『カウンターパート有り、遠方より来る』齋藤英毅元専門家からの寄稿(牛生産性向上計画1998~2003年)

2019年10月30日

JICAがパナマ大学をカウンターパートにして実施したパナマ国牛生産性向上計画(1998年~2003年)の専門家、齋藤英毅さんから、JICAパナマ事務所に、当時のカウンターパートの近況についての嬉しい寄稿をいただきました。

『カウンターパート有り、遠方より来る』

随分と昔、小学校の同窓会に出た際に、当時担任だった先生が「忘れた頃に、昔の教え子から連絡をもらえるのは本当に嬉しいものです」と言われるのを聞いたことがある。この5月、新元号になったことも影響してか、かつてのカウンターパートにも改めて日本を思い出す機会があったのかもしれない。彼らの近況を伝えてくれたメールを受けた時の私の気分はまさしくかつての恩師の談そのものであった。もっとも、彼らは私のカウンターパートではあったものの、年齢的には私の方がむしろずっと後輩である関係の技師も多かった。連絡をくれたのは「パナマ国牛生産性向上計画(1998年~2003年)」の元カウンターパートで、当時は一番若かったVictor Villarreal技師である。本案件は、パナマ大学を受け入れ機関としており、西語の頭文字を取ってPROMEGAと呼ばれていた。案件終了後、当時のJICA専門家陣の強い意向により、PROMEGA Instituteという新しい機関としてパナマ大学に存続することとなり、途中、移転に係る取り決めや閉鎖問題等、紆余曲折はあったものの現在でも業務を続けている。しかし、年々、予算を確保することが難しくなってきていることや、往々にして活動が予定通りに出来ないことが頻発化していることも風の便りに聞いていた。

PROMEGA Instituteは、パナマには多い小規模の乳肉兼用農家への実践的な適正技術の開発とその普及を主な業務としており、その中には人工授精技術の普及、すなわち、家畜人工授精師の養成も含まれているが、今回の便りは、数年ぶりにこの人工授精師養成のための講習会を開催することが出来たというものである。人工授精は、パナマをはじめ中南米全域で上記プロジェクトが稼働している当時からかなり関心が高く、一部には普及もしていたが、資産のある生産者のホビーという感も強かった。この意味においてPRMEGA Instituteは、人工授精技術の普及を小規模農家に対しても率先して行った先駆者と言ってよいだろう。既にJICAの支援から離れた後の2007年、Instituteは、この技術の移転活動をより本格化させるため、「人工授精師養成学校」を設立した。この企画を成就させた時の喜びは相当大きかったようで、当時所長、そして案件時代のプロジェクトマネージャーだったDr. Corderoからの便りは実に達成感に満ちていた。しかしその後、既述したようにInstituteの諸活動は必ずしも順風満帆ではなく且つ代替わりもあり様々な思惑が交錯し、閉鎖の危機にも立たされた。しかし、二代目所長のMedina技師(同じく元C/P)の踏ん張りもあり、どうにか持ち堪えてきた。そして、当時はまだ30代になりたてで若く、我々日本人からもまるで少年のように扱われていた上述のVillarreal技師も、その後は所長の右腕となり、資金繰りも含めて学内に止まることなく、Instituteの存続のために東奔西走してきたようだ。

そういった話を聞いていただけに、随分と時間が流れ、年号まで変わってしまったこの時期、「久しぶりにPROMEGA Institute主催で講習会を開催しましたよ」という連絡は、私をも有頂天な気分にさせてくれた。開催されたのは今年の2月、全10日間の催しには人工授精の理論と実技の習得を希望する11名の、畜産技師、獣医師、生産者等が参加し、各人が300 USDの参加費をきちんと払ったという。Villarreal技師によれば、今回の催しの総額は約5,000 USDで、参加者から徴収した額で足りない分は、Instituteが所属する農学部と、副学長室と呼ばれる学内の機関に掛け合い、講習会の要望が世間から強くあること、そしてそれを実施すれば、パナマ大学にもそのクレジットが持たされること等を強く伝えながら獲得したという。その上さらに嬉しく驚嘆しながら読んだのは、この講習会には、同じくJICA畜産案件:「ボリビア国小規模畜産農家のための技術普及改善計画(2004年~2008年)」のカウンターパートであったMoises Salinas獣医師もインストラクターとして参画していたことである。こうした調整や経費の調達作業を、すべて彼ら自身が行ったという事実に、私は今更ながら素直に感動した。「どれだけ技術を習得しようが、よその国の財布に頼ってばかりで、自分たちで予算を組めないうちはダメだ」と、彼らにとって耳が痛いであろうことばかり言っていた自分を、少し後ろめたい気分で思い出したりもした。でもそのせいか、Villarreal技師からの手紙の最後にあった「是非ともJICAにも伝えてほしい。みんな自分たちでやったんだと自慢してほしいよ」という下りは、まさに報われる思いで読んだ。今後もまたInstituteは荒波に揉まれてゆくのだろう。でもどうにか、地域の畜産振興のために存続してくれたならば本当に嬉しい。(元専門家)

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実習風景:アプリケーター手技

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実習風景:直腸検査

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実習風景:生殖器の解剖

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元C/P:Medinaさん、Salinasさん、Villarrealさん