JICA地球ひろば開発教育メルマガ 2015年12月号 第7号

開発教育/国際理解教育の授業実践事例をご紹介!

今月号の実践事例は、愛知県立 特別支援学校・高等部 星野百合子先生です。星野先生は、2012年にラオス教師海外研修に参加されました。その後青年海外協力隊としてフィリピンで活動された経験もあり、精力的に世界に飛び出して得た貴重な経験を生かして、子ども達の教育に励んでいらっしゃいます。

リンク先でご紹介するのは、特別支援学校教諭ならではの視点を生かした活動です。星野先生は、日々視覚教材や体験型活動の工夫に取り組まれています。今回は、視覚はもちろんのこと、聴覚や触覚など、五感をフル活用した活動をご紹介しています。また、地域についての学習から始めて、徐々に世界へと学習の幅を広げていくという段階を追った学習計画も、先生方のご参考になることと思います。特別支援教育の現場では、どのように開発教育/国際理解教育が実践されているのか、またその実践の重要性について考えるきっかけになるような紹介内容ですので、是非ご覧ください。

国際理解教育(開発教育)に対する思い

国の違い、文化の違い、障害の有無など自分と「ちがう」と感じたときに、その「ちがい」をどのように受け入れて行動できるかを考える授業を展開した。国際理解教育の中で共に学び、障害のある人たち自身からノーマライゼーションの理念が浸透した社会の形成を呼びかけることで、自分たちを取り巻く環境が少しずつ変化するのではないかと思う。

実践教科

総合的な学習の時間

対象学年

高等部1年生

対象人数

36名

実践の目的

外国(ラオス)の文化を調べ、自分たちの住む地域の文化との相違性・同一性に気付き、それらを肯定的に受け入れる。

授業の構成

1限目 地域の文化と出会う「自分たちが暮らす町の伝統料理を考えよう。」

  • 外国人に岡崎の料理を紹介する準備。
  • 日本地図で岡崎の位置を確認し、岡崎城のシールを貼る。
  • 八丁味噌の歴史と岡崎市の風土について調べる。(地元の八丁味噌の蔵を見学した。)写真を提示する。
  • 生徒一人ひとりが八丁味噌を使ったオリジナル料理を考えて描き、食べてみたいものを選び投票したい絵にシールを貼った。
  • 投票が難しいときは、教師が生徒の前で一枚一枚絵を提示し、良いと思った料理のときに電子スイッチを押して意思を伝えた。
使用教材
  • 日本地図
  • 写真(一部隠す)
  • 写真裏面に黒い紙を貼る
  • 投票シール
  • 電子スイッチ

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2限目 同じお米国、ラオスってどんな国?

  • 日本人以外にも米を主食としている人がいるか生徒に質問し、どこに住んでいるのか考えて地球儀に印をつける。
  • 日本とラオスは遠く離れていることを、飛行機の模型を動かすことで知る。
  • ラオスの食文化について、クイズに答えながら異国の文化と肯定的に出会う。クイズの中で、ラオスの食文化に触れ、ラオスの調味料の匂いを嗅いだり、味見をしたりした。
  • 日本とラオスの同じ点と違う点を考え、対比表にまとめた。
使用教材
  • 地球儀
  • 飛行機の模型
  • ラオスの調味料
  • 対比表

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3限目 ラオスの遊び体験

  • ラオスの子供たちが好きなスポーツ、セパタクロウをやってみる。
  • 生徒の身体機能を考慮して、生徒と共にオリジナルのルールを考え、ルール表を作成した。
使用教材
  • セパタクロウ

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3限目 ラオスの楽器体験

  • ラオスの学校の様子をDVDで見て、ケーンや木琴など本校にあるラオスの楽器を実際に使い演奏する。
使用教材
  • ケーンと木琴
  • DVD【演奏の映像】(平成24年度JICA中部教師海外研修に参加した際に授業者撮影)

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3限目 ラオスの踊り体験

  • DVDを見ながらラオダンスに挑戦。日本の盆踊りと比べる。
使用教材
  • DVD【踊りの映像】(平成24年度JICA中部教師海外研修に参加した際に授業者撮影)
  • 民族衣装「シン」(女性用の巻きスカート)

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※生徒のプライバシー保護のため、写真を修整しています

どのように授業展開を組んだか

自分たちの暮らす町の食文化に目を向け、改めて地域の暮らしを知り、そこから徐々に世界へと視野を広げられるようにした。始めに、普段食べている食事や家庭料理を思い出し「岡崎料理といえば?」という発問で仲間集めをした。次に、同じお米を食べているラオスという国に興味を惹き付け、ラオスの食文化から、各国の違いを楽しめるように、写真やクイズで紹介し、他国と肯定的に出会えるようにした。最後に、生徒の興味関心のある分野を尋ね、「遊び・楽器・踊り」を実際に体験できるように設定した。民族衣装「シン」を着てラオスの遊びや楽器を演奏することで、新たな文化と出会い良い点を見つけると共に、自国の文化の良さにも気付けるように展開した。

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平成24年度JICA中部教師海外研修でラオスの小学校を訪問した際に撮影をし、国際理解教育の授業で日本の生徒に紹介した。

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ラオスのもち米カオニャオ。同じお米国、ラオスってどんな国?の授業で生徒に紹介をした。

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平成24年度JICA中部教師海外研修後に撮影をし、ラオスの国旗と民族衣装を国際理解教育の授業で、日本の生徒に紹介した。

特別支援学校での教材の工夫

写真(一部隠す)

写真の一部を隠すことで、生徒の視線を集中させ、隠れた場所に何が写っているのか自発的に確認できる。

写真裏面に黒い紙を貼る

視覚支援が必要な生徒が、物を見るときに、黒い画用紙の上に写真を貼って提示することで、色彩が区別しやすく、見えやすくなる。

電子スイッチ

投票や選択する際に、言葉のみでなくスイッチなどを押して電球を光らせて光で合図を伝えたりする。発語がない生徒も、意見をもっており心の変化もある。伝える手段を工夫する。

各授業の中で必ず、五感を使った体験的な学習ができるような工夫がされている。言葉のみでなく、時には写真を使い視覚的に、香辛料の匂いを嗅いで嗅覚的に、布などの素材に触れた感触で、というように様々な感覚で味わえるように心がけている。また、音楽を聴き楽器を演奏したり、DVDを観ながら民族舞踊を踊ったりもした。五感を使った体験は、理解が深まるだけでなく、深く印象に残り、生徒の心に刻み込まれる。そういった経験から、生徒が自分の思いや意見を導き出すことは、普段の生活の中でも「考える」「意見を伝える」能力として生きてくる。

授業での生徒の様子

第1限は地域の食文化に目を向けて調べた際は、実際に近くの八丁味噌の蔵に見学へ出かけた。味噌樽の大きさに驚き、良い経験になった。第2限の「食文化」では、同じお米を主食とするラオスについて、ラオスの文化や食事についてパワーポイントを使ったクイズ形式で紹介した。お米を手で食べる姿には驚いている生徒もいたが、「○○くんも、スプーンでご飯を食べているね。」と多様性を受け入れられた。第3限の「遊び」はセパタクロウを実際にゲームする、「楽器」はケーンと木琴での演奏会、「踊り」はDVDを使ったラオダンス練習と参加型で学べる学習を展開した。生徒の実態に合わせてセパタクロウのルールを考えたり、楽器の使い方を工夫したりした。ラオスの遊びや楽器を楽しみ、ラオスに行って実際に見てみたいという生徒もいた。

生徒の声/普段の生徒の様子を知っている教師が、生徒の様子から拾い上げた、生徒の声

  • 自分たちの住んでいる岡崎の食事(八丁味噌を使った料理)を、海外の人たちにも食べてもらいたいと思った。
  • 芋やパンなど、お米以外のものが主食である国があることに、驚いていた。
  • 日本とラオスの写真を混ぜて提示し、どの写真が日本の物か尋ねた。日本とラオスでは、似ている風景がたくさんあることが分かった。
  • ラオスの子どもたちが楽器を演奏している様子を見て、自分たちも実際に演奏してみたいと意欲的だった。手に麻痺があり演奏が難しい生徒も、竹製のマラカスを腕にくくりつけて、リズムに合わせて音を鳴らせた。言葉での感想では無いが、普段の生活の中で本当に嬉しい時だけに見せる最高の笑顔が見られた。
  • セパタクロウのルールに基づいて試合をするのは難しかったので、ボールを蹴って友達とパスをし、何回続くかを競い合った。DVDで実際の試合映像を見て、自分たちもあんな格好良い試合がしたいと、ラオスに住む友達の良い所に目を向けられた。
  • 短い言葉ではあるが、授業中に生徒から「ちがうね。」「いいね。」「面白いね。」「同じだね。」という言葉を聞けるようになった。

反省点

一人ひとりの生徒は違った個性があり、全員に分かりやすく噛み砕いて伝えることは、難しかった。同じ授業を繰り返し視点を変えて行い、生徒の理解を深める必要があったと感じる。また、生徒自身から、ここで学んだ「ちがい」を、個々の人間の違いに置き換えて、他人と自分が「ちがう」ことを肯定的に認められるような場面を設ける必要があると感じた。

所感

生徒は、自分たちの地域の暮らしと他国の暮らしを比べ、似ているところと違っているところをたくさん見つけることができた。写真からラオスの子どもの気持ちを考えるなど、生徒の感性の豊かさ、想像力の豊かさにも感銘を受けた。授業では「ちがい」にも焦点を当てた。「ちがい」があることは良いことであり、「ちがい」は困るのではなく友達の存在に気付き認めるために必要なものであることを伝えた。「ちがい」を個性として認め合う仲間になっていって欲しい。この感性の豊かな時期に経験や体験を通し、色々な物の見方や考え方ができるようになって欲しいと願う。

参考資料

書籍

  • 地球の歩き方編集室「地球の歩き方ラオス2011〜2012」ダイヤモンド社

JICAほか、教育支援機関の活用例

  • 八丁味噌蔵の工場見学→地元の食文化を実際に見て、食べて、分かったことをまとめた。
  • ラオスクイズ→教師がJICA中部の教師海外研修に参加し、実際にラオスに行って学んできたものをクイズにまとめ、紹介した。
  • ラオスの遊び・楽器・踊り体験→JICA中部に保管してある「ラオスBOX」を借りた。
  • 岡崎市国際協力協会→外国人講師を紹介していただき、世界の料理の作り方を調理実習をして教えていただいた。
  • NIED・国際理解教育センター→ESDの授業に役立つ手法や、参加型授業の展開方法を教えていただいた。

今後チャレンジしたいこと

特別支援教育の中で、国際理解教育" 開発教育の必要性が受け入れられ、学校全体で組織的に教育に取り組める仕組みが整えられることを望む。

生徒が国際理解教育を学ぶ中で、社会の中で生みだされた環境的" 心理的な壁に気付き、それを越えて一人ひとりが人間として尊重されるべき社会を自分たちで作り出す動機が芽生えた。また、学びを通して「地球規模の諸課題に自ら参加できる能力」を養えた。世界の一員として諸課題に主体的に取り組む経験は、自分が社会の中で役に立てるということに改めて気付く要因になり、結果的に自己肯定感が高まった。障がいのある人の多くは、社会の中で"受け手側"の立場に置かされることが多い。特別支援教育の中でも知識や技術を受け取る学習スタイルが一般的である。自ら疑問を持ったことに対して考え、企画し、行動する自発性を育てることは、生徒が卒業後に社会の中で、支援を受け取るだけでなく、発信する側、提供する側として活動できる力を養うことができる。そういった意味で、特別支援教育の中で国際理解教育" 開発教育に取り組むことは、生徒にとってのみでなく、社会にとっても効果的であることを伝えていきたい。

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