JICAボランティア ソロモン日記(31)

2019年8月30日

シニア海外ボランティア・関谷 敏雄(数学教育)

ソロモンの大学事情

ソロモンに来てから早いもので1年と5ヶ月が過ぎました。私はソロモン国立大学(Solomon Islands National University, SINU)教育学部で、主にセカンダリースクール(中学・高校)の教員を目指す学生を対象に、数学を教えています。大学に配属されるJICAボランティアは少ないので、大学の情報をお伝えしたいと思います。

日本の大学との大きな違いは学生の年齢が高いことです。その理由は、第一にイン・サービスという3年間のコースがあるからです。このコースの学生は現役の先生です。この方たちはディプローマという資格で先生をしていますが、その上の資格になるバチェラー(学士)を取るために大学に来ています。イン・サービスは学生のかなりの部分を占めます。イン・サービスに対して、セカンダリースクール(中学・高校)から入学するコースをプレ・サービスといいます。この場合も、卒業後数年たってから入学する人が多いです。その理由のひとつには大学の学費が高いことがあります。働いて資金を作ったり、奨学金のチャンスをもらってから入学するケースです。

違いの二番目は奨学金です。学生の多くが奨学金を利用していますが、日本と違って給付奨学金です。そのスポンサーは国であったり、州であったり、様々です。ソロモンの教育予算のうち第3期の教育(高校卒業後の大学や専門学校の教育)についてはそのほとんどが奨学金に使われます。一番勉強のできる学生はオーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニアなどの大学に行きます。これらは少数です。多いのはUSP(University of South Pacific, 南太平洋大学)でフィジーに本校があります。この大学はソロモンを含む南太平洋諸国が共同で作った大学です。私の配属先のSINUは2013年にその前身の高等専門学校(カレッジ)から大学(ユニバーシティ)に昇格してできた新しい大学です。SINUも学生数が多く、私の教育学部だけでも3000人位はいるということです。以上がソロモン人の進学する主な大学になります。ソロモンでは大学に行くというのはつい数年前まで外国の大学に進むということでした。そのことが第3期教育予算の大部分を奨学金が占めていた理由だと思われます。しかし、国が財政難のため、なかなか奨学金が支給されません。そのためUSPの学生が生活に困って政府に陳情したり、SINUの学生が大量に授業料を払っていないことが問題になったりしました。この国の財政を安定させることは極めて重要な問題です。

大学の学生は概して熱心に勉強をしています。ただ数学に関してはまだまだで、日本の高校レベルの数学をしっかりマスターすることがここでの目標になります。授業は英語を使うのが原則になっていますが、ピジン(現地の共通語)を使う教員も多いです。こちらにきてはじめて日本の数学は抽象的、論理的な面が強いということが分かりました。それに対してソロモンの数学は実用的です。理科、船舶、経済などへの応用についての内容が日本よりも多いです。また、記号についても日本と違うものがあることに気が付きました。例えば、日本の不等号は≦ですが、ソロモンは≤です。実はこれらのほとんどは日本が独特で、ソロモンの方が世界基準なのです。学生にとって気の毒なのは、専門書が極めて少ないことです。専門書に限らずとにかく書籍が決定的に不足しています。例えば町に書店はありません。大学の図書館の蔵書数も日本の大学から比べれば相当少なく、古い書籍が多いです。また、小中高の教科書も不足しており、生徒に配ることができません。特に中高の教科書は生徒数分を遥かに下回る冊数しかない学校が多いです。また、高校の教科書はなく、シラバスが高2まで、その後はシラバスさえもなく、プリスクリプションと呼ばれる素案があるだけです。教育課程に関してはニュージーランドの援助が多いと聞いていますが、日本は教育が進んでいるので、この分野の援助も効果的だと思いました。

私の活動は主に授業ですが、書籍不足の状況から、PDF(Portable Document Format(ポータブル・ドキュメント・フォーマット)の教材を作ることも重視しています。現在までに3冊のPDF書籍を作って学生に配布しています。幸い、授業や教材は学生に好評ですので、基本的にはこの線に沿って活動を続けていこうと思っています。残りは7ヶ月、授業は後期を残すのみとなりました。微力ですが、ソロモンの数学教育の発展のために最後まで精一杯活動をしていきたいと思います。

【画像】

大学の教室にて

【画像】

折り紙の授業