2023年3月16日
本プロジェクトでは、カウンターパートであるスリランカ都市開発庁(Urban Development Authority, 通称UDA)と、その内部組織である都市調査センター(Urban Research Centre, 通称URC)のメンバーを対象として約1年間に渡る能力向上のための研修を実施します。研修プログラムは、URCメンバーへの聞き取り調査やワークショップ等の議論、資機材の有無や状態の確認等のニーズと課題の抽出を行った後、URCとの協議を経て、決定されました。そして、2022年10月にUDAとプロジェクトチームの間で最終調整・合意されました。研修プログラムは、都市計画を策定するために必要な内容を総合的に扱います。
この研修は、2022年10月より開始され、これまでの間に、都市計画全体(Overall Theme: OA)、土地利用(Land Use Planning: LU)、環境(Environment: EV)、参加型計画(Public Consultation: PC)に関するセッションが実施されました。研修全体の枠組みを下図に示します。今回の記事では、下図、青字で示す、都市計画全体と参加型計画に関して紹介します。
都市計画全体は、都市計画制度や契約策定プロセス全体について学び、必要に応じた改善について共に協議する事を目的としたモジュールです。日本の都市計画制度や都市開発事業の仕組みを紹介しながら、スリランカの計画制度やプロセスについての課題を分析し、日本や他国の教訓を踏まえ、都市計画全体の改善に向けて、URCとともに議論していきます。
第1回セッションでは、日本における都市計画制度や都市全体の計画策定プロセスについての講義を行い、第2回セッションでは、地区レベルでの区画整理や都市開発プロジェクトの概要を紹介しました。日本の都市計画制度が体系的に組み立てられ、都市環境の改善に向けてプロセスの随所で市民の参加が組み込まれている事を紹介したことから、研修の参加者は、行政と市民の信頼関係が醸成されているとの感想を持ったようです。これを受けて、スリランカでは市民による行政機関への信頼感が薄く、また資金や能力の不足といった課題のあるなかで、どのような改善が可能なのかといった課題が呈されました。今後は、URCメンバーからスリランカの都市計画の仕組みを改めてプレゼンテーションしてもらい、日本の制度との比較を通じて、改善点にかかる提案へとつなげていく予定です。
参加型計画は、市民参加による計画づくりに関わるセッションです。日本の参加型開発アプローチを計画作りのプロセスと、プロセスを実施するための手法とツールという観点から紹介しながら、スリランカの市民参加に関する手続きにおける課題を分析すると共に、現実的な改善策の実施に向けた議論を行っています。
第1回セッションで日本の参加型計画の歴史や近年の取り組みを紹介したのち、第2回セッションにおいて、URCからスリランカでの参加型計画の試み、計画策定で不足している参加型計画の視点や、現地で直面している課題を共有してもらいました。2回のセッションを通して、今後の改善策の検討に向けた下地となるインプットを双方から出し合いました。
これらのセッションにおいて、計画づくりの主役でもある市民の都市開発計画への知識や関心が低い中で、どのように市民の意見を効率的に引き出すことが可能なのか、また、複数の宗教や民族が混在する中で、引き出した意見をどのように平等に計画に反映できるのか、ステークホルダーによって異なる意見をどのようにまとめるのか、といった課題が呈されました。今後は、参加型計画に使用できる最新のツールについても見識を得つつ、実際のスリランカでのステークホルダー会議の様子も見ながら、改善策を検討します。
これらの成果として、プロジェクトの後半では、研修で得た都市計画手法とともに合意形成プロセスいついて、パイロット事業において実践し、合意形成プロセスについてのマニュアル(案)を作成し、スリランカの都市計画策定プロセスを改善する予定としています。今後も、このようなスリランカ特有の社会・経済・文化的な状況を理解しながら、プロジェクトに取り組んでいきます。
本プロジェクトで実施する研修の枠組み:都市計画に関わる様々なテーマを扱います
参加型計画にかかる研修実施の様子:URC側は会議室に集まり、オンラインとのハイブリッドで実施しています
URCのプレゼンテーション:調査団側からだけでなく、URCも主体的に参加する双方向の研修としています
環境に関するテーマの一つStrategic Environmental Assessmentの研修の様子
土地利用に関する研修でのソフトウェアを用いた実習の様子