国家防災機関職員を対象としたマルチハザードディプロマ研修が実施されました

2020年2月28日

2020年2月17日から28日にわたり、ホンジュラス緊急事態対策常設委員会(COPECO)の職員を対象としたマルチハザードディプロマ研修(合計103時間)が開催され、20名の職員が修了し、認定証が授与されました。

プロジェクトではこれまでにコミュニティでの活動を通して、コミュニティ防災手法の確立に努めてきました。ホンジュラスではすでに洪水や土砂災害に関する知見が蓄えられていたため、これをCOPECOの研修部門を中心に組織レベルの知見に組み上げる必要がありました。また、地震や津波などは同国では頻発しないものの、防災機関として理解しておくべき危険や、それに伴う災害もあります。そこで、これらのハザードをじっくりと学ぶディプロマ研修を実施することとなりました。

まずはCOPECO研修部長より、同国の防災法であるSINAGER法に関するレクチャーがなされ、その後、日本人専門家が講師となり、総合防災の考え方についての講義を行いました。

「危ないところには住まない」ことが防災の基本ですが、日本の事例を示せば東京都東部は元々洪水氾濫地域であり、そしてそれは今も変わらないことから、洪水を起こさないためのハード対策が実施されてきました。ハード対策は洪水だけではなく、土砂災害や津波への対策としても実施されてきましたが、ハード対策だけで完全な解決をもたらすことができないことは、東日本大震災で我々は目の当たりにしてきました。加えて、ハード対策には莫大な予算と時間が費やされ、更に住民がハード対策を過信して、警報等が発令されても避難しないという課題も出てきます。避難を推進することは重要である一方、避難だけでは人的被害は食い止められても、経済的被害や生活の糧を保護するまでには至りません。こうした各対策の長所と短所を知ることで、「1.リスクのある地域に住まない」「2.ハード対策」「3.避難等の災害が発生することを前提とした対策」を国の財政能力や人材を踏まえて計画し、バランスよく実施することが総合防災の基本であることを、日本での例を交えて紹介しました。

研修2日目から7日目は風水害に関する講義を実施し、洪水、土砂災害及びそれを広範囲にもたらすハリケーンの基本的な性質を学びつつ、山間地か沿岸地域かなど地理的な条件で災害の状況や規模も変わることを踏まえ、地域や家族ごとに個別の避難計画を策定することの重要性を学びました。また、それを実際に体験するために、テグシガルパ市のカナン地区で防災マップと避難計画を作成して、避難訓練も実施しました。
防災マップの作成では、住民の過去の災害経験や記憶の重要性に触れつつ、各個人の知見を取りまとめ、地域の知恵として共有することで、何世代にも渡って地域の安全を高めていく必要性が示され、カナン地区の住民の積極的な参加により、防災マップが作成されました。また、それを基に避難計画を作成し、その内容に沿った避難訓練を実施することで、計画の実行性が確認されました。このような風水害に特化したコミュニティ防災マップ・避難計画・避難訓練は体系化されていなかったため、新たな手法としてCOPECO職員にも学びの機会となりました。一方で、風水害はホンジュラス側にも知見が蓄積されていることから、活発な議論の中で様々な事例が紹介され、日本側にも学びの多いテーマとなりました。

研修8日目と9日目は地震、10日目と11日目は津波に関する講義です。ホンジュラスは地震や津波災害の経験をほとんど有しておらず、そうした意味では同国で遅れている分野とも言えます。一方で、近隣国では過去にこれらの災害被害を受けている上に、同国ではこれまで学んだことのない分野であることから、風水害以上に研修受講者の関心を引くテーマだったようです。地震に関する講義では、耐震補強(建築基準の順守)と家具固定の重要性を学び、地震が起こる前の対策が生死を分けることを伝えました。
津波に関する講義では、津波避難3原則(1.揺れたら逃げる、2.警報が出たら逃げる、3.行政の指示があるまで戻らない)を伝え、更に東日本大震災ではなぜこれらが徹底できなかったのかについて議論を行いました。最初は「津波について知らなかった」「警報を無視した」等の回答が挙がり、「自分は津波について知ったから大丈夫。避難できる。」と考えていた研修受講者も、「あなたの家族が瓦礫の下敷きになったらどうする?避難するか、助けるか?」「逆にあなたが下敷きになっていたら、家族に助けを求めるか、それとも避難するように促すか?」との問いに対し困窮してしまいます。実はこの問いには答えはありません。重要なことは、こうした状況にならないように事前の備えをしておくことにあります。こうしたやり取りを含めて、防災の知識とともにそれに取り組む人々の姿勢が大事であること、そして防災機関職員としてどのように人々の備えを促進していけるかについても議論しました。研修参加者からは、「“家族を思うとやるべき”という思いが高まった」など、いくつかのヒントを手にしたようでした。

今回のディプロマ研修を修了したのは20名で、参加者の大半はCOPECO研修部の職員でした。本プロジェクトは本年6月で終了しますが、今後は彼らが中心となって本研修のカリキュラム、教材案の見直しを行うとともに、ホンジュラス国公的機関職員に対して同様の研修が実施されることが計画されています。
プロジェクトチームは、これらの研修を通したホンジュラス国における防災人材の育成の推進、そして現場レベルでもその知見が活用され、地域の備えが広がることを強く願っています。

作成:川東 英治(長期専門家)、文責:杉本 要(長期専門家)

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講義(座学)の様子

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コミュニティ住民と共に防災マップを作成する演習

【画像】研修を修了し、認定証を授与された参加者たち