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関心領域を共有・発展させていく「10%共有ルール」

JICAだからこそ可能な
マルチセクトラルな連携
によって、複雑化する
グローバルな課題への
解を探求していく。

松野雅人

Masato MATSUNO

経済開発部 農業・農村開発第5チーム
国際関係論 アジア・アフリカ地域研究専攻
/2016年入構

「10%共有ルール」とは?

自らが所属する部署の所掌外の業務であっても、自身が有する専門能力や知見を組織内で共有・活用、あるいは組織内外に向けて発信していく活動について、上司と相談・了解のうえ、“業務量の10%以内”を目安として、個人の人事目標設定に組み入れることができる制度。自身の専門性や関心領域を追求していくため、職員全体の約20%が活用している。

“栄養改善”というマルチセクトラルな開発課題との出会い

学生の頃からアフリカの食料問題に興味があり、アフリカの農業セクターに関わりたいと考えてJICAを志望したのですが、入構以来私が辿ってきたキャリアパスは必ずしも想定通りではありませんでした。最初の配属は人間開発部で、アジアの保健医療セクターの担当。配属が発表された時は、保健の“ほ”の字も考えていなかったので少なからず戸惑いました。その後も、東・中央アジア部では大型円借款が動く電力セクターを中心に手掛け、直近で赴任していたセネガル事務所でも、主に携わったのは農業ではなく水産セクターでした。それでも振り返ってみると、これまで体験してきた業務はセクターや地域の多様性に溢れ、ワクワクの連続でした。どの部署でも新しい専門知識やモノの見方を学び、セクターや地域の共通点・相違点を横断的に比較する視座を獲得することができました。回り道を経て、今、私が自分自身のキャリアで大事にしたいと考えているのは、一元的な視点では捉えきれない複雑系の課題に、セクターや地域の壁を越えて取り組み、価値を創出する姿勢です。そして、それを実現する場のひとつが、「10%共有ルール」も活用しながら長く関わり続けてきた、“栄養ナレッジ・マネジメント・ネットワーク(以下、“栄養KMN”)”と言えるでしょう。

 この“栄養KMN”は、“栄養改善”というセクター横断的な開発課題に取り組むため、保健、農業、水・衛生、海外協力隊、民間連携等の、さまざまなセクターやスキームの担当者が組織横断的に集い、活動するタスクフォースです。私が入構した2016年は、第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)においてJICAが「食と栄養のアフリカイニシアティブ(IFNA)」を立ち上げたタイミングでもあったため、私が所属していた保健グループとIFNA担当の農業グループのメンバーを中心に活発に議論が行われていました。もともと農業分野への関心が強かった自分にとって、普段はアジアの保健案件に携わりながら、アフリカの農業担当からも最新の情報を得つつ、ネットワーキングができる場があるのは大きな刺激になると考え、自ら希望してこのタスクフォースに参加したのです。

 結果的に“栄養KMN”への参加は、単に農業に対する興味・関心を満たすだけでなく、今に至る私の問題意識を深め、キャリアテーマを見いだしていくうえで、非常に大きな意味を持つものになったと思います。なぜか? それは栄養改善が、縦割りを打破してマルチセクトラルに取り組むことが鍵となる開発課題だったからです。例えば、低栄養の子供が目の前にいたとして、保健的な取り組みをしただけでは栄養価の高い食料が手に入らないままで、問題は解決しないかもしれない。また、食事が改善したとしても手洗い啓発をしないと下痢が続いて、やはり問題は解決しないかもしれない。そこで、各セクターの知見を持つ人々が共同で複合的な要因を分析し、対策を講じることで初めて解決策を見いだせる課題、それが栄養改善なのです。この“栄養KMN”に参加したことが、私の分野横断的/マルチセクトラルな姿勢を育む契機になりました。

 この“栄養KMN”に関わり続けるうえで活用させてもらったのが「10%共有ルール」という制度。これは、上長の了解をとったうえで、業務量の10%程度を目安に、自身の所属部門以外の興味・関心を持つ業務に携わることができるというJICA内の仕組みです。私はこれを、2018年から2年間所属した東・中央アジア部から活用しました。先にもお話しした通り、“栄養KMN”は人間開発部保健グループなどが中心に運営するタスクフォースで、発足当初私は同部門に所属していましたから、そこに参加することは“本業”の一部でした。しかし、東・中央アジア部に異動すると本業ではなくなってしまう……せっかく蓄積してきた栄養改善に関するナレッジや組織内のネットワーク等を維持し、さらに発展させていきたいと考えた私は、「10%共有ルール」の活用を上司に相談し、タスクフォースでの活動を継続することにしたのです。その後、広報班長を拝命したこともあり、私の“栄養KMN”への関わり方もぐっと深化し、JICAの一般向け広報誌「mundi」で、
栄養改善特集号の編集に関わったり、広報イベント向けに大人も子供も楽しみながら栄養改善の課題を学べるカードゲームを開発したりといった、対外発信活動を積極的に展開しました。また、タスクフォース内で初対面のメンバー同士の議論をより活性化させていくために、“ワークショップデザイナー”という資格の勉強をし、誰もが発言しやすい場づくりやファシリテーション技術等に活かすといった活動も行っていましたね。

壁を越えて協働し、複雑化する課題に向き合う

その後、セネガル事務所に赴任してしばらく“栄養KMN”の活動からはやや離れていましたが、2023年に帰任して配属となったのが経済開発部農業・農村開発第5チーム。ここで与えられたミッションの一つが「食と栄養のアフリカイニシアティブ(IFNA)」で、これは、私にとってはまさに栄養改善どんぴしゃりの業務でした。少し驚きましたが、「10%共有ルール」を通じた私の“研鑽”が、人事部をはじめ組織内にアピールできていたのかなという感慨もありました。先にも少し触れましたが、IFNAは、2016年のTICAD Ⅵで採択されたJICAが主導するイニシアティブで、全アフリカ2億人の子どもたちの栄養改善を目指す目標を掲げて、活動を行ってきました。このIFNAは2025年を目標年度とするイニシアティブですが、これまでの活動をどのように総括し、ポストIFNAの枠組みをどのように描いていくか……それが、これから私が取り組むテーマです。私はIFNAが生まれた2016年以来“栄養KMN”での活動を続け、当時IFNAを担当していた農業チームのメンバーとも交流があったので、ある意味現在のJICAにおいて、IFNAの変遷を最も良く理解している一人だろうと思います。コロナ禍を経て、農業、保健、海外協力隊等々のセクター、スキーム間の連携もやや薄れてしまった感もありますが、それを再びつなぎ直して、さまざまな部署が横断的に連携することで、より統一的、総合的な協力ができる体制を整えていく……そして、10年にわたって続けてきたIFNAをどのように着地させ、今後の途上国の栄養改善をリードしていく新たな枠組みを構想していくことが、今の私の最も重要なテーマだと考えています。

 先に、栄養改善というのは非常にマルチセクトラルなアプローチが求められる課題だというお話をしましたが、ポストIFNAを構想していくことはある意味で、JICAの総合力が問われるテーマではないかと私は考えています。他のドナー、国際機関と比較して、JICAの強みのひとつは、あらゆるセクターを対象とし、さまざまな協力スキームを擁する総合力にあるように思います。栄養改善に取り組む他の国際機関、例えばFAO(国連食糧農業機関)やWFP(国連世界食糧計画)は農業系の機関ですし、WHO(世界保健機関)やUNICEF(国連児童基金)は保健や教育系の機関ですから、彼らは必ずしも、マルチセクトラルなアプローチに長けているわけではありません。農業と保健の連携はいうまでもなく、さまざまなセクターに横串を通すことで新たな栄養改善アプローチを見出し、世界に対して発信していく。それは総合力を有するJICAだからこそできることではないかと私は考えています。ただ、そうした構想を実現していくためにはJICAの縦割り体制も溶かしていく必要があるので、まずは組織内のマルチセクトラルな意識の浸透から進めていこうと動き始めているところです。

 最近のキャリアの考え方では、“T型人材/H型人材”といった人材モデルが話題になることがありますが、私自身は、この“H型人材”のようなキャリアの形を目指したいと考えています。ここで言う“T型人材”とは、横に幅広い知識を持ち、縦に深い専門性を有する人材を意味し、対して“H型人材”は、自らも専門性を持ちながら、他の専門性を有するスペシャリストとつながることで知の結合をもたらし、イノベーションを促進する人材といえるでしょう。簡単に言えば、私は農業の人間だから保健のことはわかりません、などという姿勢ではなく、もっとオープンマインドに、多様なテーマ、課題を理解して、結び付ける姿勢を持つということです。私は栄養改善という課題に出会い、「10%共有ルール」を活用しながらこの課題に向き合うやりがいを考え続けてきました。そのなかで、各部署が縦割りで壁を作るのでなく、協働してひとつの課題に取り組んでいく重要性と難しさを感じてきました。ますます複雑化していくさまざまなグローバルな課題に対して、JICAだからこそ可能なマルチセクトラルなアプローチによって解を見いだし、世界に貢献していく……。JICAは個人のマインド次第でそれができる組織、そしてそれが求められる組織だと思います。JICAのなかでそうした課題解決を実現していくことが、今の私の目標です。

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