• ホーム
  • JICA九州
  • 九州SDGs通信
  • 九州SDGs通信2020年1月号 福岡市道路下水道局が国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」を受賞!-国際協力分野での取り組みを通じた若手職員の育成-

九州SDGs通信2020年1月号 福岡市道路下水道局が国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」を受賞!-国際協力分野での取り組みを通じた若手職員の育成-

2020年1月27日

福岡市道路下水道局は、2015年度から2018年度にかけ草の根技術協力事業(地域活性化特別)「ミャンマー連邦共和国ヤンゴン市道路排水能力改善事業」を実施しました。この事業は、ヤンゴン市開発委員会が自ら効果的な排水改善事業を実施するために、道路排水計画の策定ができるようになることを目標として協力を行ったものです。この事業を通じて自身の若手職員の人材育成・技術継承も併せて行ったことが評価され、この度、国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」のアセットマネジメント部門を受賞されました(同事業は一般社団法人全日本建設技術協会による全建賞「都市部門」も受賞)。

福岡市道路下水道局は草の根技術協力事業以外にも、課題別研修「下水道システムの維持管理」コースを実施しており、参加国の下水道システムの改善及び維持管理対策に関する能力強化にも大きな貢献があったことから、JICA九州より「2019年度 JICA九州所長感謝状」を贈呈致しました。

「ヤンゴン市道路排水能力改善事業」はどのように実施されたのでしょうか?

2012年よりミャンマー・ヤンゴン市に福岡市から水道技術のJICA専門家を派遣したことがきっかけでヤンゴン市との関係がはじまりました。2014年には、「まちづくり協力・支援に関する覚書」がヤンゴン市と締結されるに至り、この時にヤンゴン市側から「浸水対策をなんとかしてほしい」という強い要望が福岡市になされました。

ミャンマーでは、下水道整備が進んでいないため、雨季には道路が冠水して車が通れなくなり、浸水した水の中には汚水が含まれているため衛生的にも良くない状況でした。福岡市には、浸水対策に関する豊富な知見・ノウハウがあり、加えてちょうどこの頃に福岡市内外の企業と官民連携の「国際ビジネス展開プラットフォーム」がスタートしたことから、官民が連携しヤンゴン市へ協力していこうという機運が高まりました。

この協力を行うために、JICA草の根技術協力事業へ応募したのですが、これに先立って、まずヤンゴン市で現地調査を行いました。調査で明らかになったのは、ヤンゴン市の水路は100年前のイギリス統治時代に造られたものがそのまま使われているため排水能力が足りず、近年では降雨量も増え浸水被害がかなり深刻であるということでした。今後、人口増加や都市化が進み浸水被害の拡大が予想されることから、現地でも浸水対策は一層重要視されはじめていました。現地では、水路に詰まったゴミの除去や水路の拡幅を独自で進めていましたが、水路の拡幅では適切な計画・計算は行われてはいませんでした。さらにヤンゴン市管轄の水路のみ拡幅されており,海に放流される最後の重要な部分の水路が国管轄の港湾区域に埋設されていることもあり,拡幅ができておらず、ヤンゴン市による水路拡幅工事の効果が十分発揮できていないという問題もありました。そのため、草の根技術協力事業のテーマは道路排水能力改善の基本となる「排水計画策定能力の向上」としました。

【画像】

排水計画の検討

草の根技術協力事業を通じてどのように福岡市道路下水道局の職員の育成を進めていったのですか?

本事業では、道路下水道局の若手とベテラン職員がタッグを組みながら活動を行いました。国内ではあまり経験ができない作業を通じて、若手職員の技術力や専門性の向上及び職員間の技術継承が図れたことはとても良かったと思います。なぜならば、現在多数のベテラン職員が定年退職を迎える一方で、新規職員の採用が急増し技術継承が課題となっているからです。福岡市内の下水道(汚水)は99.7%普及し、浸水対策(雨水)でも新たに計画や建設する現場が少なくなっており,若手職員が計画を一から考えて建設する経験を積む機会は限られてきています。そのため、現地で測量等をする際は、若手職員が主体となりベテラン職員と一緒に作業を行う体制を作るよう心掛けました。若手職員は現地職員に技術指導も行わなければならないため、現地派遣前は熱心に測量等の練習をしていましたし、所属部署もとても協力的で活動を支えてくれたのは本当に有難かったです。このような活動を通じて信頼関係を構築し、2016年に福岡市とヤンゴン市は姉妹都市となりました。

実際の活動では、ヤンゴン市では気温が30度を超える日も多く、現場作業はかなり大変でしたが、こまめに水分補給や休憩をとり長時間の作業にならないよう体調管理を徹底しました。また、チームワークを深めるため福岡市とヤンゴン市の職員が両市のマークを入れた同じ帽子をかぶって作業を行うなどの工夫も行いました。ヤンゴン市職員は大変真面目で協力的でしたし、相手の話を熱心に聞いて学ぶ姿勢など、こちらの職員が彼らから学ぶことも多々ありました。

また、現地とのやり取りは英語だったため、はじめはコミュニケーションに時間を要していましたが、少しずつ語学力やコミュニケーション力が身についてきましたし、福岡市独自での技術職員の長期派遣を行ったことにより、現地側のフォロー体制も構築され、現地とのやり取りもより円滑なものとなっていきました。

【画像】

測量指導

【画像】

流量計算ワークショップ

国際事業をサポートする「下水道国際展開ワーキンググループ」をつくられていますが、活動内容を教えて下さい。

「下水道国際展開ワーキンググループ」は、毎年募集を行っているのですが、100名超が登録をしています。実際にミャンマーで国際協力の経験をすることで、若手職員の技術力向上だけではなく、モチベーションの向上などにも繋がっていると感じています。また、このグループの活動は下水道を通じた国際協力がメインとなりますが、浸水対策は道路や河川事業とも関連するため、事業の枠を超えてメンバーを構成しており、それがコミュニケーションの活性化にも繋がっています。

ワーキンググループメンバーには、課題別研修「下水道システム維持管理」にも,講師や現場説明者等として活躍してもらっています。参加したメンバーにとっては、福岡市が有する知見や技術を海外研修員に共有するプロセスが、実は自身の学びにもなっていると思いますし、海外との交流を行うことでアジアのリーダー都市を目指す福岡市職員として必要な国際感覚を育くむことにつながっているのではないかと思います。また、ミャンマーだけではなく、フィジーやインドといった国にも職員を派遣していますが、日本とは異なる街並みを見たり異文化に実際に触れたりすることで見識が深まり、人間的な成長にも繋がっていると感じています。私自身も海外に出たことで、水洗トイレが使えたり、安全な水が飲めたりすることが当たり前ではないことを改めて実感することができました。

【画像】

下水道台帳システムについての研修

今後の活動予定を教えて下さい。

第一期の草の根技術協力事業「ヤンゴン市道路排水能力改善事業」では、排水計画策定をメインとした技術協力を行いましたが、計画策定後の実際の工事の実施等についても現地より強く協力要請があったため、次のステップとして設計・施工・維持・管理に関しての技術協力を行う「ヤンゴン市浸水防除能力向上プロジェクト」を開始予定です。

国際協力事業は、福岡市の経験を国内外の課題解決に生かすことができると同時に、職員にとっても現場経験を積む貴重な機会となっており、我々の技術力向上や人材育成に繋がっていますので、これからも積極的に行っていきたいと思っています。ただし,国際協力は自治体だけではできませんので,今後もJICAや外務省,国交省,また民間企業と連携しながら,SDGsへの貢献や双方の地域活性化等を図り,それを通じて福岡市のプレゼンス(存在感)も高めていければと思っています。

関連リンク