ペルー「世界津波の日」(11月5日)関連行事の開催

2019年11月6日

「世界津波の日」とは

日本のイニシアチブをもとに、2015年の第70回国連総会本会議において142か国によるコンセンサス採択によって、11月5日が「世界津波の日」として制定されました。そのため、この日、世界中で津波のリスクを考え、災害に備えた事前の対策や適切な避難について啓発し、考える機会となっています。また、たとえ被災したとしても、災害前よりもより強靭な社会をつくっていくという未来志向で希望のある復興を呼びかける必要性が注目されています。「世界津波の日」を通じた取り組みは、第3回国連防災世界会議で採択された仙台防災枠組み(2015-2030)の進展を模索し、同時に持続可能な開発のための2030アジェンダをフォローするものとの位置づけから、自然災害を前に命や生活を守ることが出来るよう、国内外との連帯を呼びかけるものにもなっています。

過去に大地震や津波による被害を何度も経験しているペルーでは、毎年恒例の行事やフォーラム、全国避難訓練の実施等を通じて、「世界津波の日」にちなんだ様々な取り組みを2016年以降積極的に推進してきており、津波の脅威にかかる啓発や早期警報システムの充実に向けた取り組みが展開されています。

「世界津波の日」にかかる記念式典

式典は、11月5日(水)カヤオ特別区にあるグラウ広場で、国家防災庁(INDECI)や海軍・水利航行局(DHN)の高官、防災対策担当、日本大使館、JICAから約50名の参加を通じて行われました。式典では、チャベスINDECI長官代行で挨拶をしたカランサ事務局長は、地球温暖化が進む中、津波のような共通の自然災害に対して、様々なステークホルダーが協力をして取り組むことが重要だと述べました。また、チャベス長官が9月に日本の避難訓練を視察した感想として、日本の避難訓練のように、行政側が住民を動かすというコンセプトに留まらず、緊急時における行政側の支援方法やメニューを住民が知る機会とすることも避難訓練の重要な目的の一つである、と述べました。在ペルー日本大使館からは梶本参事官が出席し、2011年の東日本大震災による津波被害に触れ、その後、日本では津波対策に関係する様々な領域で更なる改善が施されている点を挙げ、改めて「世界津波の日」に災害を振り返り、現状の対策について考察することが出来る重要な日であると述べました。JICAからは、礒貝次長が代表挨拶を行い、ペルーにおけるJICAの取り組みについて、インフラや社会的な面での脆弱性も踏まえた上で取り組みを展開することが、レジリエントな社会の構築やひいては人間の安全保障の強化に重要であると述べました。また、同式典では、海軍・水利航行局より沖合の船上から海へ献花され、世界各地で津波により命を落とした方々を想い、黙祷が捧げられました。

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「世界津波の日」にかかる記念式典

緊急警報放送システム(EWBS)を活用した夜間避難訓練(全国)について

INDECIは、11月5日(火)20時より、ビスカラ大統領を筆頭に他の関連機関と共に全国夜間避難訓練を実施しました。同日は、ペルー沿岸部では大地震とかかる津波を想定し、内陸部では、その他、大雨・洪水など様々な災害種による被災を想定した避難、被災者支援などの訓練を行いました。中でも、大統領が視察したリマ市内のショッピングモール(モール・デ・スール)では、同モール外壁にある既存の大型スクリーンにはEWBSによる文字災害警報が映し出され、モール内の警備員や後に動員された陸軍隊員に誘導されながら、買い物客や食事をしていた人々は、落ち着いた様子で避難出口から建物の外へ避難し、同モールが設置している安全地帯に集合し、スクリーンの文字災害情報に見入っていました。避難訓練実施前には、モールの構内アナウンスや掲示板等では、避難訓練が実施される予定である点、事前の情報提供がなされていましたが、中には、避難訓練だったということをスクリーンに映し出されるEWBSの災害情報(避難訓練との旨記載)を見て初めて知る人もいました。モールの外には、赤十字や医療スタッフのテントが設置され、消防隊員や陸軍隊員にタンカで運ばれる(INDECI職員)人の人命救助活動や搬送の演習がなされていました。大多数の買い物客の誘導や避難による人ごみの混乱の中での人命救助演習など、緊迫感のある状況下で、大型スクリーンに表示される地震情報や津波警報(同モールは、津波到達範囲外のため、新たな避難なし)を見ながら、個人の携帯電話等で家族や友人たちと連絡を取り合う等して、警報と災害情報が有効に活用されている様子が印象的でした。

また、地震発生(訓練)に伴う一般市民の一時避難と人命救助等の初動対応発動から1時間後には、INDECIの緊急オペレーションセンター(COEN)に大統領及び閣僚が集合し、国家災害リスク管理審議会(CONAGERD)を実施し、大規模災害で差し迫った危機に対応するための情報・意見交換、意思決定を行うため協議を行いました。また、同CONAGERDが実施された会議室にはEWBSの受信機を設置し、会議中も災害情報が流れるような工夫がなされました。更に、同会議の開催中に、来年5月の避難訓練では、日本式の避難訓練手法を取り入れて全国避難訓練を実施することが発表されました。

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モールの外に避難する買い物客

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大型スクリーンに出されるEWBS

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誘導と救助にあたる陸軍隊員

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救急車で負傷者を搬送

「世界津波の日」国際フォーラム:緊急対応準備プロセスの実施にかかる進捗

翌11月6日(水)に、INDECIは国際フォーラムを開催し、元JICA専門家の阪口安司氏(J-TEC)より、EWBS等の早期警報放送システムの紹介がなされました。また、早期警報システムの進捗について、地震・津波による国家警報システムのプロトコールにて役割が特定されている地球物理庁(IGP)、DHN、INDECIから各機関における進捗や各々が考える課題や対応策などについて発表がなされました。

この中で、IGPのタベラ長官からは、リマ・カヤオ地域では、2010-2015年にJICAの支援で実施された科学技術協力(SATREPS)案件「ペルーにおける地震・津波減災技術の向上プロジェクト」の成果にも触れ、ハザードマップなど地震の脅威による具体的なリスクを把握し、備えることが重要であると訴えました。リマ市を中心に、脆弱な土壌や位置に脆弱な建物が点在している現状を示し、現在、予測されているようなマグニチュード8.8以上の巨大地震が到来すれば、その人的被害・経済的損失は計り知れず、少なくとも4万人が深刻な被害を被ることになると警告しました。そして、現在に至るまでIGPで進めてきている地震速報の取り組みについて、来年5月の全国避難訓練には、何かしらの形で地震速報を適応できるように進めていきたいと展望を述べました。次に、DHNのパス長官は、様々な津波の要因と構造について説明し、2001年に発生したペルー国内のカマナ地域の津波被害について、写真等を用いて被害状況を説明し、2004年のインドネシア沖の津波、2011年の東日本大震災時の津波についても共有されました。最後に、INDECIのメディジャ緊急対応準備部長からは、早期警報システム全体を調整するINDECIでの取り組みの進捗報告があり、地震の早期警報はIGPとINDECIの双方が、そして、津波警報については、INDECIが主管となって取り進めているということでした。

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INDECIメディジャ緊急対応準備部長

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DHNパス長官

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IGPタベラ長官

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EWBSを紹介する阪口氏(元JICA専門家)