【教師海外研修 授業実践】岡山市立操南中学校

2019年12月9日

日本とラオスで考える、戦争と平和

海外研修でラオス人大学生と話す中川尚子先生(右)

 「この写真はなんだと思いますか?」
岡山市立操南中学校の中川尚子先生は、同校の2年生に問いかけました。スクリーンにはTシャツや町の看板に誇らしげに描かれたきのこ雲のイラストが映されていました。中川先生は、これらをアメリカのある町のものであることを解説し、原爆の捉え方は国によって違うことを説明しました。そして、東南アジアの小国ラオスの歴史教科書にも、原爆投下に関する記述ときのこ雲の写真が掲載されていることを紹介しました。
 中川先生は、今年の夏、JICA教師海外研修でラオスを訪問しました。そこで多くの青年海外協力隊員と出会い、そのつながりは帰国後も続きましたが、広島県出身の隊員が現地で「原爆展」*を行うことを知った中川先生は、日本の中学生とラオスの人々、そしてラオスのために活動する隊員を「平和」でつなぐ学年道徳の授業を展開しました。
 同校の生徒は2年次に平和学習を受け、被爆地広島を研修で訪れますが、実はその訪問前、研修の実行委員となった生徒数名が、ラオスの人々にメッセージを送っていました。日本が受けた原爆被害のこと、自分たちが平和学習を行っていること、ラオスでの原爆展開催にあたり、自分たちが作った資料も送付すること、そしてラオスの人々が祈りを込めて作る折り鶴は、自分たちが広島訪問時に自分たちの折り鶴とともに奉納してくることなどを、ラオスの人々に語りかけていました。

平和な世界を作るために、中学生ができること

授業の様子

 授業の中では、ラオスでの原爆展や平和学習の様子も流され、そこには原爆の悲惨さを知ったラオス人学生からのコメントもありました。「戦争は悪い、原爆も悪い。ラオスもたくさんの爆弾が残っているんだ」「原爆は一体誰が作ったんだろう。平和のために、原爆は必要ないのに」。
 そして生徒は、戦争のない平和な世界を作るためにはどうしたら良いかを考えました。壮大な課題を与えられた中学2年生に、ラオスで活動中の隊員からのメッセージが流されました。「今回の授業で、ラオスを身近に感じられたことがとても大切。異なる国のことを理解した皆さんは、平和学習を通して、国際協力の第一歩を踏み出したんです」「人間誰しも嫌いな人はいる。けれど、一歩踏み込んで苦手な人ともコミュニケーションをはかってみてほしい。周りの人を大切に思い、理解していくことが実は世界平和につながっている」。大人でも難しいテーマに対峙した生徒も、笑顔で語る隊員たちの姿を見て、自由に自身の考えをまとめていきました。
 世界で初めて原爆を投下された日本、そして世界で一番多く不発弾が残るラオス。その歴史や戦争をめぐる背景は異なるものの、そこで暮らす戦争を知らない学生同士が、それぞれの立場から戦争の悲惨さと平和を構築することの意義を真剣に考えていました。

*原爆展:広島県出身の青年海外協力隊員の自主的な活動により、2004年に中米のニカラグアで始まった企画。その後、多くのJICA海外協力隊員に引き継がれ、2019年3月までに69か国で188回開催されている。