JICAボランティア ソロモン日記(32)

2019年9月13日

青年海外協力隊・村田 真奈美(理学療法士)

私はソロモン諸島の中でも最東端に位置するテモツ州の州都ラタで理学療法士として活動しています。人口約2万4千人の州で、首都ホニアラから飛行機で約1時間半、船で50時間以上離れたところに位置しています。テモツ州は過去にも数人の青年海外協力隊(JOCV)が派遣されていましたが、近年はJOCVの派遣が無く、私の赴任が約20年振りの派遣となりました。もちろんテモツ州の現在のJOCVは私一人のみであり、外国人の出入りがほとんど無く、日本人以外の外国人が住んでいないテモツ州の人々にとっては、私はとても珍しい存在として映っているようです。今でこそ現地の人々の反応は落ち着きましたが、赴任当初は外を歩けば注目の的となり、みんな私の持っているもの、買うもの、食べているもの等、私の行動のすべてが気になるようで、どこに行っても人が周りに集まってくる状態でした。肌色や髪質の違いが気になるのか、触ってくる人も多かったです(笑)。

生活環境としては、米やクラッカー、ツナ缶、砂糖や醤油等の基本的なものは現地で購入することは可能ですが、物資を運んでくる貨物船が1~2か月来ないこともあり、お店が空になることもしばしばあります。そのため、米やツナ缶などの保存食を常に家にキープしておくことが必須です。また、冷蔵庫はなく、調理のためのガスが底を尽きることもしばしばあるので、日本の生活がいかに便利で恵まれていたかを日々感じています。しかし、それと同時にタロイモ等の芋類やパパイヤ、パイナップル等のフレッシュな果物を毎日食べたり、週に2~3回はココナッツミルク料理を作ったりと今しかできない贅沢を楽しんでいます。また、ソロモンの中でもテモツ州特有の食べ物である「ナンボ」と呼ばれるブレッドフルーツ(パンノキ)を乾燥させたものをよく食べたり、森やそこら辺の道端に生えている「ロプラ」と呼ばれる葉っぱを食べたりと、現地の人の食べ物や調理法を教えてもらいながら、食べ物を介して人々との交流を楽しんでいます。

その他の生活環境としては、生活用水が雨水のみであること、テレビや新聞といった情報源が無くインターネットもほとんど使えないこと、飲食店や娯楽の場が一切無いため、週末は洗濯や家の周りの草むしりで時間を潰すこと等々、日本の生活との違いは挙げればキリがない程です。それでも州都ラタに住んでいる私はまだまだ現地の人に比べると恵まれた生活であり、ラタから離れ村や島に行けば、ほとんどの人々が今でも自給自足の生活をしており、電気が無ければ、水もわざわざ井戸や水源まで汲みに行かなければならず、用を足すためにトイレとして使う海や森を往復しなければいけません。身の回りのことをこなすだけで一日一日が終わってしまう、生きることだけで精一杯の生活が当たり前となっています。そんな光景を実際にこの目で見ると、ソロモンの人たちの生活がどうやったら発展するのか、そもそも発展のゴールは何か、いつも答えのみつからない疑問にぶち当たります。

あまりにも日々の生活が日本と異なるため、ここまでの話が少々長くなってしまいましたが、メインのボランティア活動のお話も少しだけ書かせていただきたいと思います。私の活動は州都ラタにある州立病院での入院・外来患者へのリハビリテーションと、村や島の障害者やお年寄りの家を回ってリハビリ支援を行うCommunity Based Rehabilitation部門のサポートが主な任務となっています。私の赴任がテモツ州にとって初めての理学療法士の駐在であるため、理学療法について一から広め、病院スタッフや人々の理解をまず得ることに日々奮闘しています。言葉の壁に悔しい思いをすることも多々ありますが、まずはとにかく“歩けるようになった”、“痛みが無くなった”、“一人で海(トイレ)に行けるようになった“という一つでも多くの成果を患者さんを通して残すことが、将来のテモツ州やソロモン諸島のリハビリテーションの発展に繋がると信じて活動を続けています。同じ目標に向かってリハビリに取り組み、その成果が得られた時は、たとえ言葉の壁があったとしても心から患者さんやその家族と笑い合うことが出来ます。この患者さんの笑顔こそが私の日々の活動や生活のパワーの源となっており、また、この患者さんの笑顔を通して、カウンターパートとの絆も日々深まっている気がしています。日本でも約8年間理学療法士として働いておりましたが、ソロモンに来て改めて”理学療法士になってよかった”と心からそう思うことが出来ています。

最後にもう一つ、赴任して以来一番印象に残っているエピソードを書かせていただきます。それは、州都ラタからボートで3時間程離れたところにある人口約20人の小さな島に出張へ行った時のお話です。おそらく私がその島に上陸した記念すべき日本人第1号になったかと思います(笑)。その島は貨物船の出入りが無く完全に自給自足をしている島で、現地の人々はココナッツ、バナナ、魚介類のみで日々の生活を送っていました。家はココナッツの木の葉とわずかな木材だけで建てられており、台風が来たらまた建て直せばよいと現地の人々は笑顔で話してくれました。そして、その島はクラムシェルと呼ばれる大きな2枚貝がよく獲れる島なのですが、中のパールはどうするのかと尋ねると、そこら辺に捨てているよ、との即答が返ってきました。私は同僚達と共にその島に1泊し、ココナッツ拾いから調理を始め、夜は月明かりの下で釣り糸と釣り針のみで釣りを楽しんだりと、日本では絶対にできない多くの体験をさせてもらいました。お金が必要なければ、情報や時間のルールも何もないようなこの島の生活を見て、私は自分の持っているすべての価値観が根底から覆された気がしています。そして、この島の人々の明るい笑顔を思い出すたびに、自分の抱えている悩みや目の前にある問題が何てちっぽけなものなんだと思えるようになりました。

私にとって初めての海外となったここソロモン、テモツ州での協力隊生活は、決して楽しいことばかりではなく、さまざまな苦労や葛藤に正直涙を流すこともしばしばあります。しかし、そんな私の生活をいつも支えてくれているのは紛れもなく現地の人々の優しさや愛情で、それと当時に、周りに日本人がいない孤独な環境に置かれて初めて、日本の家族や友人の大切さにも気が付くことが出来ました。私の協力隊生活はすでに残り4分の1を切っていますが、私を温かく受け入れてくれたここテモツ州の人々に少しでも多くの恩返しができるよう、1日1日を大切に過ごしたいと思っています。

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私が行くところ行くところ、ついて来る子どもたち

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ローカルビスケットと呼ばれる「ナンボ」。現地の人にとっては大事な保存食で、あまり味はしないが何故か癖になる食べ物(笑)

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テモツ州の人しか食べないと言われている「ロプラ」。芋と合わせて10ドル(約140円)で売られている。飲食店のないテモツでは貴重なランチの一つ!

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配属先のラタ病院

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村でのリハビリの様子

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リハビリ後の1枚

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村の患者さんへ車いすを配達

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マーケットでの腰痛予防の啓発活動

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看護師チームとボートで村訪問へ

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出張先の島の人々と

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近所の子どもたちと家で折り紙