プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)ファイサラバード水道事業経営改善プロジェクト
(英)The Project for Improvement of Management Capacity of Water Supply Sector in Faisalabad

対象国名

パキスタン

署名日(実施合意)

2021年9月27日

協力期間

2022年2月10日から2026年2月10日

相手国機関名

(和)ファイサラバード上下水道公社
(英)Water and Sanitation Agency, Faisalabad(WASA-F)

背景

パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)は、約2億1千万人の人口を抱え、人口増加率は年平均で約2.4%と高く、今なお人口成長が続いている(パキスタン政府人口統計、2017年)。特に、都市部の人口増加率は年平均で約3.0%と高く、農村部の人口成長率(年平均で約2.1%)を上回っている。都市部では、人口増加等に伴い都市環境の悪化や上水道をはじめとする社会サービス水準の低下等が問題となっている。
中でも、パンジャブ州は全国の半分以上の国内総生産や人口(約1.1億人、2017年)を有し、パキスタンに10都市ある人口100万人以上の都市1のうち5都市を抱えており、都市化とそれに伴う都市環境の悪化が顕著である。ファイサラバード市は同州第2位にあたる約320万人の人口を抱え、年平均で約2.1%の人口増加が続いているが、パンジャブ州内の他都市に比べ2給水率が72%と低く無収水率が45%と高いなど人口規模に比して給水セクターの課題が深刻であり、州の中でも特に給水セクターの改善ニーズが大きい都市である。かかる状況から、JICAはこれまでファイサラバードを対象に、給水サービスの改善に向けた協力を重点的に実施してきている。
パキスタン政府は2009年に国家飲料水政策(National Drinking Water Policy)を策定し、2025年までにすべての人に安全な飲料水へのアクセスを提供することを目標に掲げている。また、国家水政策(National Water Policy 2018)では、安全な飲料水へのアクセスは全国民の基本的人権であるとし、飲料水へのアクセス向上に向け、公共の水セクター組織におけるキャパシティ構築を最優先事項としている。また、都市水道の分野では、上下水道公社の財政面での持続性の確保を重要項目として挙げている。
ファイサラバード市では、ファイサラバード上下水道公社(Water and Sanitation Agency, Faisalabad。以下「WASA-F」という。)が上下水道サービスの提供を担っているが、技術面・財務面で多くの課題を抱えており、都市化に対応した給水サービスを十分に提供できていない。WASA-Fは、現在の水需要量を概ね満たす約50万立方メートル/日を給水可能な施設を有しているが、低い水道料金設定・料金徴収率に起因して運転コストを賄えないこと、水道料金が定額制のため給水量を増加しても増収に繋がらないこと等から、施設容量の半分程度しか稼働できておらず、十分な量の安全な水を住民に供給できていない。また、定額制であることから住民の節水意識が乏しく、水が必要以上に使用され、水資源が非効率に利用されている。さらに、市内の配水管網がブロック化されておらず水圧コントロールができていないために給水圧(1~3メートル)が低く、また、給水時間は6時間/日(2時間×3回/日)と短いことから配水管内の圧力が低くなっており、配水管内に汚水が混入することから水質の悪化も問題となっている。
このように給水サービスの水準が低いことにより、住民はWASA-Fが提供する給水サービスに不満を抱えており、対価を支払う意識が低いことから、水道料金の未払いが多く発生している。その結果、WASA-Fは十分な収入を得られず、給水サービスの改善のための設備投資を十分に行えないことによってさらに給水サービスが低下し、収入が増加しないという悪循環に陥いる等、その事業運営に課題を抱えている。
この問題に対処し、国家飲料水政策等の開発計画の実現にも貢献するため、JICAは2016~2019年に「ファイサラバード上下水道・排水マスタープランプロジェクト」(以下「M/Pプロジェクト」という。)を実施した。M/Pプロジェクトでは、2038年を目標年とした上下水道・排水マスタープランを作成し、その実現のために、配水ブロック化による給水サービスの向上、従量料金制への移行を含めた水道料金システムの改善等を提言した。また、M/Pプロジェクトのパイロット活動を通じて配水管網ブロック化の指導や従量料金制への移行支援を行い、水量、水圧、給水時間等の給水サービス向上により顧客満足度を高めると料金未払が減少すること、従量料金制に移行することにより顧客単価が上昇することで収入を改善できること等を実証した。現在、この経験を踏まえ、パイロット活動を通じ結成されたWASA-F内のタスクフォースチーム(SMART-WASA)は、M/Pプロジェクトの成功事例の拡大を図っているが、同チームは配水ブロック化やメーター検針の経験が未だ十分でなく、自ら配水ブロック化を計画・実行、従量料金制への移行を進めることができていない。また、WASA-Fは州政府の補助金に依存した経営となっていたこともあり、自立した経営に必要な財務諸表の作成や経営計画の策定等が十分に行えていない。
かかる背景を受け、WASA-Fの活動を加速させ、M/Pプロジェクトで提案した給水サービス向上、財務改善による持続的な経営化等を実現するために、本ファイサラバード水道事業経営改善プロジェクト(以下、「本事業」という。)が要請されたものである。本事業は、WASA-Fの給水サービス、事業運営効率化、顧客関係業務、財務・経営計画に係る能力強化を行うことにより、WASA-Fの水道事業経営改善に係る能力向上を図り、もってWASA-Fの給水サービスの向上に向けた水道事業経営状況の改善に寄与することを目指す。

目標

上位目標

WASA-Fの水道事業経営状況が改善される

プロジェクト目標

水道事業経営改善を目指した取り組み実施に係るWASA-Fの能力が向上する

成果

1.WASA-Fの給水サービス改善計画策定・計画実行能力が強化される
2.WASA-Fの事業運営の効率化にかかる実行能力が強化される
3.WASA-Fの収入増加につながる顧客関係業務実施のための能力が強化される
4.WASA-Fの財務改善のための能力が強化される
5.WASA-Fの経営計画策定能力が強化される

活動

成果1活動

1-1.給水サービスの基準値を設定する。
1-2.給水サービス改善を目指す優先エリアを選定する
1-3.優先エリアにおける給水サービス改善活動計画を作成する。
1-4.選定された優先エリアの配水管網のブロック化(水理的分離)を実行する
1-5.ブロック化(水理的分離)された優先エリアにおいて配水管理システムが構築されるとともに基準値を達成するために施設の運転管理が実施される。
1-6.配水管理体制が構築された優先エリアにおいて、基準値の維持、漏水管理、管路管理、メータ管理、顧客施設管理等係る課題を抽出し、改善策を検討する。
1-7.1-1から1-6での活動内容と課題、対策を整理し、給水サービス改善活動の標準作業手順書(SOP)を作成する。
1-8.1-7で整理した知見及び作成したSOPを基に、WASA-Fの給水サービス改善のための水平展開計画を策定する。

成果2活動

2-1.事業運営効率化のための取組を検討し、取組項目及び対策方法を示す。
2-2.ポンプ設備等の適正な運転管理による効率的な施設管理を検討し、現状調査に基づく改善方法を提案する。
2-3.効率的な事業運営を目的とした既存施設の活用を検討し、対策方法を提案する。
2-4.作業の機械化による作業環境の改善と効率化を検討し、改善した方法での作業を試験的に実施する。
2-5.事業運営効率化を目的として、WASA-F事業全般にわたり必要となるマニュアル類、SOPをリストアップ(1-8で作成するものを除く)し、優先順が高いものについて作成する。
2-6.日報、月報等の作業/業務記録の作成と活用による業務の効率化を検討し、開始する。
2-7.ITシステム/GISシステムの整備と統合による事業運営の効率化を検討し、提案する。

成果3活動

3-1.WASA-Fの収入の増加方法を検討し、顧客増及び広報/市民啓発を含めた増収活動計画を策定する。
3-2.増収計画に基づき料金徴収率の向上に関する取組を試行する。
3-3.増収計画に基づき顧客増の取組を試行する。
3-4.増収計画のベースとなる従量制への移行時に必要な業務改善が検討され、一部の取組が試行される。
3-5.成果1活動において基準値が達成されたエリアでSOPに従って水道メータを設置する。
3-6.選定された優先エリアで従量制移行に必要な顧客台帳を整備する。
3-7.従量料金制の場合の検針方法を決定し、実施する。
3-8.従量料金制の場合の請求書発行・料金回収方法を決定し実施する。
3-9.広報/市民啓発計画を策定し住民に対して、給水サービスの改善を広報し、従量料金制への移行の理解を促進する。

成果4活動

4-1.独立した事業体を目指した財務改善の要件を整理する。
4-2.データ入手が可能な限定した範囲を対象に、財務3表の作成、資産台帳の作成、減価償却費の算定を含めた発生主義会計の試算を行ない、それらの必要性を確認する。
4-3.上下水道事業ごとに分離した会計を試算し、上下水道の原価を試算する。
4-4.財源を検討し料金で充当すべき支出を特定する。その結果と試算された原価により適正な料金の試算を行なう。
4-5.中期的な収入と支出を試算し、財務改善の見通しを検討する。

成果5活動

5-1.戦略的に経営改善を推進する仕組みであるビジネスモデルを策定する。
5-2.ビジネスモデルに基づき経営目標、キーとなる経営改善活動及び成果の指標を選定する。
5-3.問題が生じた場合の対処を重視した、活動の進捗管理方法を検討し決定する。
5-4.5-1、5-2及び5-3の活動を踏まえ、ビジネス改善計画を策定する。
5-5.WASA-Fがビジネス改善計画の運用を開始する。

投入

日本側投入

専門家派遣、資機材供与、本邦研修

相手国側投入

カウンターパートの配置、案件実施のためのサービスや施設、現地経費の提供