約20年の時を経て繋がる絆 —国際協力活動の原点—

【写真】坂本 真弓日本貿易振興機構(JETRO)・NGO LiTA代表
坂本 真弓

国際協力への道

象のお守り

1994年、広島でアジア大会が開かれたことを覚えておられる方も多いと思います。
各地区で応援国が決められており、私が住んでいた広島市西区己斐(こい)はスリランカの応援地区でした。
当時、小学4年生だった私は、初めて接する外国人に緊張しながら、スリランカの選手との交流会に参加しました。ある一人の選手が、私の手のひらに小さな象のお守りを握らせ、プレゼントしてくださいました。
頂いた可愛い小さな象のお守りを大切に戸棚に飾り、ことあるごとにスリランカのことを想っていました。この思い出が、私の海外との接点の始まりです。

約20年の時を経て繋がる絆

2015年奨学金授与式

JICAの活動(「世界の笑顔のために」プログラム)

大学1年の時、市主催のスタディーツアーでバングラデシュへ行ったことをきっかけに、本格的に国際協力の道を歩み始めました。
社会人になってからも国際協力活動を続け、2011年に個人奨学基金を創り、バングラデシュの子どもたち年間約20名に向けた奨学金事業を始めました。
事業が2年目を迎える頃、より深く国際協力に必要な知識を得るために、働きながら大学院に進学してバングラデシュの社会的企業の研究をしました。大学院修了後、JICAの民間連携ボランティアに応募し、任国がバングラデシュに決まりかけていたところで、バングラデシュでテロが起きて任国の変更を余儀なくされスリランカを選びました。
このように意図せず選んだスリランカでしたが、国際協力の道を歩むことになった原点はスリランカの選手に頂いた象のお守りであることに気が付き、不思議な縁を感じました。

スリランカに着任し、シンハラ語も話せるようになったころ、スポーツ省を訪問して「1994年に、私に象のお守りをくれた方に御礼を言いたいので探してほしい」と経緯を話し、ご協力をお願いしました。無謀なお願いでしたが、「私は、アジア大会のスリランカ代表団の団長です。すぐに調べて差し上げます。」と告げるとともに当時の選手の方々に片っ端から電話をしてくださいました。
その結果、翌日、一人の女性の選手とお会いすることができました。彼女のご自宅にお伺いすると、当時の広島の子どもたちの写真や沢山のメダルが綺麗に飾ってありました。彼女は1冊のアルバムをめくりながら、「あなたにお守りをあげたのは彼だと思う。」と写真に写る一人の男性を指差し、「こんな優しいことをするのは彼しかいない。でも、彼は数年前に亡くなってしまったの。でも、あなたの感謝する気持ちはきっと彼に伝わっているわ。」と仰ってくれました。そして、彼女は続けます。
「私、オリンピックスリランカ代表選手団の団長として東京2020に行くのよ!東京で必ず会いましょうね!」と。
約20年の時を経て、繋がる絆。誰かが意図せずした行いが、約20年の時を経て、一人の人生を変え、再び繋がった瞬間でした。

現在の活動

2020年の奨学生23名

私は、2018年に途上国の子どもたちの教育支援をする国際NGO LiTA(利他)を設立し、バングラデシュの奨学金事業に加え、スリランカで植林を通した環境教育やSDGsの講演等を行っています。
奨学金事業は、2020年はCOVID-19の影響で例年なら5月に行う奨学金授与式が12月に延期となり、1,600人の全校生徒の前ではなく簡単な授与式となりましたが、23人の生徒に奨学金を授与することができました。授与式の後すぐに現地から送られた写真と動画からは、学費もままならない貧しい家庭出身の成績優秀な生徒への継続的な支援に対する学校と生徒からの深い感謝の気持ちが伝わってきました。奨学金事業は、2020年で7年目、通算での奨学生は143名となりました。

象のお守りのように、すぐに結果が出なくても、ほんの小さな行動が、子どもたちの未来や将来の選択肢を拡げることに繋がってほしいという想いを持って、奨学金事業や植林活動など、これからも途上国のこどもたちの教育をサポートしていきます。
なお、現在は、日本貿易振興機構(JETRO)イノベーション・知的財産部で日本のスタートアップ企業の海外進出を支援しており、これまでの経験を活かしています。