日系人としてのルーツや自身のアイデンティティを再確認! 日系社会の若者が日本で過ごした3週間

2019年9月27日

日系社会の世代交代が進む中南米各国から若者を日本に招き、日系人としてのルーツやアイデンティティを再確認してもらうことを目的に、JICA横浜で実施されている「日系社会次世代育成研修」。今年7月、中学生と大学生の合計33名がこの研修に参加しました。日本人移住の歴史学習、日本の学校への体験入学、一般家庭でのホームステイ、研修旅行といった約3週間にわたる研修で、学生たちはどのようなことを感じたのか聞きました。

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左:古代から受け継がれている草木染に挑戦した中学生たち。色鮮やかな美しいハンカチの仕上がりに大満足
右:大学生たちはホストファミリーの畑でじゃがいも掘りを体験

“周りとは違う自分”を受け入れる     

久野沙織さん(24歳/日系3世/ブラジル在住 )

「日系人にとっての“より良い未来”は、より理解と多様性がある社会です。そして、日本人が世界中の日系人と手をつなぎ、共に素敵な世界を積み上げていく未来です。世界中の日系の子どもたちが、自分の日系アイデンティティのことをもっと理解し、日本文化と日系文化をつないでいければ。どちらも大切にして、双方の文化がなくならないように、私たちががんばっていきたいと思っています」

日系3世の久野沙織さんは、かつて多くの日本人を南米へと送り出した海外植民学校の校長・崎山比佐衛氏のひ孫にあたります。「研修を経て、なんとなくしか知らなかった曽祖父の思いが、少しだけわかったような気がします」と久野さんは言います。

久野さんのほかにも、アルゼンチン・ドミニカ共和国・パラグアイ・ブラジル・ペルー・ボリビア・メキシコから計20名の大学生が今回の研修に参加しました。成熟しつつある若者たちの自己に、どのような変化があったのでしょうか。

我謝 ロドリゴ アンドレスさん(24歳/日系3世/アルゼンチン在住)

「高校生の頃、『自分たちとは違う』という理由で、周囲から距離を置かれたことがありました。日系人のなかには、そう思われないようにと外見や内面を取り繕う人もいます。でも、それは日系人について学ぶ機会がなかったから、自己を受け入れられないのだと感じました。日系人としてのアイデンティティについての講義を受けることで、周りと違うことが強みになるのだと考えられるようになりました」

和佐野 良恵 デボラさん(20歳/日系3世/ブラジル在住)

「自国で『あなたはブラジル人? 日本人?』と聞かれる度に、自分は何人なのだろうと悩んでいました。周りと名前が違うからといじめられたこともあります。でも、今回の研修を通じて日本の文化や魅力を知り、自らに流れる日本人の血や精神は、いいものなのだと知ることができました。私はブラジル人・日本人のどちらでもあるし、ハイブリッドな存在でいいのだということです」

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日系社会次世代育成研修に参加した大学生たち。未来の日系社会をリードする活躍が期待されます

学ぶことで前を向くことができた         

中学生向けの研修は、1987年に「日本語学校生徒研修」としてスタートし、これまでに延べ1,300人以上の中学生が来日しています。今回は、カナダ・コロンビア・ドミニカ共和国・メキシコから13名が参加。 “周りとは違う自分”に対してコンプレックスを持つ学生もいるなか、研修に参加し“日系人としての自分”を前向きに捉えられるようになったことが伝わってきました。

中田亜優美さん(15歳/日系3世/コロンビア在住)

「神戸の移民ミュージアムで、祖父母の名前を見つけたときは胸が高鳴りました。そこには、『コロンビアへ移住した最初の人たち』と書かれていました。おじいちゃんとおばあちゃんが移住した理由や当時の苦労を知ることで、日本をもっと好きになることができました。帰国したら、もっと日本語を勉強したいです」

高田ジュンさん(16歳/日系3世/ドミニカ共和国在住)

「自分の国にいると、周りは『日系人』として接してきます。でも、国籍はドミニカ。そのギャップに戸惑いを覚えていました。今回、移住の歴史を学び、同じ悩みを各国の友人と分かち合うことで、自分や家族、日系人のことを少し理解できたように感じています」

川原光波さん(12歳/日系2世/メキシコ在住)

「研修に参加しようと思ったきっかけは、去年の研修に参加したお姉ちゃんが『日系人ってすごいんだよ』と話すようになったこと。私も、日系人は2つの国の言語と文化を持つことができて、国と国をつなぐ架け橋になれる存在なんだと研修で教えてもらい、誇らしいような気持ちになりました」

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中学生たちは横浜の港を一望できる神奈川県庁の屋上で、移住した人たちが船に乗った場所を確認。また、戦後の横浜がどのように現在のような港町に発展したのかを考えました

世界と日本の架け橋になるきっかけに  

閉講式にて研修参加者にメッセージを送る熊谷晃子JICA横浜所長

JICA横浜に併設する「海外移住資料館」の館長でもある熊谷晃子JICA横浜所長は、長期にわたって続くこの研修の意義を次のように話します。

「世界各地にいる日系人。南米においては野菜の栽培を広めて食生活の改善につなげるなど、各国でさまざまな貢献をしてきました。彼らの功績を知ることは、日系人であることの誇りとなり、参加者自身のアイデンティティの形成につながるはずです。本研修が日系人社会の将来を担う若者にとって、世界と日本の架け橋となるきっかけになれば幸いです」