JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2015年6月号 第1号

今年度最初の実践事例紹介は、私立天理小学校(奈良県)の渡辺道治先生です。渡辺先生は、2012年度にカンボジア教師海外研修に参加され、2014年度JICA地球ひろば開発教育研修(実践編)で研鑽を積まれました。小学校の教育現場で、担当学年の年次に応じて様々なアプローチで開発教育/国際理解教育実践に取り組み、子どもたちの世界を大きく広げてこられた渡辺先生。教師が継続的に取り組み、持続可能な学習として児童が学び続けていくために、教科学習といかにリンクさせるかを課題とし、主に社会科の発展学習として指導要領と関連づけた実践を行っていらっしゃいます。一部の教師が取り組む「特別」な学習ではなく、どの学級においても実現可能であるべきという理念のもと、実践を重ねながら人脈を広げられ、ご自身の活動にとどまることなく、教育現場で活用できる実践の手引き作りにも着手するなど、その取り組みは更なる発展をとげています。

開発教育/国際理解教育に対する思い

「人のために生き、世界のために生きることに価値を見出せる考え方」この点を子どもたちと共に学び、体感することを、開発教育/国際理解教育に取り組む第一の目的に据えています。実践の中で子どもたちは、時に新たな知との出逢いに興奮し、時に世界に広がる助け合いの輪に涙し、時に奮い立って自ら動き出すなど、以前には見られなかった姿を幾度も見せてくれました。その折々の姿に触れて得た感動を原動力に、これからも開発教育/国際理解教育の新たな実践を切り拓いていきたいと思っています。

授業実践事例

毎年、担当した学年において授業可能な教材を用い、開発教育/国際理解教育の実践に取り組んでいます。

実践授業の概略

「エビとマングローブ林」(5年生3学期)

社会科の「食料自給率」の発展として扱った。日本に大量のエビを輸出しているインドネシア。そこで問題となっているマングローブ林伐採の問題と、養殖にかかわる労働者階級からの不当な搾取を授業化した。授業の最後に「フェアトレード」を教え、輸入する国、購入する個人が正しく情報を得て他国と付き合っていく必要がある事を伝えた。本実践は『エビと日本人』(村井吉敬著)を中心資料として構想し、フェアトレードのバナナやコーヒーを実物教材として提示した。

「エルトゥールル号とイラン・イラク戦争」(6年生2学期)

歴史学習の一環として扱った。イラン・イラク戦争の際、イランの首都テヘランで日本人数百名を救ってくれたトルコの航空機。その背景にある、明治に起きたエルトゥールル号事件を授業化した。本実践を行うに当たり、和歌山県トルコ記念館で撮影した映像や写真、地元大島の方に伺ったお話をもとにして授業を組み立てた。

「百人一首にみる日本人の文化と精神性」(1年生3学期)

生活科の発展学習として扱った。十数年前、天皇皇后両陛下がアメリカを訪問した際、クリントン大統領がある短歌(橘 曙覧の独楽吟)を取り上げ、日本の精神性や文化を称えたことが話題となった。俳句や和歌などの伝統文化は、日本の文化を他者に伝える上で非常に価値のある教材である。授業では、教材として「五色百人一首」の青札を取り上げ、デジタルコンテンツを使用しながら、歌意について児童観で活発に意見が交流できるように実践に取り組んだ。

JICAほか、教育支援機関の活用例

他組織の連携としては、以下の5つが実現しました。

  • 地域におけるチャリティー団体の立ち上げ、イベントの開催(神戸の国際NGOや宮崎県の高校からのご協力も頂きました。)
  • 地雷模型等の教材の貸し出しによる他校との実践共有
  • 大阪府羽曳野生立高鷲小学校にて校内研修講師として開発教育実践を紹介
  • 近隣の大学との連携学習
  • 高知県四万十町立窪川小学校における飛び込み授業

「パーム油と私たちの生活」(6年生社会科)

身近な食料品から世界とのつながりを学び、よりよい食料生産のあり方を学ぶということを目標に据えた授業を行いました。子どもたちは、グーグルアース等のデジタル資料や、お茶やチョコレートといった実物資料に大変興味を示し、世界の仕組みを変えていくためのアイディアが豊富に発表されました。尚、同様の授業を自身の学校で実践した際は、子どもたちが実際にフェアトレードの商品を購入したり、関連書籍を図書館で借りたりと、日常生活の中で実際に行動を起こすという行動の変容が見られました。

どれも開発教育/国際理解教育実践を通じてつながった方々とのご縁で実現できたものです。実践を通して国際協力に熱心な先生方とのつながりが徐々に広がっていく度に、新たな感動を覚えています。尚、今年の6月には岡山県川崎医療福祉大学にて、開発教育実践を紹介する講義を担当させていただくことになっています。1つ1つのご縁に感謝して、これからも外部の方々と積極的に連携を図っていきたいと思っています。

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授業の様子

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グーグルアースを使って産地を示す

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フェアトレードチョコレート

今後、チャレンジしたいこと

上記に記したように、まず今後も積極的に外部の方々との連携を図り、多くの場で開発教育実践を発表していきたいと思っています。その中で、ゆくゆくはJICAの「出前講座」の様な開発教育支援の仕組みを、教師を主体とした形で作ってみたいと考えています。

また、グーグルアース等のICTを活用した実践の手引き(現在作成中です!)や、校内における開発教育実践の手引き作成にもチャレンジしていきます。

ご参考:その他の実践

  • アイヌ民族と日本人(6年社会科)
  • dailymailの記事を使った東日本大震災の授業(4年社会科)
  • グーグルアースで見る世界との貿易(5年社会科)
  • 世界がもし100人の村だったら(4年総合)
  • タイで使われた日本のEM技術(4年社会科)
  • ハゲワシと少女(6年社会科)
  • フェアトレードラベルとコーヒー(5年社会科)
  • 食料輸入とフードマイレージ(5年社会科)
  • カンボジアと日本(3年社会科)

今後の実践予定

  • 「江戸文化とキューバ開発に学ぶ持続可能な資源の活用法」(6年生社会科)
  • 「再生可能エネルギー−大分県と北海道をモデルとして−」(6年生社会科)
  • 「地域の教訓を世界へ−神戸の防災力モデル−」(5年生社会科)

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