JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2015年11月号 第6号

開発教育/国際理解教育の授業実践事例をご紹介!

今月号の実践事例は、埼玉県川口市立県陽高等学校 古山三保先生です。古山先生は、2012年にベトナム教師海外研修に参加されました。2013年度以後も「英語を学ぶことは世界を学ぶこと」を信条に、年間を通して実践に取り組んでいらっしゃいます。

リンク先でご紹介するのは、古山先生がご自身で作成された途上国の写真を用いた教材による英語のコミュニケーション活動です。古山先生が毎回英語の授業の導入で行っている活動で、教材は簡単に作れる上、中学3年間から高校まで継続的に使うことができるとのことです。リンク先では、教材の作成方法、及びその活用、効果についてご説明しています。この活動を通して、広く世界に目と心を向けるようになった生徒達の感想文にも是非ご注目ください。

国際理解教育(開発教育)に対する思い

ベトナムでの教師海外研修後、半年に亘って行った授業の中で、「本当の豊かさとは」という問いを自ら持ち始め、その答えを考えようとする生徒の姿に出会い、開発教育にのめり込んだ。開発教育は生徒や教師の学びや変容にとどまらず、地球市民として互いにつながっている世界中の国々との未来作りへと導くものであると思う。そして私の役割は、そのための「種まき」であると考えている。

授業実践事例の紹介

途上国の写真を用いた自作の教材による英語のコミュニケーション活動

「英語を学ぶことは世界を学ぶこと」これは、常に英語の授業で言い続けていることである。広く世界に目を向ける姿勢なくして英語を学ぶ意味はない。そこで、開発途上国と日本のつながりに目を向けさせる目的で考案した、ウォームアップ"Show & Tell"活動用教材について、その作成方法及び活用を紹介する。

"Show & Tell"とは、英語のコミュニケーション能力を高めるための活動であり、生徒が自分で用意した実物や写真などを見せ、それについて英語で伝える活動だが、この実践では、それに替えて教師が収集した開発途上国での日本人の支援活動の様子を伝える写真を使用した。そうすることで、生徒に用意をさせる、1度きりの特別な活動でなく、毎回の授業で、または使いたい時に使え、生徒も活動の流れに慣れていくので、余分な時間を取ることなくスムーズに取り組むことができるようになる。途上国の写真はJICAホームページなどから簡単に入手できる。(下記リンク参照)また、カード裏には写真の情報を記載するのだが、その作成についても、パターンを決めてしまえば、それほど難しくない。短時間ではあっても、毎回の授業の導入で活用することで大きなメリットがあった。一度作ってしまえば、同じ写真で、対話内容を変えることで、3年間通して継続的に使える。

関連リンク

"Show & Tell"【Photo Telling】の実践の概要

初めて実施したのは、2010年1年生の2学期である。それに先がけ1学期から夏休みにかけて写真や資料を準備し、教材を作成した。その後、その学年が卒業する2013年までの約3年間継続的に使用し、さらに2014年新1年生、そして今年度中学から高校へ異動したが、中学校の復習活動として現在も使用している。その間、多少の写真の入れ替え、再印刷、また以下に説明する情報カードの更新は行ったが、ほとんどのカードをそのまま始めから使い続けている。

活動の実施は、新文型導入後から毎時間ウォームアップと復習を兼ねて、授業始めの5分から10分である。

1、教材『フォトカード』の作成方法

1)フォトカードの表:写真(クリアファイルの表側に入れる)

JICAホームページ「フォトギャラリー」よりダウンロードした青年海外協力隊の任地での活動記録写真、または国際協力NGO等発行の使用済みカレンダーの写真(過去に購入したもの)をA4またはB5サイズにそろえ、ビニールシート(ポケットクリアファイル用のもの)に入れる。写真選びの基準は、活動を行っている日本人1名を含む現地の人々が写っているものであること、また、行っている活動ができるだけ平易な英語で表現できそうなものであること。

【画像】

2)フォトカードの裏:写真情報カード(クリアファイルの裏側に入れる)

クリアファイルの裏に写真についての情報カードを入れる。情報カードの内容は、国名、首都、地域、地図上の位置、母語や公用語、写真の説明に必要と思われる英語の語句、写真についての説明や日本人の活動内容など。

初めて使う際は、情報があり過ぎて、どの部分を見て行うのかわからない生徒がいるため、マーカーで色分けさせて使うとよい。

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写真情報カードで扱う英文の例
【1年9月】
1)Look at this photo.
2)He・She is / They are in(国名).
3)(国名) is in / near(地域).
4)The capital city is(首都).
5)People speak(母語・公用語).
【1年 三人称単数現在形導入後】
1)〜5)に加え、
6)He/She 〜(e)s ….
(その日本人の活動内容).
さらに
聞き手:7)What does he/she do?
話し手:8)He/She 〜(e)s ….
【2年 不定詞・過去形導入後 6)〜8)に替えて】
聞き手:9)Why did he/she go there?
話し手:10)He/She went there to 〜.
【2年 接続詞because 導入後 10)に替えて】
話し手:11)Because he/she wanted to 〜.
【3年 受動態導入後 5)に替えて】
聞き手:12)What language is spoken in 〜?
話し手:13)(母語・公用語) is/are spoken in 〜.

2.カードの活用方法と活動の進め方

授業前の準備
  • 生徒1人に1枚『フォトカード』を配る。
  • 黒板に会話の流れを書いたものを貼る。

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【黒板掲示用会話の流れ】情報カードと同じ色分けをした。

活動の進め方
  • 授業初めのウォーミングアップとして、生徒は教室内を歩き、2人組で互いに自分のフォトカードを使って"Show & Tell"を行う。終わったらカードを交換し、新たなカードで別の相手と同じように活動を行う。新文型導入時は移動せず、全体で口頭練習した後、隣同士で練習し、ある程度文型を定着させる。
  • 指示された人数の相手(たいてい3人)と、または時間(3分程度)練習したら席に着くが、座っても全員が終わるまで周囲の生徒と練習を続ける。

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新文型導入後、初期の練習の様子

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慣れてきたら、自由に相手を探して行う

3.ワークシート

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ワークシート

4.活動の成果

毎回短時間で継続的に触れさせることで、写真に示されている世界の様々な国や地域の様子、そこに関わる日本人の活動や思いについて少しずつ知るきっかけとなった。さらにその様子を、学んだ英語を使って生徒同士で伝え合わせることで、ESD(持続可能な開発のための教育)+英語教育の一石二鳥以上の効果を上げることができたと考えている。上述したように、文型を指定して行う他に、少しずつ自由度を高め、フリートークに移行することも可能である。また、写真に必ず日本人が一人入っているものを使うことで、日本人にとって定着の難しい三人称単数現在形の英文を扱うことができる。

世界約200もの国や地域で、約72億人の人々が互いに支え合い、つながりあって共に生きている。そして、国際化・グローバル化が進む現代社会で、国際的な依存関係の恩恵を受けながら豊かな生活を営む日本人が国際的視野に立ち、世界の中の日本人としての自覚や知識を持つことの重要性は一層高まってきている。そのためには、今回紹介した日々の活動と並行して、「Global Studies」と名付けて学期に数回ずつ行っている世界の諸問題と日本との関わりについての授業を通して、生徒に、広く世界に目と心を向け、世界が相互依存していること、特に開発途上国の多くが抱える貧困・飢餓・紛争・戦争・環境破壊・人権侵害といった問題が日本の社会のあり方や日本人のライフスタイルとも深く関係しているという事実を理解させたい。そして、どんな状況であっても自分の国同様さまざまな国・地域の人々や文化をも尊重し、同じ地球に住む「地球市民」として共に生きる未来を作っていくために、一人一人が自分の問題として捉え、その解決に向けて自分に何ができるか、どのような形で支援ができるか考え、実行していくよう導くことが重要である。この教材は生徒に、その道筋を示す一例となると考えている。

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生徒の授業中・授業後の反応や、感想 −生徒の感想より−

1年

  • 英語は予想通りとても難しかった。それぞれの文で使い方が変化するし、なかなか使いこなせません。でもPhoto Tellingで使い方を覚えていって、決まりがわかってきた時は嬉しかったし、英語が楽しくなりました。
  • 英語を学びながら世界を学ぶことができた。ただ英語を学ぶだけでは意味がなく、コミュニケーションをとったり、英語が使われている国のことを学んだりすることが大切だと思った。そして、途上国で働く日本人がこんなにたくさんいることを知って、私も将来世界の様々な国と関わりを持ち、交流できる仕事をしたいと考えるようになった。
  • この1年、世界について学んで、何が起きているか知ったり、途上国の人々を助けたり、援助している人がいることを知って、自分の価値観も世界に対する関心も変わったし、自分も何か世界のためにしたいという気持ちが生まれた。
  • 先生から聞く途上国の様子はとても大変だと思うけど、写真に写っている人たちは大人も子供も笑顔だった。私も世界に出てお互いに助け合い、みんなの笑顔を増やしたいなと思った。

3年

  • 開発途上国の現実を目の当たりにして驚きを隠せないこともたくさんあったが、そこで懸命に生き、笑顔でいる人たちの写真を見ると、勇気づけられたような気持になった。そして世界と日本とのつながりを知り、身近だとは思っていなかった途上国は実は日本を支えてくれる大事なパートナーであることに気づいた。
  • Photo Tellingで英語だけでなく、世界の現状を学ぶことができた。授業が終わってもパソコンで自分で調べたりもした。世界への目の向け方が変わった。先生がくれた「きっかけ、種」を開花させたい。
  • 3年間の毎回の練習で英語で会話する力、相手とコミュニケーションを取る力がすごくついたと実感している。さらに世界のこと、途上国のこと、私達の住む先進国のこと等を知るきっかけとなり、将来の夢を見つけることができた。世界の人々がどうやったら幸せになるのかを考えていきたい。
  • 普通、世界と聞いて想像するのはアメリカやイギリス、フランス等先進国ばかりだと思うが、Photo Tellingのおかげで私達はブルキナファソ、セネガル等途上国のことも考えることができる。3年間で私達でも少しでも力になれることを学べた。
  • 世界に目を向ける授業は私の価値観を大きく変えた。テレビのニュースにも注目するようになったし、日本に住む外国人について思いやる心が強くなった。協力隊のように途上国を支える日本人がいる一方で、日々の中では逆に日本が世界の国々に支えられていることがわかる。だから私達がそのつながりを守っていけるように、「英語を学ぶことは世界を学ぶこと」というのが大切だと感じた。
  • Photo Tellingで毎回クラスのいろいろな人と会話ができた。先生が言っていたように英語は他の人とコミュニケーションをとったり、関係を築いたりして仲良くなるための道具だと思った。伝わった時の嬉しさや世界を知ることの楽しさを学ぶこともできた。高校でもがんばる。
  • 1年生の頃はなぜ他の国のことを英語で学ばなくてはいけないのかと思っていた。でも最近では途上国の力になりたいと思い始めている。そういう思いに変化したのは、英語を通じて世界のいろいろな国をいろいろな視点で見て考えたからだ。だから「英語を学ぶことは世界を学ぶこと」なんだと思う。

JICAほか、支援組織の活用例

  1. 開発教育の授業:「世界一大きな授業」教育協力NGOネットワーク(JNNE)。毎年4月に行われるこのキャンペーンに全クラスで参加するところから授業をスタート。
  2. 自分自身の研修:埼玉県「グローバルセミナー」「国際理解教育セミナー」、MIA(武蔵野市国際交流協会)夏期教員研修、DEAR主催のセミナーに参加。グローバル教育コンクール応募。いずれも大きな刺激、情報源、ふり返りの場となっている。
  3. 講師派遣:青年海外協力協会(JOCA)、埼玉県国際交流協会・JICA埼玉デスク、埼玉県ユニセフ協会へワークショップを依頼。
  4. 生徒と共に参加:ユニセフリーダー講座、JICA地球ひろば団体訪問プログラム、グローバルフェスタ、埼玉県国際フェア、ユニセフボランティアへ、昨年度までは部活動「英語&世界をマナ部」部員、今年度は生徒会ボランティアチーム生徒、その他希望する生徒と共に参加。自分自身もだが、生徒にも外の世界に触れさせたいと考えている。

今後チャレンジしたいこと

開発教育は教科、領域を問わず、あらゆる教育活動の場面で可能だが、私はやはり英語の授業を軸として今後も「英語を学ぶことは世界を学ぶこと」であると生徒に伝えながら、生徒が「知って」「伝えて」「考えて」「自分や自分の生活を見直して」「自分にできることを実行して」いけるような「種まき」をしたいと考えている。

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