2023年1月31日
岡野 真幸
派遣期間:2018年7月~2020年3月
職種:コミュニティ開発
配属先:キサラウェ県庁
任地:プワニ州キサラウェ県ムスィンブ郡事務所
出身:埼玉県
配属先は7つの村を管理しており、私の役割は各村の村落開発計画の支援・助言並びに住民グループの所得向上を図ることでした。各村を巡回訪問し、キーパーソンと意見交換、会議への参加、その他、養殖・養蜂・農業分野でセミナーを実施しました。特に注力したのが、淡水魚(ティラピア)の養殖です。きっかけは個人で魚を養殖している村人との出会いです。配属された当初はスワヒリ語もわからず、何をやったらいいのかもわからない状況でした。できることは散策くらいのものでしたので、フラフラ歩いては住民とおしゃべりをして、何か活動のネタはないかと考えあぐねていたものでした。貧しく、電気も水道も通っておらず、特産品がない村で何ができるのか、そんな時に生魚を販売している村人に出会いました。
この村では場所によって少し掘れば湧き水が出ましたので安価で簡単に養殖池を作ることができました。内陸のため魚の需要は十分にあり、またティラピアは病気に強く繁殖力も強いため稚魚を購入すれば継続して養殖が可能になります。そこで、養殖希望者を募り、郡職員とともに、養殖会社や養殖学校への視察ツアーを実施しました。養殖学校で教鞭をとっている海外協力隊員がいましたので、協力を仰ぎ、魚のエサ作りのセミナーを実施しました。これにより、魚のエサ代を半額に抑えることに成功しました。こうして私の赴任後、郡内の養殖をはじめた人は5名から24名へ、養殖池は20から54に増えました。ツアーやセミナー参加者のうち主要な人物には県や郡の職員、他の養殖を営む人たちとも知己になるよう人的ネットワークも構築したので、学んだことが今も養殖を始めた本人や周囲の生活のためになっていることを願っています。
何かを形にすることは難しく、また計画通りに進むことなど本当にわずかだと感じました。ある時、管轄村の中でも最貧といわれている村を訪問した際、「養殖をしてみたいからセミナーを実施してほしい」と村人から言われました。村の行政官とも相談をし、その翌週に実施することになりました。しかしセミナー当日に村に行ってみれば、誰もおらず。「今日は雨降ったし、そんなもんだよ」という行政官の反応でした。
またある時は、都市部で高く取引されているスイートコーンが村にはないため栽培促進をしようと考えました。種やコーンの市場販売価格、栽培方法を調べてどれだけ儲かるかをグラフ化し、実際にも村の裏手の畑に植えて栽培をしました。収穫後、皆に食べさせてみると「美味しい!」と大好評でした。しかし、それに続く人は誰もいませんでした。
今の仕事でも海外でセミナーを実施していますが、予定通りに機材・資材が届かない、あるいは故障している、人が来ない、などトラブルのオンパレードです。日本ならば当然準備されているはずだ、と怒り狂うか嘆き悲しむだろうシーンに出くわします。しかし隊員経験を経て、うまくいかないことが基本だと思うようになり、心の平穏を保ちながらトラブルに対処できています。大事なことは、失敗を失敗と思わず、諦めずにトライしていくことです。なんとか形にする力が身についたと思います。
現在、産業人材の育成に特化した一般財団法人に勤務しています。私の部署では、世界各国の使用者団体(注)及びその傘下企業の人事労務担当者を対象に国内外で研修を実施しています。主に日本の労使関係や人的資源管理に関する研修です。本当に色々な国の企業や団体で活躍されている方々と出会うことができ、とても新鮮です。また、2022年10月には国際連合工業開発機構(UNIDO)からの委託事業で、5S・カイゼンセミナーのファシリテーターとして約2年ぶりにタンザニアに戻ることができました。タンザニアでの経験やそこで培った言語能力を買われ任された仕事と思います。2023年1月からはバンコク駐在となります。日本とアセアン諸国の経済発展に寄与する国際団体の事務局で勤務することになりました。チャレンジして行けば機会にも恵まれるものだと感じています。まだどのように私自身が貢献できるのかわかりませんが、今後も社会と日本のために尽力したいと思います。
(注)日本の例でいうと、日本経済団体連合会(経団連)などがこれにあたる。