私のなんとかしなきゃ! 紺野 美沙子 俳優、UNDP親善大使

あなたの時間を誰かのために

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©UNDP Tokyo/YukikoAbe

ある日、私のもとにニューヨーク国連本部から1通のファックスが届きました。開発途上国の援助機関である国連開発計画(UNDP)の親善大使を引き受けてほしいという依頼でした。それまで、政府開発援助(ODA)の広報番組でリポーターを務めたことがある以外には、国際協力との接点がなかった私でしたが、「私でも役に立てるのならば」と、貴重な機会に感謝し、引き受けることを決めました。

1998年の親善大使就任後、最初に訪れたのはカンボジアです。渡航前は地雷のイメージから不安が大きかったのですが、現地ではどこへ行っても地域の人が熱烈に歓迎してくれました。そうした喜びがある一方、実際に地雷対策センターを訪れたり、人身売買の現状を知ったりするにつれ、"ニュースで聞いていた問題は、本当に今、同じ地球上で起きているのだ"という当たり前の事実が胸に迫ってきたことも覚えています。

パレスチナでは、日本の無償資金協力で建設された病院を視察しました。すると、現地の方が「病院を建ててくれてありがとう」と私にお礼を言ってきたのです。支援に携わったわけではない私はどう答えたらよいか戸惑ってしまい、親善大使としての責任の重さを改めて痛感したのでした。国内ではODAが批判的に報道されることが少なくありませんが、日本の支援は現地の市民まで届き、社会の発展に貢献している、そう実感した瞬間でもあります。

途上国を公式訪問する際は、さまざまな方にお会いしますが、親善大使に就任してから20年近くたつ今でも、とても緊張し、大きなプレッシャーを感じます。国を支える政府関係者や、HIV/エイズで両親を亡くした孤児、不便な環境下で一途に活動を続けるJICAの青年海外協力隊など、あらゆる方と話して感じたことを、背伸びをせず、自分の言葉で伝えることが私の役目です。恵まれた日本にいる私たちだからこそ、誰かのためにできることがあるはず。そうした自分の思いや開発援助について知ってもらうため、全国各地の学校や自治体から依頼を受けて、講演活動も行っています。

親善大使としての活動を通じて、日本での何気ない生活にありがたみを感じるようになりました。朝、何事もなく目が覚めて平和な一日を過ごせること、一緒にご飯を食べる人がいること、スイッチ一つで電気がつくこと、挙げればきりがありません。幸せとは何だろう−。命や明日の暮らしを心配することなく、そう問えること自体が、恵まれている証拠なのかもしれません。

私たちは限られた時間を生きています。自分の時間を他の誰かのために少し使ってみる、そんな仲間を増やしていけたらと思っています。

PROFILE

東京生まれ。俳優として、テレビ・映画・舞台で活躍する一方、1998年に国連開発計画(UNDP)親善大使に任命され、これまでに10の国と地域を訪問。日本各地で講演会を開き、開発途上国の現状などを伝えている。著書に、親善大使として訪れた国についてつづった『ラララ親善大使』(小学館刊)がある。写真は、昨年8月のケニア視察の様子。

なんとかしなきゃ!プロジェクト

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」は、開発途上国の現状について知り、一人一人ができる国際協力を推進していく市民参加型プロジェクトです。ウェブサイトやFacebookの専用ページを通じて、さまざまな国際協力の情報を発信していきます。