2021年2月15日
途上国支援に携わった人であれば「メタ・ファシリテーション」について聞いたことがあるかもしれません。なぜ?どうして?を問わずに事実だけを質問してゆくことで、相手に気づきを与え自ら課題解決へと導く、現場実践から提唱された対話手法です。JICAイラン事務所は、中田豊一氏(NPOムラのミライ代表理事)にご協力いただき、イラン、ゴレスタン州の農業普及員約100名を対象に課題解決能力を向上させるためのオンライン・ワークショップを絶賛開催中です!
イラン北東部のゴレスタン州はカスピ海沿岸の温暖で農業が盛んな地域です。また、ペルシャ系民族の他にトルクメン系やアゼリ系等の少数民族も共存しており、色鮮やかな文化と歴史の宝庫でもあります。同地域は2019年の豪雨により河川が氾濫し大規模な洪水に見舞われ、人命や家屋だけではなく農地や農作物も深刻な被害を受けました。そして2020年は追い打ちをかけるようにコロナ感染症が拡大。このような非常時に際し、農業の現場では個々の農民の状況を把握し地域的な問題を解決するために、農業局普及員のコミュニケーション能力の重要性が再認識されています。JICAイラン事務所はイラン農業推進省の強い要請を受け、過去に技術協力案件『ゴレスタン州住民参加型農業開発促進プロジェクト』の一環として実施したことのある「メタ・ファシリテーション」研修をゴレスタン州農業局の農業普及員向けに開催することにしました。
講師の中田豊一氏はメタ・ファシリテーションの考案開発者。以前イランでも現地研修を実施し大きな反響を呼びました。国際協力現場のバイブルとして知る人ぞ知る著書「途上国の人々との話し方」は、その後ペルシャ語にも翻訳され、イランでも多くの関係者に愛読されています。イランを始めとする各途上国や国際協力の現場での指導経験が豊富な中田氏ですが、今回はコロナ禍で実際の現場に渡航できないため、初めてのオンラインでの遠隔ワークショップとなります。果たして参加者の反応や空気を読みながら効率的に実践できるのだろうか?と当初は不安もありましたが、中田氏の周りを引き付ける指導力と誘導力のおかげで、まるで全員がその場にいるような臨場感と一体感が生まれ、回数を重ねるごとに盛り上がりを見せています。
人間関係が密で、初めて会った人とも会話が弾む社交的なイラン人ですが、問題の核心に真摯に向き合うために、あえて相手の考えを聞かず「具体的な事実のみを訊ねる」、「アドバイスをしない」を徹底するメタ・ファシリテーションは目から鱗が落ちる新しい対話手法。頭では分かっていても実際にやってみると非常に難しく、身に着けるには常日頃からのマインドセットと訓練が必要だと身に染みます。ただ、これが農民との対話だけではなく、家庭や職場などの日常生活にも活用できる素晴らしいコミュニケーションツールであることは明確で、誰もが真剣にマスターしようと努力しているのがうかがえます。
ワークショップ参加者からは毎回素晴らしいフィードバックが寄せられます。しかし何よりも嬉しいのは「ワークショップで習ったことを実践しています」という報告です。「昨日家族とメタファシ手法で対話してみたら、こんな事実に気づいた」「うちの職場では週に1回フィールドに行って農民との対話を実践練習することに決めた」「メタファシの重要事項を執務室に貼って意識するようにしている」そんな声や写真が届くと、ワークショップの成果が現場で生かされているのだと手ごたえを感じ、その持続発展性を祈らずにはいられません。本ワークショップは2021年3月まで開催中。一人でも多くの普及員の方が正しいメタ・ファシリテーション手法を身に着け、地域の農業現場の課題解決に道筋を与えることができればなによりです。