プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)タライ平野灌漑農業振興プロジェクト
(英)Project for the Promotion of Irrigated Agriculture in Terai Plain

対象国名

ネパール

署名日(実施合意)

2019年2月6日

プロジェクトサイト

第一州ジャパ郡カンカイ灌漑地区

協力期間

2019年3月15日から2025年3月14日

相手国機関名

(和)エネルギー水資源灌漑省
(英)Ministy of Energy, Water Resources and Irrigation

背景

ネパール連邦民主主義共和国(以下、ネパール)では、農業は全人口の約3分の2が従事し、国内総生産(GDP)の約3割を占める基幹産業である(注1)。その中で、ネパール南部の平地を東西に広がるタライ平野は全耕作面積の53%、全灌漑面積の81%を占めている。同平野は肥沃な土壌と水資源に恵まれており、全国の生産量に占める割合は、米は70%、小麦は58%、野菜では59%といずれも高い(注2)。従って、同平野の農業・農村開発や生産性向上は国内の経済開発や貧困削減、国内格差是正、食料安全保障に果たす役割は大きい。しかし、1)政府機関や水利組合による基幹施設や末端施設の運営・維持管理、2)適正な水管理、3)水利費徴収等が不十分で、灌漑施設が機能を十分発揮できていない問題がある。このような状況を改善すべく、ネパール政府は第15次五カ年計画(2019/2020~2023/24)にて、関連組織の能力強化を重要課題としている。

一方、我が国は、ネパールへの国別開発協力方針(2016年9月)において、後発開発途上国からの脱却を目指した持続的かつ均衡のとれた経済成長への支援を基本方針とし、貧困削減及び生活の質の向上を援助重点分野にしている。その中で、農業分野においては農業の生産性と所得の向上を図ることとしている。

かかる状況の下、ネパール政府は本技術協力プロジェクトを我が国に要請し、JICAは、第一段階の活動を2019年3月から2020年2月にかけてタライ平野東端に位置するカンカイ灌漑地区(約7000ヘクタール)にて実施した。第一段階では、現地ステークホルダーによってアクションプランが策定され、その内容に基づきミニプロジェクトが実践され、活動結果を基にアクションプランの見直しが実施された(成果1)。その後JICAは、2020年8月から9月にかけて詳細計画策定調査を実施し、ネパール政府関係者と協議を通して本プロジェクトの枠組みを見直した。本業務の対象となる第二段階の活動内容は、第一段階で策定されたアクションプランに基づき、灌漑農業振興モデルの開発を支援するものであり、灌漑農業振興を通した農業生産性の向上を支援する本事業は、我が国の協力方針等と一致するものである。

(注1)ネパール財務省 Economic Survey、2018/2019
(注2)ネパール国農業・農村開発プログラム形成準備調査最終報告書、2013

プロジェクトの基本的コンセプト

本プロジェクトのコンセプトは、「ステークホルダーの気づき」に基づく灌漑農業振興に向けた活動の実施である。この気づきを促すことを主な目的として、二段階でプロジェクトを実施し、第一段階ではステークホルダー間でのキャパシティ・アセスメントの実施や、水管理、灌漑施設維持管理、営農(市場志向型農業)の技術研修を実施し、現地ステークホルダーによるアクションプラン策定を支援した。
第二段階では、第一段階で現地ステークホルダーによって策定されたアクションプランに基づいて協力活動を実施し、現地ステークホルダーの自主性を高めながら、適切な水管理や営農改善を目指している。具体的には、営農改善を通した農業収入の増加を通じ、受益農家からの水利費徴収を改善し、集めた水利費を施設維持管理に充て、持続的な運営を実現する。同時に公平な水配分と営農改善を行い、灌漑面積増加・農業生産性向上を実現することで、農業収入の増加を実現する。灌漑農業振興とは、以上のような灌漑施設の維持管理促進および営農改善による農業収入向上の両面に着目して、正のスパイラルを通じた対象地域の持続的な振興を目指すものである。
また、本技術協力プロジェクトでは、営農改善として「CAPアプローチ」を活用した市場志向型農業振興に取り組んでいる。「CAPアプローチ」とは、過去に同国で実施された技術協力プロジェクト「シンズリ道路沿線地域商業的農業促進プロジェクト」(2020年3月に終了)にて導入された農業普及手法である。同技術協力プロジェクトはシンズリ道路沿線のハグマティ州(第三州)に所属する地方政府を対象として市場志向型農業振興に係る活動を実施しており、その活動を通じて「SHEPアプローチ」(注3)をネパールの状況に合わせて改良し、「CAPアプローチ」として開発した。
本技術協力プロジェクトでは、CAPアプローチを展開して農業収入向上を目指しており、プロジェクト活動を通じて灌漑・営農の2つの分野を包括する灌漑農業振興モデルの開発を支援する。開発された灌漑農業振興モデルは、タライ平野の大規模灌漑地区へ普及することを予定している。

(注3)SHEPアプローチ(Smallholder Horticulture Empowerment & Promotion)とは、2006年から始まったケニア農業省とJICAの技術協力プロジェクトにおいて開発された小規模園芸農家支援のアプローチであり、野菜や果物を生産する農家に対し、「作ってから売り先を探す」から「売れるものを作る」への意識変革を起こし、営農スキルや栽培スキル向上によって農家の園芸所得向上を目指すものである。

目標

上位目標

プロジェクトで開発された灌漑農業振興モデルが、タライ平野灌漑地域で実践される。

プロジェクト目標

連邦政府、州政府、地方政府及び水利組合の協働による灌漑農業振興モデルが開発される。

成果

1.カンカイ灌漑地区の課題が分析されステークホルダー間で共有されると共に、それらの解決に向けたアクションプランが策定される。
2.三次水路までの配水計画と実施の改善、適切な施設維持管理および圃場内水路の建設などより公平で効率的な配水システムが構築される。
3.市場志向型農業の実践を通して、対象地区農家の農業収入と技術能力が向上する。
4.灌漑農業改善に向けてカンカイ灌漑地区におけるステークホルダーの業務実施連携体制が構築されると共に、その連携業務成果が研修を通してタライ平野の他灌漑地区に普及する。

活動

成果1関連

1-1.ベースライン調査が行われる。
1-2.カンカイ灌漑地区の灌漑農業改善のために必要な研修教材が作成される。
1-3.カンカイ灌漑地区のステークホルダーに対して灌漑農業改善に向けた研修が実施される。
1-4.日本でのカウンターパート研修が行われる。
1-5.日本でのカウンターパート研修のフォローアップが行われると共に、カンカイ灌漑地区の灌漑農業改善に向けたアクションプランが策定される。
1-6.ミニプロジェクト(トライアル)が実施される。
1-7.ミニプロジェクト結果の評価結果を基にアクションプランが改訂される。

成果2関連

2-1.GISを利用してカンカイ灌漑地区の灌漑支配面積のアップデートが行われる。
2-2.カンカイ管理事務所職員、水利組合員、農業普及員に対する作付け計画、作物要水量、水配分計画策定、水管理技術および農地均平化についての研修が行われる。
2-3.作付け計画に基づき配水計画(基幹から末端圃場までの)が策定される。
2-4.幹線レベル(必要に応じ補足的に、二次水路への分水のため)、二次水路レベル(三次水路への分水のため)のゲートキーパーが任命されると共に、彼らに対する分水量測定研修が行われる。
2-5.二次水路(不足している個所)及び三次水路への分水量観測施設(ペイントゲージ/装置と目盛り測定)が整備される。
2-6.配水計画に基づいた二次水路、三次水路の分水が実施される。
2-7.幹線、二次、三次水路レベルのコミティが結成され、そのコミティによる配水状況のモニタリングと評価が行われる。
2-8.灌漑施設台帳(幹線、二次、三次水路レベル)が作成される。
2-9.灌漑施設の機能診断が行われ、その結果に基づく施設維持管理/補修計画(中期・年間)の策定と必要経費の算定が行われる。
2-10.簡易で透明性の高い水利費徴収システムが整備される。
2-11.水利組合による水利費徴収率向上に向けた活動が展開されると共に、水利費徴収や水利組合員などに関する必要なデータがコンピューターに記録、保存される。
2-12.施設の維持管理/補修技術に関する研修が水利組合員に対して行われる。
2-13.計画に基づく施設の維持管理/補修がカンカイ灌漑管理事務所、地方政府及び水利組合の予算により行われる。
2-14.圃場内水路(4次水路)と分水ボックス(三次水路内に圃場内水路への分水用として)建設に係る調査測量計画設計が行われ、カンカイ灌漑管理事務所および水利組合の資金によりそれらが建設される。
2-15.農地均平が行われる。

成果3関連

3-1.農業普及員及びSubject Matter Specialists(SMS)に対して、市場志向型農業に係るTOTが実施される。
3-2.市場志向型農業に係る現場ベースでの研修(活動目的共有ワークショップ、市場調査、営農計画策定等)が農家に対して実施される。
3-3.農家と農作物市場関係者間でのフォーラムが開催される。
3-4.市場調査を通して選定された作物に係る技術研修が、農家に対して現場ベースで実施される。
3-5.スタディーツアーの実施を通して、農家に対して市場志向型農業の成功事例を紹介する。

成果4関連

4-1.Project Management Unit(PMC)およびタスクチームにより灌漑農業振興に向けた連邦政府、州政府、地方政府及び水利組合間の業務実施体制が構築され、成果2と3に係る活動とモニタリングが実施される。
4-2.タスクチームにより連邦政府、州政府、地方政府及び水利組合向けの灌漑農業振興のためのガイドライン案及びマニュアル案が策定される。
4-3.タライ平野灌漑地域の連邦政府、州政府、地方政府職員及び水利組合役員等を対象とした灌漑農業振興に関する研修会が実施される。

投入

日本側投入

1)専門家派遣
第一段階:総括、水管理、施設維持管理、営農、水利組合、キャパシティ・アセスメント等
第二段階:業務主任者、配水計画、水管理、圃場内施設改善、施設維持管理、市場志向型農業、水利組合強化、研修計画等
2)研修員受け入れ:本邦研修、課題別研修(灌漑水管理分野、営農分野)
3)機材供与:ミニバックホウ、トラクター、ランドレベラー、測量機器、技術系ソフトウェア、流速計、オフィス機材

相手国側投入

1)カウンターパートの配置
2)案件実施のための情報や施設、現地経費の提供
3)カウンターパートの現地活動にかかる費用