者デー」です。2011年に世界保健機関と世界銀行が発表した「障害に関する世界報告」によると、世界人口の約15%に当たる10億人は、何らかの障害を持って生活していると推定されていますが、障害者は、障害のない人と比較して、健康、教育、雇用、収入などの面で、より困難な状態に置かれています。

これまで国際社会は障害者の人権を守るために、さまざまな取り組みを行うなか、2006年12月の国連総会で採択されたのが、障害者の権利や尊厳を保護・促進するための国際条約「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)です。
2019年9月末現在、日本を含め180ヵ国が批准しています。

国連障害者権利委員会副委員長を務める石川准・静岡県立大学国際関係学部教授

この条約に基づき設置された国連障害者権利委員会の委員に2016年に就任し、2019年から副委員長を務めるのは、石川准静岡県立大学国際関係学部教授です。自らも全盲であり、JICAの障害者リーダー研修の講師も担当する石川教授に、障害者権利条約がもたらす意義や、障害者リーダー育成に向けた思いなどについて聞きました。

各国政府に障害者の権利保護を働きかける

「多くの国において国の障害者政策を変えることは、障害者やその家族、NGOなど市民社会の力だけでは限界があります」と石川教授は話します。「しかし、障害者権利条約によって、障害者権利委員会(人権条約体)が、その国の市民社会に代わって障害者の権利を保護、促進する制度と施策を、各締約国政府に対して勧告することができるようになりました」。

スイス・ジュネーブで開催される国連障害者権利委員会に出席する石川教授(左)

障害者権利条約では、締約国に対して、初回は条約発効後の2年以内、そしてその後は4年ごとに、条約の実施状況を国連障害者権利委員会に報告することを義務付けています。委員会には、障害者団体など市民社会からの報告も提出され、それらを踏まえ、権利委員会は政府代表団との建設的対話を行い、改善点をまとめた勧告(総括所見)を策定します。

石川教授は「各国政府には、障害者差別を禁止する法制度、障害者、特に障害のある女性を虐待や暴力から守るための法制度、アクセシビリティの促進、意思決定支援、地域での自立生活を可能にするための施策、インクルーシブ教育の推進を求めるなどの勧告を行います」と述べた上で「委員会に出席するため年に2回ジュネーブに滞在し、各国の条約実施状況を審査し総括所見をまとめる任務は、率直に言って責任・負担ともに重いものです。しかし、市民社会からの権利委員会への期待は非常に大きい。私たちはそれに応えるべく最善を尽くそうとしています」と語ります。

障害者と障害のない人が共に学ぶ『インクルーシブ教育』を進めたい

石川教授は1977年に全盲の学生として初めて東京大学に入学、その後同大学院を修了しました。1989年に静岡県立大学国際関係学部講師、1995年に同大学教授に就き、障害学などをテーマに研究を続けています。

大学院修了後に留学したアメリカで、本を読み上げる読書器や点字プリンターなど視覚障害者用の支援機器に触れたことがきっかけとなり、帰国後、プログラミングを学び、エンジニアとして、自動点訳ソフト、画面読み上げソフト、点字携帯端末などの製品の開発にも従事。2012年からは内閣府障害者政策委員会の委員長を務めており、障害者に関する法律の制定や改定、障害者政策の立案にも深く関わっています。

「私が若い頃は、障害者に対する偏見も強く、障害者をサポートする法律や制度、支援技術もほとんどありませんでした。当時と比べれば今は、あらゆる面で大きく変わりました」と石川教授は言います。「ただ、今も日本では、障害者と障害のない人が共に学ぶ『インクルーシブ教育』は立ち遅れているため、多くの健常者は大人になってから障害者と関わることになります。誰もが子どもの頃から障害者と自然に接するような社会を作ることが今後の目標です」。

未来の障害者リーダーを育てる

これまで国内外で得た知識や経験を活かして、石川教授はJICAが主催する途上国の障害者リーダーなどに向け、障害者の社会参加を促す研修で2018年から講師を担当しています。

昨年7月の、「アフリカ地域障害者のエンパワメントを通じた自立生活促進」に向けた研修、そして10月には「障害者権利条約実践のための障害者リーダー能力強化コース」で、石川教授はアフリカ、アジアなど各国の障害者リーダーや行政官に、障害者権利条約の世界的な動向と日本での実施状況について講義を行いました。

「研修員の方々には、待っているだけでは物事は前進しないということを伝えるようにしています」と言う石川教授。「自分たちがまず動くことで、行動を共にしてくれる人たちも出てきます」と自らの経験をもとに、未来の障害者リーダーたちにエールを送ります。

【画像】

昨年7月に実施された「アフリカ地域障害者のエンパワメントを通じた自立生活促進」に向けた研修の様子

※本記事は、「The Japan Journal」2019年11月/12月号掲載 「“Act First”: Promoting the Rights of Persons with Disabilities」の日本語訳を編集したものです。