パナマの農村開発と生活改善、一村一品、道の駅、有機農業-農村を変える帰国研修員たち

2019年11月7日

パナマは中米では最も高い社会経済レベルを誇る国で(一人当たり国民総所得12,140ドル、2016年世銀)、首都パナマシティでは高層ビルが立ち並びますが、パナマシティから離れ国の中央部に入っていくと、農村地帯が広がり、首都と地方部の格差が問題になっています。国民の4人に1人(約100万人)が貧困住民であり、極貧住民は10人に1人(約40万人)であると報告されています(2015年)。国土の6割が山岳地帯であり、地方部では、現在も電気・上水道が整備されない地域も多く、3割以上の人が薪を燃料に生活しています。

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パナマシティ

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地方部の家(西パナマ県カピラ市エル・カカオ村)

このような地方部の貧困状況と首都との格差を改善すべく、パナマの農牧開発省や地方分権庁、教育省、保健省、環境省やNGOなど、数多くの団体が地方部の生活条件の改善のための努力を続けています。JICAはこれらのパナマの団体の努力に協力すべく、日本の農村開発・農業技術のうちパナマで活用できるものを探しながら、活動を続けています。

パナマと「生活改善」

JICAのパナマでの農村開発の活動では、日本の戦後の「生活改善」の経験が生かされています。日本の第2次世界大戦後の農村復興の際に当時の農林水産省が実施した「生活改善普及事業」。外から来た人がお金を使って何かを与えるのではなく、今あるものを使って何をすれば生活が改善できるか自ら考えることで農村を変えたといわれる事業です。中南米の多くの農村地域では、農業生産が向上しているにも関わらず人々の生活が必ずしも改善されていないという問題がよく見られ、その原因の一つは「依存体質」にあります。様々なことを政府や自治体に要求し、支援を待つだけになりがちな農民たち。このような状況に対し、JICAは、茨城県つくば市にあるJICA筑波を拠点として日本の戦後の経験や「生活改善普及員」さんの経験を伝える研修を毎年実施しています。これまでの参加者はパナマからは30人以上、中南米全体では300人以上にのぼります。

パナマでは、これまでに農牧開発省、環境省、農協、教育省、NGO等に所属する人たちが参加しました。これらの日本での研修に参加した研修員は、パナマへの帰国後に、日本での生活改善の経験を活かす形で、自分たちの生活のうちから「お金がなくても改善できる活動」「お金があれば改善できる活動」「お金を稼げる活動」を探すべく、各家庭に向けたセミナーをします。農牧開発省サンチアゴ支部のマガリ・サンドバルさんは2016年5月から6月に研修に参加しました。その後、ベラグアス県とノベ・ブグレ先住民自治区の6パイロット地域で、例えば改良かまど、エコトイレ(排泄物をたい肥として活用)、農産物栽培の技術向上、家の整理整頓などについてセミナーを行った後、参加した家庭が自分たちの生活の中で改善できることを見つけ、改善のための活動を行う際にそのやり方を見守り、必要に応じ助言します。このような地道な活動を通じ、農村部の家庭の生活が少しずつ変わっていっています。

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マガリさん(中央)

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改良かまど

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改良前のかまど

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お金がなくてもできる、「整理整頓」

中南米各国に300人を超える帰国研修員がおり、各国での活動状況を情報交換するネットワーク「REDCAM」も生まれています。

パナマと「一村一品」

日本の大分県で始まった「地域おこし」の「一村一品運動」。その理念や活動は世界各地でも地域活性化の手本とされています。パナマでは、2013年に中小企業振興庁、産業省、農牧開発省、環境省、市役所、NGO・基金の関係者が日本で行われる技術研修に参加し、パナマへの帰国後、各地に存在する資源を活用し、住民の主導・工夫によってその地域独自の商品やサービスを探して地域おこしに繋げています。例えば、パナマにはチャグレス国立公園という、熱帯雨林の中に先住民エンベラ族が住むコミュニティが点在する公園があります。エンベラ族は昔からの伝統的な暮らしを観光資源として収入につなげています。チャグレス基金というNGOで働く帰国研修員のロサ・マリア・ゲラさんは、2014年5月にJICA九州が実施した、大分県他を訪問し地域おこしの手法を紹介する研修に参加しました。帰国後は、日本での研修内容を活かし、公園内でエコツアーを計画、先住民コミュニティの文化習慣に触れつつ、自然を満喫できるパッケージをパナマシティの住民や外国からの観光客に売り出すことで、エンベラ族のコミュニティの地域おこしを手伝っています。

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ロサ・マリアさん(右)

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エンベラの少女

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エンベラの民芸品

パナマと「道の駅」

日本では地方活性化の一方策としてよく見られる「道の駅」が、パナマでも応用されようとしています。パナマ観光庁のオフェリア・ロドリゲスさんは、2018年8月から1か月間、JICAが北海道で「道の駅」をテーマとした研修に参加、北海道内の道の駅や地元産品の加工施設を訪れ、商品開発や運営方法を学びました。パナマに帰国後、パナマシティから車で約5時間の場所にありウミガメやクジラ・イルカが見られることで有名なロス・サントス県のペダシという街に向けた主要道路沿いに、「道の駅」同様の特産物の販売推進拠点を作るべく、観光庁内の同僚やコミュニティリーダーに考え方を説明するセミナーを繰り返し行っています。

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オフェリアさんのセミナー

パナマと「有機農業」

JICAでは中南米地域を対象とした有機農業/環境保全型農業の普及を目的とする研修を実施しており、中南米全体では140人以上が、パナマでは20人以上が参加してきています。

エレラ県ロス・リャノス・デ・オクにある技師養成学校に勤めるメイナルド・ミトレさんは2015年6月から8月にかけて2か月間、持続可能な環境保全型農業による小規模農民支援・農業技術普及手法についてのJICA筑波での研修に参加しました。パナマへ帰国後、他の帰国研修員とともに、ベラグアス県、ノベ・ブグレ先住民自治区、エレラ県、西パナマ県の合計15コミュニティを対象に小規模農家へのセミナーを実施しています。エレラ県の技師養成学校内にある展示圃場では、健全な作物を育てるための木酢液を使った農業が見学できます。

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メイナルドさん

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圃場

JICAの研修に参加した人は、帰国時に「アクションプラン」と称して、日本で得た知見を自国で活かすための活動計画を立てます。これらの活動に対し、JICAは帰国研修員への活動経費(セミナー開催費・交通費など)を支援する形で応援しています。帰国研修員たちによる同窓会もあります。

2019年7月に発足した新政権のコルティソ大統領は元農牧開発大臣でもあり、地方との格差是正を主要政策の1つに掲げています。これから農業・農村開発分野がどのように活性化していくのか、パナマの人たちの動きを見ながらJICAの活動を考えていきます。