【実施報告】国際フェスタ2022/元サッカー日本代表 巻誠一郎さんが広島で語る(後半戦編)

2022年12月28日

後半戦「巻さんが示す被災地との繋がり、オシム氏の教え」

会場にも熱が入ります

巻さんとJICAの接点は今回のトークショーが初めてではありません。
2019年に地震の被害に遭ったインドネシアの復興支援の一環で、Jリーグのユニフォームを現地の子どもたちに届けるプロジェクトを共に行っています。インドネシアでも、被災地でも、1つのボールがあればサッカーが始まり、そこに言葉はいりません。Jリーグの各チームのユニフォームを渡された子どもたちはみんな笑顔を浮かべてサッカーに興じ、子どもたちが笑顔だと周りにいる大人も笑顔になる。そのような空間で、スポーツの持つ力を改めて認識したという巻さんですが、被災地支援・復興支援に関心を抱くようになったのは、2011年に起きた東日本大震災がきっかけだったと語ります。

地震発生時は中国にいたという巻さん、帰国後、被災地から離れている地域ではどこか「他人事」のような空気感を感じたそう。そこで、出身地である熊本県で、親交のあるサッカー選手を呼んでチャリティイベントを企画。それが、現在まで続く巻さんの被災地支援の始まりになったのですが、さらに強く関わるようになったのは、2016年に地元熊本県を襲った地震。当時、Jリーグ「ロアッソ熊本」でプレーしていた巻さんはチームとして、個人として、できる支援を考えて行動に移していきます。2019年には、2018年に発生した西日本豪雨災害のチャリティとして、サンフレッチェ広島のOB選手たちとともにサンフレッチェ広島の試合会場で試合前に募金活動を行っており、このような経験から、現在は日本サッカー協会の復興支援委員会の委員長として、日々防災・減災への啓発活動を続けています。

巻さんが被災地域に赴いた際に、被災者が真っ先にする言葉は「まさか自分が」だそうです。日頃の備えの重要性というのは、自身が被災した時に初めて痛感する。他の地域で起きた自然災害を見聞きして自身の行動や生活を改めることはなかなか難しいというのも、啓発活動を続ける巻さんが感じている大変さだそうです。日頃の備えというのは、生活用品や食料の備蓄だけでなく、近隣で生活している人同士の交流も大切だと巻さんはいいます。日常でやり取りがある人同士の繋がりが、有事の際のセーフティネットとして活きてくるという、自身が被災者でもあり、被災地に赴くことが多く、実体験に基づいた巻さんのお話が心に響いた方も多いのではないでしょうか。

国内外問わず動き回り、人に寄り添う巻さんに「巻さんの原動力は何なんだろう」を伺うと、「自分の満足です。」という明快なお答えが返ってきました。まずは自分が満たされないと、他の人に何かをすることはできない。目の前の人との関わりを大切にすることで自分自身が元気になる。そして自分の活動・取組で感謝される。「まずは自分自身が満たされること」。大切でシンプル、でもついつい忘れがちなことだなと感じました。

また、一人でできることは限られているので、多くの人の力が不可欠な被災地支援で人を巻き込むために大切なのは「無理をしないこと」だと巻さんは語ります。「自分ができることを、できる範囲で」これが大切で、その範囲を超えてしまうと続けられない。被災地に赴くことはできなくても、金銭や物資を送ることができる人もいる。情報を拡散・発信することだって大切な取組。巻さんのSNSでは、被災地の様子を発信されている内容を多く見かけます。「元日本代表」としての知名度・発信力を生かして、復興の途中であること、サポートがまだまだ必要であること等を知ってもらおうという思いを感じます。

さらに、被災地支援を始めることで、以前に比べていわゆる「社会的弱者」の存在に目が向くようになったという巻さん。「活躍の場があることや、やりがいが人生を豊かにする」という考えから農業分野と福祉分野がタッグを組む「農福連携」の促進やデジタルを活用した取組にも挑戦されています。中国で目の当たりにした「なんでもできると考えるマインド」が巻さんの中に生きている証が、巻さんのわくわくした表情から伝わってきました。

終了時間が近づく中で、今年お亡くなりになられたイビチャ・オシム元サッカー日本代表監督との思い出やオシム氏への思いについてもお聞きしました。サッカーの技術や戦術はもちろんのこと、サッカー以外のこともたくさん教えてもらったという巻さん。サッカーだけでなく一人の人間として考え方やマインドでとても多くのことを教えてもらったオシム氏は、巻さんにとって師匠・先生のような存在だったようです。メディアを通して見ていてもわかるように、とても厳しい方であったのは間違いないものの、厳しさの中に愛がある方だというのも印象的でした。巻さんの結婚式の際にはビデオメッセージを送ってくれたという、選手と監督という間柄だからこそのエピソードも聞くことができました。

そして、おそらく来場者の心に特に深く刺さったのはオシム氏から「リスクを冒せ」とよく言われたという巻さんのお話ではないかと思います。

「リスク」というのは、無茶なこと・無謀なことではない。
情報を手に入れ、できる限りの準備をする。
そして、責任を持ってチャレンジすること。

現代では、情報は簡単に手に入る。だが、それだけで満足していないか?
反対に、「行動を起こすことが大切だから」と何も考えずに動いていないか?

【情報量×アクション】

この掛け算の総量が大切。仮にどちらかが大きくても、もう片方がゼロならそれはゼロ。巻さんの示す生き方が、言葉に説得力を乗せて来場者の心を打っていると、会場の空気で感じることができました。

そんな素敵な言葉で締められたトークショー。巻さんが語られた言葉にはとても強い力があり来場者の心に響くものがたくさんあったようで、勇気をもらった、中国でのチームの例で、なんでも「出来る」という姿勢で臨むところがすごい、と言われていた点も心に響いた、ブラインドサッカーを実演した後の巻さんの「(障害のある方と)同じ条件でやったらみんな同じ」という言葉にはっとさせられた、など様々な感想が寄せられました。

3年ぶりに対面型「地球ひろば」も復活!

この日の国際フェスタでは、コロナ禍以降中断していた多くの対面型企画が3年ぶりに開催され、JICA中国主催の体験型ブース「地球ひろば」も行われました。地球ひろばでは、世界各地の民芸品、楽器、民族衣装体験や、協力隊なんでも相談コーナー、缶バッジづくりや世界の塗り絵体験、世界を知る展示などが行われました。午前中の巻さんによるトークショー終了後には、トークショー会場に展示されていた世界のサッカーユニフォームも民族衣装コーナーに加わり、来場された皆さまの中の中には、大人は民族衣装を、子供はサッカーユニフォームを試着されるなど、思い思いに楽しんでくださったようです。

久しぶりの対面でのひろばに、やっぱり目の前で来場者の皆さまと交流のできる対面イベントは良いな、と改めて感じました。JICA中国ではこれからも皆さまに楽しんでいただける様々なイベントを実施してまいります。ご来場いただいた皆さま、どうもありがとうございました。