PROJECT CYCLE JICAが推進するプロジェクトは「プロジェクトサイクル」と呼ばれる4段階を経て実施されます。各段階の業務を担当部署が丁寧に実施し、受け渡していくことで、常にプロジェクトの質の向上を図っています。

PROCESS 02 [ プロジェクト形成 ] 多くの調査・分析を総合し様々な関係者とともに具体的なプロジェクトの計画をつくりあげる

篠原 悠子 Yuko Shinohara

東南アジア・大洋州部 東南アジア第五課
2014年入構 教養学部 国際関係学科

丸山 隆央 Takao Maruyama

人間開発部 基礎教育グループ 基礎教育第二チーム
2002年入構 教養学部 国際関係学科

ABOUT PROJECT CYCLE

途上国の開発の構想を描き
協議を通じて計画をつくり上げていく

プロジェクト形成とはどのような段階になりますか

丸山:国別の協力戦略や課題別の協力方針に基づいて、事業展開の構想を描き、計画を策定するのが「プロジェクト形成」のプロセスです。相手国の人々、専門家の方々や在外事務所の担当者との意見交換を通じて相手国の開発課題に対する有効な施策を構想し、人材や予算等を想定しながら、相手国との協議を通じてプロジェクトの計画を策定していきます。本格的にプロジェクトを開始する前段階に、小規模なパイロットプロジェクトを実施し、その結果をもとにプロジェクトの計画を策定することもあります。プロジェクト形成の段階で、JICA職員には、相手国の人々とコミュニケーションをとりながら、専門家の方々の力を借りて国創りの構想を描き、限られた準備期間の中でその構想を具体化するプロジェクトの計画を相手国の人々と練り上げていく役割が求められます。

篠原:私は現在、フィリピンに対して有償資金協力(円借款)による地下鉄建設プロジェクトの案件形成を担当しています。この案件でお話しすると、まず、プロジェクトとして具体化される前段階に、JICAが「運輸交通ロードマップ調査」を行っていました。この「運輸交通ロードマップ調査」ではフィリピンのマニラ首都圏の持続的発展に向けて、どのような課題があり、それに対して今後どのような都市構造の転換や地域開発が必要か、そのためにはどのような運輸・交通インフラを整備していくのがよいか、という提言がフィリピンの関係省庁や大学の研究機関、開発コンサルタントなど多くの関係者との対話を通じて導き出されていました。その提言をベースに、これからマニラ首都圏における地下鉄建設を具体的なプロジェクトとして形成していくところです。

多種多様な調査・検討のテーマ
求められるコミュニケーションと
マネジメント力

有償資金協力のプロジェクト形成はどのように進みますか

丸山:有償資金協力による地下鉄建設プロジェクトは事業規模が大きく、具体的な調査・検討を要する様々な事項があり、プロジェクト形成の業務は多岐にわたりますよね。

篠原:準備調査だけでも、そもそも地下鉄をどこに通すかという線形検討にはじまり、需要予測、車両やシステムのスペック、運行計画、施工計画、建設費用の概算、事業実施スケジュール、環境影響評価や住民移転計画、建設業者やコンサルタントの選定方法、必要な土木工事や資機材・車両の調達方法など、検討事項は非常に多いですね。さらに、開通後の運営維持管理体制や関係者の人材育成、他路線の将来計画との整合性といったことも検討しなければなりません。こうした一つひとつのテーマについて、JICAの中では国担当の地域部を中心に、セクター担当の課題部や、国の信用力や環境社会配慮を審査する審査部、技術審査や調達監理などを担うインフラ技術業務部などの様々な部署が関わり、プロジェクト形成を行います。現地では在外事務所が相手国政府との日々のやり取りを担い、円滑な案件形成を促進します。他にも、専門家や大学の先生に助言を頂くこともありますし、開発コンサルタントなどに調査業務の委託も行います。相手国側も運輸・交通分野を担当する運輸省だけでなく、円借款の借入窓口となる財務省、投資計画の決定を行う国家経済開発庁、関連地方自治体など、非常に多くの組織や人が関わっています。こうして導き出された調査・検討に基づいて事業計画書を作成し、JICAの審査や日本・フィリピン両政府の承認を通ってようやく、相手国との円借款の融資契約に進むことができます。

丸山:様々な関係者とともに調査・検討を行い、プロジェクト実施段階におけるリスクを事前に想定し、その対応策を含めた事業計画をまとめるには、コミュニケーション力やマネジメント力が必要とされますし、まとめ上げた計画書はまさにその集大成と言えますね。

篠原:確かに長い時間をかけて準備しますし、関わる人も非常に多いので苦労もしますが、事業の審査が通り、事業実施が決定されたときは達成感がありますね。また、多くの人に出会い、その知見に触れて様々なことを学ぶことができるのも、プロジェクト形成業務の魅力です。

課題解決の必要性と意義を
共有しながらプロジェクトを形成する

技術協力のプロジェクト形成はどのようなものですか

丸山:私は、主にフランス語圏のアフリカにおける、基礎教育分野を担当しています。基礎教育分野の技術協力のプロジェクト形成では、調査を通じ、相手国における基礎教育分野の課題を中長期的観点と短期的観点で分析し、相手国教育省との協議を通じて対象とする課題、教育段階、教科や学習領域等を特定します。その上で、課題を解決するために有効な方策を専門家の助言を得ながら検討し、相手国教育省との協議を通じて計画を策定していきます。中長期的観点ではカリキュラムや教科書開発、短期的観点では子どもの読み書き・計算向上のための補習活動等といった方策がありますが、カリキュラムや教科書開発、そのための人材育成には時間がかかります。短期的視点での教育開発と中長期的視点での教育開発について、見通しを立てて相手国教育省との見解をすりあわせていくことが重要です。
また、見通しを立てるにあたっては、相手国の教育行政は政策と現実が乖離していることが多いので、国の指標のみならず、現場や実態を把握することも大切です。相手国の教育関係者といっても、教育省の大臣や事務次官から学校の先生、子どもまで、様々です。JICA職員はそれら様々な関係者とのコミュニケーションを通じ、その国の開発課題を立体的に捉える役割を担っています。調査、相手国教育省との協議を通じ、プロジェクト目標や成果等の概要を記載した「プロジェクト・デザイン・マトリックス」を含む協議議事録にとりまとめ、事業計画を作成していきます。事業計画書は、その事業を通じて実現しようとしている価値や理念を表すものでもあると思います。

篠原:確かに教育開発の技術協力は、どの時点での成果を目指していくかにより、協力内容が変わりますね。今、読み書き・計算ができずに不安定な生活を余儀なくされる子どもを救うことと、カリキュラムを含めてその国の10年先の教育を改善することは、プロジェクトの内容が異なると思います。また有償資金協力でも、プロジェクト形成の過程で必要に応じて日本や第三国の視察を企画し、その過程を通じて相手国関係者の理解を広げ、共通認識を図っていくことがあります。私が担当する地下鉄事業でも、フィリピンの運輸大臣を横浜の地下鉄工事現場にお招きし、地下鉄工事がいかに大変で時間がかかるかを直に見て頂くことで、ようやく納得頂いたという経験があります。つまり、相手国関係者との共通理解を構築し、納得感を得ながら計画を策定していくことが重要ですね。

ゼロから事業を構想していく
自由度の高さが魅力

プロジェクト形成の醍醐味はどういうところにありますか

篠原:プロジェクト形成は、事業をゼロから立ちあげる業務です。事業の実施主体である相手国政府や各分野の専門家などと協議しながら、自分たちなりにプロジェクトをデザインし、工夫してつくり込んでいくことができる、この自由度の高さが醍醐味ですね。先ほどご紹介した例でも、公共交通インフラがなかったところに新たに地下鉄が通り、新たなサービスや人々の新しいライフスタイルがはじまる、それを想像するだけでワクワクします。相手国の経済、社会、人々の暮らしを豊かにしていくきっかけに関わることができるのは大きなやりがいですね。

丸山:プロジェクト形成の醍醐味は、自分の「想像力」を最大限に働かせ、専門家の方々や相手国の人々と解決策を「創造」していくことができることにあると思います。読み書き・計算のできない子どもを想像できなければ、その解決策を創造することはできません。JICA職員には、相手国の人々とのコミュニケーションを通じて、その国に暮らす人々を想像する感性が求められていると思います。また、自分の考えに固執することなく、目指す目標に向けて柔軟に解決策を求めていく姿勢も重要ですね。
プロジェクト形成という視点でいいますと、国単位のみではなく、地域単位で考える視点も重要です。アフリカ地域という単位で課題を設定し、アフリカ地域の教育を変えていくこともできます。もちろん、JICAだけではできませんので、アフリカの国々を支援していくためのパートナーシップを他ドナーと構築し、アフリカの国々がお互いの経験を共有する取り組みを支援していく必要があります。
開発課題は複雑化し、専門化してきていますが、その分、JICA職員の役割も高まり、仕事はさらに面白くなっていくと思います。例えば、アフリカの子どもが健全に成長するためには読み書き・計算の能力向上だけでなく、健康・栄養や、障害児や困難な問題を抱えた子どもを包摂することが必要です。専門性を深めつつも分野を越えた視点を持って、アフリカの子どものために取り組める仕事はやりがいがありますね。

PROCESS 02 [ プロジェクト形成 ] 多くの調査・分析を総合し様々な関係者とともに具体的なプロジェクトの計画をつくりあげる

篠原 悠子 Yuko Shinohara

東南アジア・大洋州部 東南アジア第五課
2014年入構 教養学部 国際関係学科

丸山 隆央 Takao Maruyama

人間開発部 基礎教育グループ 基礎教育第二チーム
2002年入構 教養学部 国際関係学科

ABOUT PROJECT CYCLE

途上国の開発の構想を描き
協議を通じて計画をつくり上げていく

プロジェクト形成とは
どのような段階になりますか

丸山:国別の協力戦略や課題別の協力方針に基づいて、事業展開の構想を描き、計画を策定するのが「プロジェクト形成」のプロセスです。相手国の人々、専門家の方々や在外事務所の担当者との意見交換を通じて相手国の開発課題に対する有効な施策を構想し、人材や予算等を想定しながら、相手国との協議を通じてプロジェクトの計画を策定していきます。本格的にプロジェクトを開始する前段階に、小規模なパイロットプロジェクトを実施し、その結果をもとにプロジェクトの計画を策定することもあります。プロジェクト形成の段階で、JICA職員には、相手国の人々とコミュニケーションをとりながら、専門家の方々の力を借りて国創りの構想を描き、限られた準備期間の中でその構想を具体化するプロジェクトの計画を相手国の人々と練り上げていく役割が求められます。

篠原:私は現在、フィリピンに対して有償資金協力(円借款)による地下鉄建設プロジェクトの案件形成を担当しています。この案件でお話しすると、まず、プロジェクトとして具体化される前段階に、JICAが「運輸交通ロードマップ調査」を行っていました。この「運輸交通ロードマップ調査」ではフィリピンのマニラ首都圏の持続的発展に向けて、どのような課題があり、それに対して今後どのような都市構造の転換や地域開発が必要か、そのためにはどのような運輸・交通インフラを整備していくのがよいか、という提言がフィリピンの関係省庁や大学の研究機関、開発コンサルタントなど多くの関係者との対話を通じて導き出されていました。その提言をベースに、これからマニラ首都圏における地下鉄建設を具体的なプロジェクトとして形成していくところです。

多種多様な調査・検討のテーマ
求められるコミュニケーションと
マネジメント力

有償資金協力のプロジェクト形成は
どのように進みますか

丸山:有償資金協力による地下鉄建設プロジェクトは事業規模が大きく、具体的な調査・検討を要する様々な事項があり、プロジェクト形成の業務は多岐にわたりますよね。

篠原:準備調査だけでも、そもそも地下鉄をどこに通すかという線形検討に始まり、需要予測、車両やシステムのスペック、運行計画、施工計画、建設費用の概算、事業実施スケジュール、環境影響評価や住民移転計画、建設業者やコンサルタントの選定方法、必要な土木工事や資機材・車両の調達方法など、検討事項は非常に多いですね。さらに、開通後の運営維持管理体制や関係者の人材育成、他路線の将来計画との整合性といったことも検討しなければなりません。こうした一つひとつのテーマについて、JICAの中では国担当の地域部を中心に、セクター担当の課題部や、国の信用力や環境社会配慮を審査する審査部、技術審査や調達監理などを担うインフラ技術業務部などの様々な部署が関わり、プロジェクト形成を行います。現地では在外事務所が相手国政府との日々のやり取りを担い、円滑な案件形成を促進します。他にも、専門家や大学の先生に助言を頂くこともありますし、開発コンサルタントなどに調査業務の委託も行います。相手国側も運輸・交通分野を担当する運輸省だけでなく、円借款の借入窓口となる財務省、投資計画の決定を行う国家経済開発庁、関連地方自治体など、非常に多くの組織や人が関わっています。こうして導き出された調査・検討に基づいて事業計画書を作成し、JICAの審査や日本・フィリピン両政府の承認を通ってようやく、相手国との円借款の融資契約に進むことができます。。

丸山:様々な関係者とともに調査・検討を行い、プロジェクト実施段階におけるリスクを事前に想定し、その対応策を含めた事業計画をまとめるには、コミュニケーション力やマネジメント力が必要とされますし、まとめ上げた計画書はまさにその集大成と言えますね。

篠原:確かに長い時間をかけて準備しますし、関わる人も非常に多いので苦労もしますが、事業の審査が通り、事業実施が決定されたときは達成感がありますね。また、多くの人に出会い、その知見に触れて様々なことを学ぶことができるのも、プロジェクト形成業務の魅力です。

課題解決の必要性と意義を
共有しながらプロジェクトを形成する

技術協力のプロジェクト形成は
どのようなものですか

丸山:私は、主にフランス語圏のアフリカにおける、基礎教育分野を担当しています。基礎教育分野の技術協力のプロジェクト形成では、調査を通じ、相手国における基礎教育分野の課題を中長期的観点と短期的観点で分析し、相手国教育省との協議を通じて対象とする課題、教育段階、教科や学習領域等を特定します。その上で、課題を解決するために有効な方策を専門家の助言を得ながら検討し、相手国教育省との協議を通じて計画を策定していきます。中長期的観点ではカリキュラムや教科書開発、短期的観点では子どもの読み書き・計算向上のための補習活動等といった方策がありますが、カリキュラムや教科書開発、そのための人材育成には時間がかかります。短期的視点での教育開発と中長期的視点での教育開発について、見通しを立てて相手国教育省との見解をすりあわせていくことが重要です。
また、見通しを立てるにあたっては、相手国の教育行政は政策と現実が乖離していることが多いので、国の指標のみならず、現場や実態を把握することも大切です。相手国の教育関係者といっても、教育省の大臣や事務次官から学校の先生、子どもまで、様々です。JICA職員はそれら様々な関係者とのコミュニケーションを通じ、その国の開発課題を立体的に捉える役割を担っています。調査、相手国教育省との協議を通じ、プロジェクト目標や成果等の概要を記載した「プロジェクト・デザイン・マトリックス」を含む協議議事録にとりまとめ、事業計画を作成していきます。事業計画書は、その事業を通じて実現しようとしている価値や理念を表すものでもあると思います。

篠原:確かに教育開発の技術協力は、どの時点での成果を目指していくかにより、協力内容が変わりますね。今、読み書き・計算ができずに不安定な生活を余儀なくされる子どもを救うことと、カリキュラムを含めてその国の10年先の教育を改善することは、プロジェクトの内容が異なると思います。また有償資金協力でも、プロジェクト形成の過程で必要に応じて日本や第三国の視察を企画し、その過程を通じて相手国関係者の理解を広げ、共通認識を図っていくことがあります。私が担当する地下鉄事業でも、フィリピンの運輸大臣を横浜の地下鉄工事現場にお招きし、地下鉄工事がいかに大変で時間がかかるかを直に見て頂くことで、ようやく納得頂いたという経験があります。つまり、相手国関係者との共通理解を構築し、納得感を得ながら計画を策定していくことが重要ですね。

ゼロから事業を構想していく
自由度の高さが魅力

プロジェクト形成の醍醐味は
どういうところにありますか

篠原:プロジェクト形成は、事業をゼロから立ちあげる業務です。事業の実施主体である相手国政府や各分野の専門家などと協議しながら、自分たちなりにプロジェクトをデザインし、工夫してつくり込んでいくことができる、この自由度の高さが醍醐味ですね。先ほどご紹介した例でも、公共交通インフラがなかったところに新たに地下鉄が通り、新たなサービスや人々の新しいライフスタイルが始まる、それを想像するだけでワクワクします。相手国の経済、社会、人々の暮らしを豊かにしていくきっかけに関わることができるのは大きなやりがいですね。

丸山:プロジェクト形成の醍醐味は、自分の「想像力」を最大限に働かせ、専門家の方々や相手国の人々と解決策を「創造」していくことができることにあると思います。読み書き・計算のできない子どもを想像できなければ、その解決策を創造することはできません。JICA職員には、相手国の人々とのコミュニケーションを通じて、その国に暮らす人々を想像する感性が求められていると思います。また、自分の考えに固執することなく、目指す目標に向けて柔軟に解決策を求めていく姿勢も重要ですね。
プロジェクト形成という視点でいいますと、国単位のみではなく、地域単位で考える視点も重要です。アフリカ地域という単位で課題を設定し、アフリカ地域の教育を変えていくこともできます。もちろん、JICAだけではできませんので、アフリカの国々を支援していくためのパートナーシップを他ドナーと構築し、アフリカの国々がお互いの経験を共有する取り組みを支援していく必要があります。
開発課題は複雑化し、専門化してきていますが、その分、JICA職員の役割も高まり、仕事はさらに面白くなっていくと思います。例えば、アフリカの子どもが健全に成長するためには読み書き・計算の能力向上だけでなく、健康・栄養や、障害児や困難な問題を抱えた子どもを包摂することが必要です。専門性を深めつつも分野を越えた視点を持って、アフリカの子どものために取り組める仕事はやりがいがありますね。