「イラン」ゴレスタン州営農計画、基礎情報収集・確認調査 実施報告

2022年2月26日

イランの北東部、ゴレスタン州では、2009年~2014年に実施された日本政府の技術協力「住民参加型農業開発促進プロジェクト」により、平野部における灌漑農地での水管理能力の強化、水生産性/農業生産性が向上しました。しかし、2019年3月の豪雨による洪水により灌漑農地を含むおよそ25万ヘクタールの農地が被災し、また近年の丘陵地における森林伐採、開拓に伴い土壌侵食が深刻な状況です。
こうした中、イラン政府からは、同州の被災農民の生計の回復及び傾斜地での土壌保全や水リスクの軽減に寄与する薬用植物を含む転換作物の導入について技術支援要請があり、JICAは2021年度、ゴレスタン州における営農の現状把握と農家の生計の安定化に向けた効果的アプローチの検討を目的とした基礎情報収集確認調査を実施しました。

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リモートと現地視察を上手に使い分けた調査

今回の調査はイラン政府農業開発推進省の協力を得つつ、国の農業・農村開発政策からゴレスタン州における営農・土地・水の利用状況、そして地域の土壌に適した防災・水効率性に有益かつ市場価値のある作物の選定に至るまで、幅広い内容を包括する形で実施されました。コロナ禍の渡航制限が解禁されるまではローカルコンサルタントも活用した遠隔での情報収集とリモート会議を進め、現地渡航が可能となってからは、首都テヘランの農業省本省での関係者協議やゴレスタン州現場視察を効率的に実施したことで、短期間にゴレスタン州の土地の特性(平野部、傾斜地、山間部)ごとの現状分析と課題、また、水管理、防災、転換作物栽培のアプローチから、これらの課題に総合的に取り組むための、いくつかのロードマップの提案が策定されました。これらの提案は、今後最終報告書としてイラン政府に提出され、政策としての優先事項が検討されることとなっています。

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リモートでの調査打ち合わせの様子

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農業省本部での関係者会議

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現地農家視察

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薬用植物研究所への訪問

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水利用の調査

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農家の聴き取り調査

日本の取り組みを紹介するワークショップの実施

また、今回の調査後半には、日本のバリューチェーンの取り組みと、持続的な農業開発のための農業農村レジリエンス強化についての農業関係者向けのセミナーが、会場とオンラインのハイブリットで開催されました。

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2022年1月24日(1日目):バリューチェーン開発を通じた農家の市場競争力強化

参加者

農業省職員(オンライン)ゴレスタン農業局職員 100名程度

項目

日本における薬用植物バリューチェーンの概要

  1. 日本におけるMedicinal Plantsの位置づけ・定義
  2. 製薬用原料としての薬用植物に求める品質の条件
  3. 製薬会社と農業者の連携
  4. 薬用植物栽培における機械化事例
    日本における農産物バリューチェーン開発の取り組み-直接販売事業-
  5. 直売所の事例(農家の運営する道の駅)
  6. 農家の機能性野菜栽培の取り組み

2022年1月25日(2日目):持続的な農業開発のための農業農村レジリエンス強化

参加者

農業省職員(オンライン)ゴレスタン農業局職員 100名程度

項目

  1. 日本の農業政策と土地改良事業
  2. 多面的機能、農地防災、農業近代化の取り組み
    1. 農業の多面的機能の維持と行政支援
    2. ため池防災と土壌流亡対策技術
    3. 農業の近代化(1)パイプライン、2)節水農業、3)農業ICT)
  3. 灌漑農業(渇水時の水管理、ストックマネジメント)
  4. 農地防災技術(ため池管理とハザードマップ)

2022年1月26日(3日目):ディスカッション

レジリエントな農村開発に向けて

今回の調査で浮き彫りになったことは、農家の生活を安定させるためには、市場価値のある作物を生産するということだけではなく、同時に農業の多面的機能を維持・促進する開発が必要不可欠であるということです。農業の多面的機能とは「国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承」等の農作物生産以外の機能を意味します。今後、ゴレスタン州にて収益性が高く、さらには優位な生産環境特性(耐乾性、耐塩性、耐寒性、土壌流亡抑制)のある薬用植物などの転換植物を導入することで、多面的機能を最大限に発揮させることが可能かもしれません。もちろんそこには市場志向型農業振興(SHEP)のような売るために作るマーケティング戦略やバリューチェーンの取り組みも必要となってきます。本調査をもとに、今後日本とイランの協力の方向性が定められ、良い事業につながることが期待されています。

(写真出典:JICA調査チームおよびゴレスタン州農業局)