12年越しの結婚式 ウガンダ 写真・文:桜木 奈央子

【画像】

披露宴でのケーキ入刀。

12年越しの結婚式(2020年6月号掲載)

1980年代に内戦が起きたウガンダ。北部の町のグルに暮らすデニスさんは、2008年にソーシャルワーカーとして働くドリーンさんと結婚し、内戦後に帰還した子ども兵士のための職業訓練校で働いている。そんなデニスさんから「いつか結婚式をするから予定を空けておいて」と桜木さんが誘いを受けたのは12年前のこと。そして、2020年1月についにその日が訪れた。当日は多くの人たちが祝福の声を上げ、新郎新婦は友人たちと抱き合いながら、「結婚式ができる平和っていいね」と言葉を交わし、心ゆくまで食べ、笑い、踊った。楽しい時間をみんなで過ごせる幸せを切に感じた、12年越しの結婚式だった。

下記サイトに他の写真も掲載しています。

写真家より

「なぜ、ウガンダなのですか?」

長年同じ国に通っている理由を尋ねられることがよくある。その質問に答えながら心の中に広がる風景は、いつも同じだ。それはウガンダに到着して初めての朝、バスの車窓から見た景色。

金色に染まった地平線、鳥たちが黒いシルエットになって飛んでいくピンクの空。朝の光の中で畑を耕す女性、すれちがうバイクタクシー、制服を着た子どもたちの姿が車窓を流れていく。

今すぐにバスを降りてこの土地を歩きたいという衝動に駆られた。ここで暮らす人たちと話してみたい。一緒に食事をしてみたい。今も20年前のその衝動に突き動かされ、ウガンダに関わり続けているのかもしれない。

実際に降り立ったその地には、内戦があった。それでも前向きに生きようとする人びとの姿を伝えたくて写真を撮り始めた。深く関わりすぎて自由に身動きができなかったことや、結局自分は安全な国に帰っていく外国人だという疎外感もなかったわけではない。でも、カメラをお守りのようにしてウガンダに通い続けている。

赤ちゃんだった子が今では立派な母親になり、自分の赤ちゃんを抱いてカメラに向かってほほ笑んでくれる。避難シェルターで一緒に焚(た)き火を囲んだ子が青年になり、「あのときみたいに写真を撮ってよ」と無邪気に笑う。言われるままにファインダーをのぞくと、過去と今この瞬間が交差し絡み合い、どこかへ向かっていくように感じる。それを未来と呼ぶのかもしれない。

生まれ育つ場所を自分で選ぶことはできなくても、どこかに出かけて人と出会うことはできる。それを、たとえば写真に撮って他の誰かに伝えることもできる。写真は、別の生き方を疑似体験できる魔法の道具だと思う。

「なぜ、ウガンダなのですか?」と聞かれたら、それは「ここにしかない光があるから」。これからもあの朝の光を探し続けたい。

桜木 奈央子(さくらぎ・なおこ)

【画像】

桜木 奈央子さん

1977年、高知県生まれ、横浜市在住。2001年からアフリカに通い始め、取材を続ける。雑誌や新聞にフォトエッセイや書評を寄稿。小学校から大学まで講演や授業も多数行っている。著者に『世界のともだち ケニア 大地をかけるアティエノ』(偕成社)、『かぼちゃの下で ウガンダ 戦争を生きる子どもたち』(春風社)などがある。

ウガンダ

【画像】

首都:カンパラ

国名:ウガンダ共和国
通貨:ウガンダ・シリング
人口:4,272万人(2018年、世界銀行)
公用語:英語、スワヒリ語、ルガンダ語

JICAの取り組み

アフリカの東部、赤道上にあるウガンダ。1980年代から20年以上にわたって内戦が続き、北部地域で約200万人の国内避難民が発生したが、治安回復に伴い2009年以降から帰還が進み復興・開発が進んでいる。"難民に寛容な国"としても知られ、全土に周辺諸国から約140万人の避難民が滞在している。JICAは、北部地域の開発をはじめ難民と地域の住民が安心して共生できる社会づくりなどに取り組む。近年は年4~6パーセントの安定した経済成長率を記録している。

オンライン地球ギャラリーでは、mundi本誌掲載以外の写真や、写真家のインタビュー動画を公開中。