プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)タミル・ナド州非感染性疾患対策プロジェクト
(英)The Project for the Prevention and Control of Non-Communicable Diseases in Tamil Nadu

対象国名

インド

署名日(実施合意)

2020年10月15日

協力期間

2022年4月18日から2026年4月17日

相手国機関名

タミル・ナド州保健家族福祉局

背景

近年急速な経済成長を遂げるインドでは、保健医療分野において政府主導の「国家農村保健医療ミッション(National Rural Health Mission)」が2005年より実施され、結核やHIV/エイズなどについて個別の対策プログラムが実施されたことにより、感染症の発生件数の減少等、保健指標に改善が見られている。

一方で、経済発展に伴う生活習慣の変化などにより、心血管疾患やがんなどの非感染性疾患(Non Communicable Diseases。以下「NCDs」という。)の患者数が増加傾向にあり、感染症を上回って都市部の死因の上位を占めている。更に、NCDsによる死亡割合は60%、30歳から70歳の間にNCDsが原因で死亡する確率は26%と見込まれている(WHO(2015))。NCDsの増加傾向は今後も続くことが見込まれており、母子保健や感染症などのプライマリヘルスケアに加えて、長期的な対応を必要とするNCDs対策(予防と管理)が喫緊の課題となっている。

タミル・ナド州(人口7,200万人、2011年国勢調査)はインドにおいて最も都市化が進んだ州(都市部の人口割合48.5%)であり、約864万人(2011年国勢調査)がスラム地域に居住している貧困層とされ、その数は今後も増加すると予想されている。一方、都市部の貧困層が依存する公的医療サービスについては、都市部への人口流入により増大しつつある医療サービスの需要を満たすことができておらず、都市部貧困層の公的医療サービスへのアクセス強化は喫緊の課題となっている。また、生活習慣の変化などにより、貧困層を中心に従来課題となっていた母子保健や感染症対策に加え、NCDsが増加傾向にあり、タミル・ナド州では、がん発生率や糖尿病有病率が全国平均を上回るなど、早期発見、早期治療などを含むNCDs対策の必要性が高まっている。具体的には、NCDsの診断に必要な検査と応急的な処置ができる2次医療施設の整備、心血管疾患などに対する正確な診断や、治療・手術などの医療サービスを提供するための3次医療施設・機材の整備などが求められている。

上記を踏まえ、円借款「タミル・ナド州都市保健強化事業」(L/A調印日:2016年3月31日)は、主に2次・3次医療施設の整備を行うものであり、タミル・ナド州にて増加するNCDsへの対策や都市部貧困層への公的医療サービス提供に向けた都市部の保健医療システムの質を改善し、かつNUHMを推進するものと位置付けている。

一方、上記円借款による支援にとどまらず、NCDsの予防・早期発見の為の行政管理能力強化や、求められる医療のレベルが高度化していることによる医師の能力強化のニーズが高まっている状況にある。

上記を踏まえ、タミル・ナド州非感染性疾患対策プロジェクトは、タミル・ナド州にて大きな疾病負担となっているNCDsに対応するため、先方政府のニーズに合致した行政の管理能力強化、また医師の能力強化を中心に支援する。既存円借款事業で支援した医療施設を含む医師の能力強化を支援することで既存円借款事業を補完し、また、行政の管理能力強化により、都市の包括的な保健システムの強化を一層推進するものと位置付けられる。

目標

上位目標

タミル・ナド州においてNCDsによる疾病負荷が軽減されている。
指標及び目標値:プロジェクト期間終了半年前までに、関係者協議の上でパイロット県のNCDs疾病負荷増加抑制もしくは軽減に関するアウトカム指標を少なくとも二つ以上設定する。

プロジェクト目標

タミル・ナド州において、がんに焦点を当てたNCDs対策に係わる医学的、行政的管理能力が向上する。

成果

1.根拠に基づいたNCDs予防(特に二次予防)と対策のための運営管理が強化される。
2.NCDs医療に従事する医療従事者がNCDsの診断や治療を含む高度医療技術を獲得する。
3.タミル・ナド州のパイロット県において、コミュニティおよび一次医療施設における根拠に基づくNCDs対策に対する新しいアプローチが検証される。

活動

1-1.タミル・ナド州で現行実施されているNCDsの予防や早期発見、診断後の疾病管理等に係わる取り組みをレビューする。(必要に応じて、パイロット州での実態調査を実施する。)
1-2.州や県レベルのNCDs予防対策に係わる政策決定者、高度医療を担う専門職などとともに、特にがんスクリーニングや行政管理、医療情報管理などについて根拠に基づくNCDs予防対策に係わる本邦研修を計画(研修テーマ、期間、対象者、期待する成果など)する。
1-3.活動1-2の計画に沿って、本邦研修を実施する。
1-4.研修テーマ毎に本邦研修参加者がトレーナーとなり、関連する政策担当者、医療技術者を対象とした普及セミナーを開催する。
1-5.本邦研修で得た知識や最新の文献等参考に、タミル・ナド州における悪性腫瘍や他の重要疾患のスクリーニング・プロトコルの改良、新規導入に関して、実現可能性について検討する。
1-6.スクリーニング対象疾患の拡大などのNCDs対策に係わる行政管理について、関連する当局と実際の適用に向けた協議を実施する。

2-1.活動1-1のレビュー結果を踏まえ、NCDs医療に関する本邦研修を計画(研修テーマ(分子生物学的技術を用いた診断、外科的治療、化学療法を含む内科的治療、包括的な患者管理など)、期間、対象者、期待される成果)する。(注:技術移転を行う医療技術の内容は、リソースのアベイラビリティによって影響を受ける。)
2-2.上記の計画に沿って、対象となる指導医クラスの医師(および必要に応じて看護師などコメディカル)に対して本邦研修を指導者養成研修(TOT)として実施する。
2-3.タミル・ナド州において本邦研修の指導医による本邦研修参加医師および他の指導医クラスの医師等を対象としたNCDs高度医療に関するフォローアップ研修を実施する。
2-4.上記研修を踏まえ、標準化できる医療技術については標準操作手順書(SOPs)を作成する。

3-1.パイロット県において、コミュニティおよび一次医療施設で現行実施されているNCDs予防対策に係わる活動を整理、レビューする。
3-2.本邦研修を通じて得た国および地方におけるNCDs対策行政に関する知見等に基づき、パイロット県におけるコミュニティおよび一次医療施設でのNCDs対策の向上に向けたアクションプランを作成する(注:栄養、NCDsに罹患した高齢者に対する医療施設から在宅ケアへの橋渡しケア、在宅ケアなど、現行実施されている活動以外の分野)。
3-3.活動3-2で作成されたアクションプランで計画した介入活動を実施し、その効果を検証する。
3-4.活動3-3の検証結果を踏まえ、プロジェクトによる介入をコミュニティおよび一次医療施設でのNCDs対策を強化もしくは補完するようなアプローチとして取りまとめる。

投入

日本側投入

1)専門家派遣(合計約41M/M):(総括/NCDs管理、副総括/がん管理、NCDs予防対策、業務調整/研修管理)
2)研修員受け入れ:(NCDs管理、がん管理、NCDs予防対策に係る本邦研修)

相手国側投入

1)カウンターパートの配置
2)案件実施のためのサービスや施設、現地経費の提供