関西から飛び立ち、途上国で頑張る!派遣中の協力隊を紹介します-Part31-【和歌山県】

氏名:多田 慎吾(タダ シンゴ)
出身地:赴任前には観光学が盛んな和歌山大学で観光地域経営を学び、研究をするため和歌山県和歌山市に住んでいました。
研究テーマは「途上国における観光地域経営とガバナンス」です。
隊次:2023年1次隊
職種:観光

JICA海外協力隊参加のきっかけ

これまでの実務経験と学問の双方の経験(旅行業、ホテル業、クルーズ業、NGO、援助機関、国際関係学、観光学等)を活かし、途上国での貧困削減と経済的自立のための観光人材の育成と地域政策づくりに貢献することで自己実現を図りたいと考えたからです。

自己紹介

みなさん、こんにちは。約一ヵ月前(注1)の7月下旬にジンバブエに赴任しました多田慎吾です。現在は首都ハラレにて、地方にある配属先に赴任する前の現地研修を受けています。今回はまだ到着してから間もないジンバブエの印象について、観光隊員の視点からお伝えできればと思います。

私の派遣先は、首都ハラレから南東に260㎞程に位置するムタレという町に位置するムタレ技術工科専門学校です。1986年に設立された学校で、職員数約400人、生徒数約3000人を有する大規模な技術工科学校です。実学を中心に教育を行うこの学校では、土木工学、商業分野を学ぶことができます。5つの学部があり、私はそのうちの応用科学学部、ホスピタリティ・ツーリズム学科の指導員として、学生や教員に対する観光実務の教育サポートと指導、そして地域の観光開発に取り組むことを期待されています。

注1:原稿執筆は8月末頃

【画像】

緑の多いジンバブエの町並み

【画像】

ジンバブエの歴史を象徴する壁面彫刻

“ホスピタリティ溢れるジンバブエの人々”

ハラレの町中ではどこを歩いていても誰とでも気軽に挨拶を交わすことができる温かい雰囲気を感じています。ジンバブエでは英語が主要な公用語ですので、あいさつや日常会話程度のコミュニケーションも英語で交わすことができます。現地では黒人系、白人系の人々が生活し、黒人系の人々は主に英語とショナ語(ジンバブエやザンビア南部に住むショナ人の母語)を話し、一方の白人系の人々は英語を中心に話します。路上でのすれ違い際、目が合っていなくても、相手から先に声を掛けられる機会も多くあり、気持ちのよい印象を受けています。

私は数年前にも南アジアと東アフリカの村々で数年間生活し、仕事の海外勤務でも数年間、50か国以上の人々と一緒に日本を離れて10年以上共同生活を送ってきました。その経験を振り返ってみても、ジンバブエの人々のフレンドリーさに対しては、驚きに近い感動を受けています。その感動の理由の一つとして、外国人に対する偏見や物珍しさを現地の人々からあまり感じないことが挙げられます。例えば、外国に行き、街中を歩いているとアジア人をからかうような言葉を投げかけられたり、物珍しさからか、足を止めて凝視されたりする場面に遭遇することがありますが、ジンバブエでは、首都ハラレの街中を歩いていてもそのように言われることは本当に稀です。

また、相手を気遣う心が態度や行動にも表れていると感じる場面に遭遇したことにも感動を覚えました。買い物の帰り道での出来事です。私は大きなスーパーの袋を持って、見渡しの良い、細い一本道を歩いていました。同じく数百m先から2人が荷物を頭に乗せた状態で一人ずつ歩いて来ました。一人は子どもで、もう一人は女性でした。私は子どもに道を譲り、しばらくすると女性が歩いて来ました。その時、その女性は、その頭に大きな荷物を乗せていたにもかかわらず、手のひらを返し微笑みながら道を譲ってくれました。その時には、目での合図も送ってくれました。まるで、その女性は、「あなたさっき道を譲っていたでしょ。だから私も譲りたいの」と言っているようでした。お礼を言ってその場を離れましたが、そのような彼女の態度と行動からは心の温まる親切心を感じました。

さらに、別の日の買い物後の出来事です。スーパーで野菜や雑貨、シャンプーなどを購入して店を離れ、そこから100mほど離れた時、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえました。はじめこそ身構えましたが、それはスーパーのガードマンでした。彼の手には私が購入したはずのシャンプーが握られていました。私はこの時にはじめて会計時に商品を支払いカウンターに置き忘れてしまったことに気が付きました。日本でもなかなか体験できない出来事に感動し、ジンバブエの人々の親切心を垣間見ることができました。

観光隊員の観点から

わずか一ヵ月という短期間でも、ジンバブエ人のホスピタリティを感じられる機会に恵まれました。これらの機会は何気ない日常の中での一コマでしたが、意図しないで遭遇した偶然の連続がその土地の印象を決定づけることにつながり、観光振興にとっても大変重要なポイントです。その印象こそがすでに地域の観光サービスの一環だからです。もちろんガバナンス等未だ多くの課題も残る国ではあると思いますが、一般社会において、このような前向きな人々の態度や行動が散見されるという事実は、将来の観光産業の発展に向けたきざしとなるばかりか、地域や国家の社会経済発展の希望とさえなり得ると考えます。

その希望を発展させるためにも、ジンバブエのように各資源に制約の多い国においては、社会や人々の長所に目を向け、それを活かし、尊重しながら、自律的に発展させていくための地域の協働体制や住民参加の仕組みを築くことが大切だと考えます。まだまだ赴任したばかりの一隊員の理想かもしれませんが、そういった仕組みが観光活動を通じて活性化されると、この国の良さが国内外にもっと理解されるのではないのでしょうか。

今後約2年間、その仕組みづくりに観光の立場からアプローチしたいと考えています。そのためには、地域の新たな有形・無形の資源を見つけ出すこと、そして、注目を集め地域の誇りと結束力を高めることで地域主体の原動力を掘り起こす。そんな一連のプロセスを念頭に置きつつも、まずは配属先を中心とした観光による自律可能な地域経営を目標としつつ、観光教育指導員の立場からではありますが、産官学・地域の人々と共に、ジンバブエの社会経済の発展に少しでも近づくことができれば嬉しい限りです。