ミトゥン・サブセンター-整備が進むもう一つの活動拠点

2018年10月30日

ブータン中西部地域の園芸農業振興を目指す本プロジェクトでは、活動の大きな柱の一つとして、地域における園芸農業技術の開発・普及の核となる国営試験農場の整備に力を入れています。プロジェクトの対象地域には試験農場が二か所設けられていますが、より規模が大きく中心となるのがワンディ・ポダン県のバジョ農業研究開発センター(以下バジョ・センター)で、ここに3名のJICA長期派遣専門家が配属されています。もう一か所が、チラン県のミトゥン農業研究開発サブセンター(以下ミトゥン・サブセンター)です。ミトゥン・サブセンターは、プロジェクト対象5県のうち、南に位置するチラン県とダガナ県を管轄しています。プロジェクトの開始後しばらくは、中心拠点であるバジョ・センターの整備を優先的に進めた事情もあり、ミトゥン・サブセンターでは果樹や野菜の緑はまだまだ少なく、やや寂しい様子でしたが、約3年が経過した現在、日本人専門家の精力的な指導に基づく圃場整備が進んだ結果、徐々に園芸開発・普及拠点としての機能が充実してきました。

ミトゥン・サブセンターは、チラン県の県庁所在地であるダンフの近郊に開設された国営試験農場です。標高約1,500mの緩傾斜地に位置し、河岸の低地(約1,200m)に開かれたバジョ・センターよりも冷涼な気候に恵まれていることから、カンキツや中山間地野菜の栽培に適しています。また、灌漑用水を河川からの揚水に頼らざるを得ないバジョ・センターに比べると、一年を通じて伏流水を利用できるミトゥン・サブセンターは、非常に恵まれた条件にあると言えるでしょう。バジョ・センター同様、従来は稲を中心とする穀類の試験栽培が主業務でしたが、本プロジェクトの開始に伴い、様々な園芸作物の導入に取り組んでいます。果樹ではカンキツを中心にカキ、モモ、アボカド、キゥイ、ビワ等、野菜ではハクサイ、キャベツ、ホウレンソウ、ネギ、ナス、トマト、ピーマン、ニンジン、スイカ、カボチャ等々、その対象は多岐にわたります。近い将来、これら園芸作物の種苗生産基地としての機能を担うべく、試験栽培の地道な取り組みが日々積み重ねられています。
また、ミトゥン・サブセンターの特記すべき役割としては、カンキツ類の苗木/穂木生産が挙げられます。近年、ブータンのカンキツ生産では、グリーニング病の被害が深刻であることから、その感染拡大を防ぐため、病原体の媒介昆虫が生息する地域で生産されたカンキツ類の苗木や穂木は、域外への移動が禁止されています。バジョ・センターの周辺はグリーニング病の汚染地域に指定されていることから、同センター産のカンキツ苗木・穂木は普及事業に供することができません。そのため、カンキツの苗木生産は行っていません。一方、比較的標高が高く冷涼なミトゥン・サブセンター周辺では、媒介昆虫のキジラミは越冬できないため、その存在は確認されていません。その結果、同サブセンターは、プロジェクト活動地域における唯一のカンキツ苗木・穂木生産基地という重要な役割を担うことが期待されているのです。

このように、プロジェクト活動地域南エリアの技術開発・普及拠点として整備の進むミトゥン・サブセンターですが、その過程で最も重要なのは、やはり農場の将来を担う人材をいかに育てるのか、という点に尽きます。日本人専門家と日々の作業を共にする中で、限られたスタッフの中から、核となる人材が徐々に育ってきました。プロジェクトの後半では、プロジェクト後の自立的な運営管理という課題を見据えながら、引き続き技術移転を進める中で、カウンターパートの主体性、自発性の醸成に取り組んでいきます。

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ミトゥン・サブセンターの全景

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JICAによる機材供与で設置された大型ビニールハウスが活躍しています。

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スタッフ手作りの納屋も完成しました。

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水路網が整備され、潅水作業が効率的に行えるようになりました。

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果樹苗木の定植作業の様子。数年後には、普及用穂木の生産が可能となります。

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研修参加農家に栽培指導を行うミトゥン・サブセンター配属のカウンターパート。

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キゥイ苗を支柱に固定する作業を行うサブセンターのスタッフ。

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採種を待つダイコン

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ピーマンの収穫作業

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ナスの収穫作業