商業的農業強化

2014年10月から、ホンジュラスの農業ビジネスの積極的な推進を目的に、日本人専門家「商業的農業強化アドバイザー」の派遣が開始しました。

2年間の協力期間を通じて、ホンジュラスの地方でより儲かる農業を展開していくための支援を行い、その最終的な目的は、事業を推し進めることで雇用機会を増大し、地方の住民がより多くの現金収入を得ることで、その生活レベルを上げていくことにあります。

(1)ホンジュラスの農業の実情

ホンジュラスでは全人口の約70%が貧困状態にあるといわれています。そして全人口の60%が地方に在住しており、その多くの人は、安定的な現金収入を得る仕事に就業できないまま、大家族を抱え、厳しい生活を強いられています。

その人たちの生活レベルを上げるためには、安定的に利益が十分に上がり、かつ継続性、独立性のある事業の起業によって雇用機会を増やすことが重要ですが、ホンジュラスの地方ではインフラ整備が極端に遅れており、住民の教育レベルも低く、未だ大中の製造業などの企業が進出する環境は整っておらず、そのような企業が近い将来投資を行う可能性は極めて低いのが実情です。

(2)ホンジュラスの農業に求められる取り組みと課題

以上の状況を踏まえ、より現実的な取り組みで中小零細の地元企業を起業育成していかなくてはなりません。

具体的には、優秀な中小農業企業を多く育成していくことで、多くの雇用を創出することを目指します。特に、昨今、米国、カナダ、ヨーロッパでは、農産物市場を大きく解放してきており、メロンや、オクラをはじめとする東洋野菜など、すでに多くの農産物が、それらの市場に輸出されるようになってきていますが、まだまだ、需要は十分にあり、輸出の規模を拡大できる市場がありますが、国内ではその生産体制が追い付いていない状況にあります。

特に、求められた規格に合った産物を適正に作り、植物防疫、農薬残留の規制なども十分にクリアーし、市場流通システムにも精通し、かつ安定的な経営で継続して産物を供給するための企業経営のノウハウが必要とされていますが、それらノウハウが生産事業者に培われていないため多くの失敗例もあります。これを改善するためには、このような農業ビジネスを指導する農業技術者の能力が高いレベルに達していなくてはなりませんが、残念ながら、多くの技術者は、生産技術の指導はできても、企業経営や流通などのノウハウには疎いのが現状です。

(3)ホンジュラスの農業技術普及体制

また、更に重要なポイントとして、ホンジュラスでは1990年代の初頭に、国における農業政策が農業近代化法によって大きく変わり、特に、顕著なこととしては、農業技術普及事業の大部分については、農牧省が独自に抱えていた農業普及員に代わり、NGO等の民間へ委託、委譲することとなり、現在、実際の現場で生産者への指導を行っている技術者は、殆どがそれらNGO等の人材です。

政府機関の大方の公務員は政権の交代などによって大幅に人材の入れ替えがなされるため、国が進める様々な事業に継続性が無いのが今でも大きな問題となっていますが、農業近代化法で農業技術普及事業が、民間へと委託・委譲されるようになったのは、事業の継続性と安定性を求めてのことでもありました。

NGOなどの民間の技術者は公務員と異なり、比較的雇用が安定しており、継続性が望めますので経験の積み重ね、知識・技術の蓄積により、生産者への指導がより効果的に行われることへと繋がります。ただし、前記のとおり、民間の技術者も未だ、企業経営や市場流通などにかかるノウハウについては、まだ殆ど有しておらず、今後それらノウハウを高いレベルまで上げる必要性があります。また、指導方法にも一時的、一過的なものが多く、生産者に対するフォローがなされないケースが多く、困難な状況が続いてきました。

(4)「商業的農業強化アドバイザー」の取り組み・活動状況

これら問題の改善のため、現在、農牧省の担当者とともに、国が様々な国際機関から融資を受けて実施している農業開発プログラムと連携し、NGO等の民間技術者の能力アップを図ることを目的とした訓練・研修を集団、個人レベルの双方から恒常的に行い、技術者が生産者グループへより効果的な指導を行い、より多くの優秀な農業企業を育成していくことを目指しています。

専門家派遣開始からはまだ日が浅いため、現在は、研修・訓練の準備として、上記のメロンや東洋野菜の農業普及に携わってきた優秀なインストラクターの人選や、研修・訓練実施計画、マニュアル作成、受講者となる技術者の選考、また、将来講師として研修を実施できる、企業経営ノウハウ、流通、植物防疫、その他必要とされる特定の専門的知識を有する人材のリストアップ、地域住民の現金収入レベル、企業の数、企業の利益、雇用者数、研修対象者である技術者のレベルなど基礎データを収集する作業を準備中です。

(5)農業分野において期待される日本人専門家の取り組み

最後になりますが、日本人専門家の派遣のひとつ大きな特徴として、他の国際機関は、その殆どが、資金を提供して、現地人材に委託を行いますが、日本の場合は、日本人専門家を直接省庁に派遣して、アドバイスやプロジェクトの共同実施を行います。ホンジュラス農牧省でも、専門家を直接配属している国は日本だけです。農牧省への農業開発支援協力は、米国、EU、世界銀行、米州開発銀行、国連、スイス、オランダ、台湾など多くの国や国際機関が夫々の思惑で実施してきておりますが、同じ目標に向かっていながら、これまでは中々、連携しての協力が十分行われることがなく、より効果的な事業を相互の協力で推し進めることが出来なかったといえます。これは一理に、先に述べた農牧省での人材配置に継続性が無いために、長期的な視点から課題を直視し事に当たれる体制が整っていないためであったと言わざるを得ません。

日本人専門家のアドバイスにより、関係各国、国際機関間の連携を強化し、恒常的な情報交換、相互支援をより積極的に行えるよう、農牧省の一員となって直接内部から変化させ、ホンジュラスの農業開発事業がより効果的に、より高いレベルの成果が上げられることが期待されています。

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商業的農業振興関連会議に出席する中村専門家(写真中央)