東ビサヤ地域母子保健サービス強化プロジェクト、SMACHS-EV Project(Project for Strengthening Maternal and Child Health Services in Eastern Visayas)は、フィリピンの東ビサヤ地域にあるレイテ州(タクロバン独立市を除く)とオルモック市を対象地域とし、25の第一次医療施設(住民に一番近い保健施設:町・地区保健所、地域病院)を対象に2010年7月から約4年間に渡って実施されるJICA技術協力プロジェクトです。プロジェクトの主な活動内容は 1) 第一次医療施設である町・地区保健所の妊産婦・新生児ケア・サービスの改善、2)施設の保険認証取得の促進による、施設の財政基盤の構築支援、3)行政からの財政・政策面での支援の強化、4)コミュニティ・ボランティアを通した、住民レベルにおける母子保健サービス利用の促進、5)保健行政スタッフの能力強化、です。これらの相乗効果により、最終的に妊産婦・新生児の死亡を減らすことを目標としています。2011年7月からはプロジェクト第2年次を開始しています。
フィリピンの東側に位置する東ビサヤ地域は、サマール島とレイテ島を中心とした大小の島々で構成されています。関東地方の面積の0.7倍である2万3,229平方km2の地域に、人口約390万人が居住しており、プロジェクト対象地域のレイテ州、オルモック市ではそれぞれ約134万人、18万人が居住しています。レイテ州はアクセスの悪い地域も多く、1日で1〜2医療施設を回るのが精一杯です。プロジェクト活動は、市や町を構成する最小レベルの地方行政単位であるバランガイレベルにも活動が関わっていることから、活動をすすめるのにとても多くの時間や労力がかかっています。(プロジェクト対象地域、地図参照)
なおフィリピンの第一次医療施設には、町・地区保健所に加えて、各バランガイに配置されるバランガイヘルスステーション(BHS)と呼ばれる医療施設があります。これら医療施設は、町・市保健所によって運営・監督されています。プロジェクトが対象とする25の第一次医療施設の傘下には、このようなBHSが103施設もあり、これらBHSがカバーしているバランガイの数は1500にも及びます。町・地区保健所の助産師は定期的にこのBHSを訪れ、管轄するバランガイの住民に対して、母子保健教育、乳幼児健診、予防接種、結核治療、栄養失調児へのビタミン剤支給などの簡単な治療や保健指導を行います。
本プロジェクトでは、保健省中央、保健省東ビサヤ地域局、地方自治体により運営されるレイテ州保健局、オルモック市保健局が主に関係する4つの保健行政組織です。プロジェクト目標を達成するためには、これら各組織からの合意を得ながらプロジェクトを進めることがとても大切で、プロジェクトでは各関係組織を集めた会議を毎年2回実施して、関係者の合意をとっています。1年次開始時にはプロジェクトのオリエンテーション会議を開催し、活動方針や内容、プロジェクトの全体活動計画を説明し、関係者と協議を行い、合意形成をおこないました。その結果、レイテ州とオルモック市では、本プロジェクトを支援するという条例も制定されています。
2011年7月から始まったプロジェクト2年次においても同様の会議を開催し、活動内容の合意がされています。
プロジェクトの1年目は前半でプロジェクト活動を行うための2か所の事務所設置、関係者との協力関係の構築を行いました。後半では、第一次医療施設である町・地区保健所が質の良いサービスを提供するための要となる、主要な医療スタッフへのBEmONC(Basic Emergency Obstetric and Newborn Care:基礎的緊急産科・新生児ケア)研修の実施、医療機材の供与を行いました。また、住民レベルにおいて保健利用サービスを促進することを目的に、助産師、保健ボランティア、伝統的産婆(TBA)等から成るコミュニティ保健チームの結成とボランティア向け研修教材の開発を行いました。保健省東ビサヤ地域局、レイテ州、オルモック市保健局の関係者と共に、国のガイドラインを参考にした研修教材を作成し、1)州・市保健局、2)町・地区保健所、3)バランガイの順でコミュニティ・ヘルス・ワーカー養成研修を行いました。2011年9月1日までに計246人の講師兼スーパーバイザー、3,416人のコミュニティ・ヘルス・ワーカーが養成されました。
このほか、プロジェクトでは継続的に妊産婦死亡症例検討会を通した原因究明をフィリピン側の関係者と共に行い、プロジェクト目標である妊産婦死亡を減らすための対策策定を支援しています。また、行政レベルへのアプローチを行うために設立された、自治体間保健連携ゾーン(ILHZ)技術委員会とも連携・協力しています。1年次は、レイテ州の10つのILHZ委員が参加した合同会議を開催し、現状分析と今後の戦略策定会議を行いました。2年次からは本格的に自治体とともに、全ての女性が安全な出産をすることが出来、ひいてはプロジェクト目標である妊産婦と新生児の死亡減少を目的とした、施設分娩の条例化などの活動を進めています。
ありがとう、JICA, SMACHS EV プロジェクト!、レイテ州ヘルス・サミットでレイテ州保健局より、特別賞 が2011年8月プロジェクトに対して贈られました。受賞式にて。左から、レイテ州理事−レマンダバン氏、プロジェクト・チーフリーダー—石賀氏、保健省東ビサヤ地域局長—ゴンザガ氏、JICAフィリピン事務所次長—栗栖氏、レイテ州保健局—オハ氏。
セブのヴィセンテ・ソットー・記念病院で行われたBEmONC(基礎的緊急産科・新生児ケア)研修での一コマ:縫合(傷口を縫うこと)の練習。実際のお産ですぐに応用できるよう、鶏肉を使って練習を行う。
CHT(コミュニティ健康チーム)オリエンテーションより:トロサ町保健所の医師が、CHTメンバーに対して指導を行っている様子。
2010年11月、12月、2011年1月と3回にわたり、プロジェクト対象施設の医師、看護師、助産師を対象としたBEmONC研修(基礎的緊急産科・新生児ケア研修)を、セブ島のヴィセンテ・ソットー・記念医療センターで実施しました。全ての妊娠・出産には合併症のリスクがあり、このような合併症を含む緊急事態に対応する数々の処置のうち、研修では分娩中や直後に起こりうる緊急状態(子癇、出血、ショックや胎児の仮死など)の予防と基礎的な対応を目的とした一連のケアの実習を行います。研修は、実技練習と実習部分に重点が置かれた11日間の集中的なものでした。研修生が初めて経験する手技も多く、施設毎に構成されるチームが助け合いながら研修をこなすことでチームワークが強化されました。その結果、明日からの業務に活かせる、実践的な研修になりました。
一方でプロジェクトにとっては、フィリピン全般にありがちな問題ですが、4人の妊産婦さんが1つのベッドで休んでいるなど、施設の許容力の問題、プライバシーの問題を考えさせられる機会でもありました。今後はこの研修の成果をどう現場のサービスに活かし、さらにその維持をしていくかが大きな課題です。
2011年7月より開始したプロジェクト2年次では、1年次で行った活動を基盤に、第一次医療施設が持続的なサービスを提供するための財政的・政策的な支援体制の確立、上部機関からのモニタリング体制の構築、住民レベルの活動のモニタリング体制の構築を行います。これらは今までプロジェクトが行った活動がフィリピン人の手で継続的に行われるために必須で、活動も現地の人々主体で行えるように徐々に移行していく必要があります。まとめとしての中間普及フォーラムなどのイベントも予定しています。このように、盛り沢山の活動が計画されています。
このウエブサイトでは、今後も定期的にプロジェクト活動の進捗状況をお知らせしていきます。