日本人移住120周年記念行事 在外研修「南米スペイン語圏日本語教育セミナー」

2019年9月19日

JICAシニア海外ボランティア 西岡裕知

9月13日(金)からリマ市ペルー日系人協会日秘文化会館において、在外研修「南米スペイン語圏日本語教育セミナー」が開催されました。周辺諸国であるチリ、パラグアイ、アルゼンチンから日本語教育のJICA海外協力隊員がカウンターパートと共に集まりました。翌日14日(土)からは第5回南米スペイン語圏日本語教育連絡会議(以下、南米会議)も同時開催され、上記以外にベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ボリビア、ウルグアイの南米諸国に加え、中米からメキシコ、グアテマラからも日本語教育に携わる専門家が一同に集結しました。

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今回の南米会議「南米日本語教育のエンパワメント」をテーマに選んだことから、JICA協力隊員も、「多様な教育資源の活用に関わっての実践」と「教師や学習者のエンパワメントに関わる実践」という2つの観点から日頃の活動を見直し、レポートを準備してきました。13日はプレゼンテーションでそれぞれの活動を報告しました。

14日、15日は南米会議に参加するという形で研修をしました。14日の「南米日本語教育のエンパワメントを考える-言語政策的視点から」(松原サンパウロ大学教授)の講演では、今後の「日系」社会の方向性を考えるという大きな視点での見方を学びました。日頃の活動がどのようなインパクトがあるのかを考えるきっかけになりました。

国際交流基金の中島日本語専門家(ブラジル)と松田日本語専門家(メキシコ)による「中米・カリブ・南米の日本語教育-言語・文化資源の視点から」というテーマのパネルディカッションでは、身近にある教育資源にはどんなものがあるか、それをどのように活用していけばよいのかについて考えました。パネラーの提言のあとグループで意見を交流し、さらに深めることができました。

南米会議の各国代表者からは、会議のテーマを受けて「教育資源」「エンパワメント」という観点から、各国の教育事情の紹介がありました。他の国の教育事情を知る貴重な機会となりました。自分の活動と共通する部分もあれば、まったく異なる教育環境もあることを知り、改めて南米日本語教育の多様性を感じました。

15日(日)は日本から来ていただいた川口先生(言語・生活研究所代表/早稲田大学名誉教授)による「会話・文法指導の「文脈化」・「個人化」」の講演では、学習は「文脈化」された状況でこそ意味があること、「個人化」することにより表現意欲が高まり、個人が自分の言葉で自分のことを語るのが究極の目標だということなどを学びました。新しい視点であり、かつ現場ですぐに活用できる方法論も含まれており、多くの隊員が自分の活動に活かそうと考えるきっかけになるものでした。

分科会は、次の5つから2つ選んで参加するという方法でした。「大学での『まるごと』の使用」「文法項目の指導方法」「公教育での取り組み(ボリビア)」「「公教育での取り組み(パラグアイ)」「俳句コンクールの運営」というテーマは、すべて興味深い内容であり、2つではなく3つ参加したかった、時間ももっとほしかったという声が聞かれました。

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今回の在外研修では日本人ペルー移住120周年という大切な節目の年でもあり、周辺諸国で活動する日本語教育に携わる隊員たちにもペルーの移住の歴史を知ってもらうため、日本人ペルー移住史料館への見学も実施しました。ガイドは史料館で活動する大野博子隊員に依頼し、リニューアルして間もない展示の一つひとつについて詳細に説明をしてもらいました。参加者からは、「日本人移民がペルー社会に与えた影響力の大きさに驚いた。」「農業で来られた日系移民でも、床屋や各種商売に転職して活躍していったことにたくましさを感じた。」「ペルー日系社会が大きくて力強いことに感銘を受けた。」「ペルーへの日系移民の歴史について、詳しく興味深く知ることができた。」「政策移住史を丁寧にまとめられていて、非常に立派な施設だと思った。」「大野隊員から、各コーナー別にコーナーごとの時代背景やモノや人物の紹介をしていただいて、よくわかった。」などの感想が聞かれ、移住の歴史を知る貴重な機会となりました。

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開会式では在ペルー日本大使館から土屋定之大使も参列され、盛大に行われました。土屋大使を始めとし、ペルー日系人協会アベル・フクモト会長、JICAペルー事務所礒貝白日次長、国際交流基金メキシコ日本文化センター杉本直子所長より、お祝いのご挨拶をいただきました。この挨拶の方々の立場からも、この南米会議の意義や重要さが改めて感じられました。

最終日16日(月)はリマ市内にある日系校の1つである野口英世校に見学に行きました。小学部3年生の授業では、絵に合わせてひらがなのカードを貼りつけて言葉を完成させる活動や、手作りのひらがなカードを使ってペアで神経衰弱のゲームをしていました。友達どうし仲良く楽しく学習している様子がたいへんほほえましく思えました。

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中学部3年生のクラスでは、土屋大使が生徒に、「この立派な学校で元気に楽しく勉強してください。これから日本人だけでなく多くの外国人と会う機会が増えるでしょう。好奇心を忘れず積極的に交流してください。10年後に皆さんが様々な場所で活躍する姿を見るのを楽しみにしています。」という話をしてくださいました。生徒からの「大使の好きな食べ物は何ですか」という質問に、土屋大使はロモ・サルタード(ペルーの伝統的な料理)と答えていらっしゃいました。めったに受けることができない大使からの生き方についてのミニ授業に生徒は一生懸命耳を澄まして聞いていました。

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ペルーは地形的に、コスタ(海岸)、シエラ(アンデス山脈)、セルバ(ジャングル)の3つに分かれています。それぞれに服装や食べ物や踊りなど、すべて独特の文化があります。歓迎のセレモニーでは、生徒の代表の人たちが、3つの地域の伝統的な衣装を着て伝統的な踊りを披露してくれました。周辺諸国からペルーに来たJICA協力隊員はペルーの文化の一端に触れることができました。昼食にはパチャマンカというペルーの伝統的な料理をごちそうになりました。豚肉、鶏肉、さつまいも、豆などを蒸し焼きにした料理です。ケチュア語やアイマラ語で大地を意味する「パチャ」と鍋を意味する「マンカ」が語源だそうです。実は野口英世校にはパチャマンカを作るための周りを煉瓦で固められた専用の穴が地面に掘られています。その中に食材をバナナの葉などでくるんで、熱した石と一緒に入れて蒸し焼きにします。食後に食材を取り出したあとの穴をみんなで見に行きました。調理後2時間ぐらいたっていると思いますが、まだ熱気がむんむんと上に上がってきていました。野口英世校を見学したある隊員は次のような感想を書いていました。「授業の様子、子どもたちのデモンストレーション、すべてかわいらしく、一生懸命さが伝わってきて、感動いたしました。」

この4日間の研修は、長いようで短かかったと多くの隊員が語っていました。日本語教育に関する多くの学び、ペルーの文化との接点、他国の仲間との交流など、自国だけではできない内容でした。この貴重な経験を通して学んだことを自国に持ち帰り、今後の活動に活かしていく決意を新たにした次第です。