渡辺専門家によるデジタルファブリケーションのニーズ発掘

2022年7月11日

6月21日から7月8日まで、プロジェクトの短期専門家として、渡辺智暁専門家がブータン入りしました。入国後施設隔離5日間を経て、6月27日より現地業務を開始しました。

渡辺専門家の担当業務は「オープンイノベーション」とされます。新設されるファブラボCSTをイノベーション創出のプラットフォームとして、1)科学技術単科大学(CST)学内の異なる学科間の連携、2)CSTと他の王立ブータン大学傘下の単科大学との連携、3)CSTと周辺地域の産業・社会のステークホルダーとの連携を促進していくよう働きかけることが期待されています。しかし、今回の派遣はファブラボCST開設に先行する形となったことや、CSTの夏期休暇と一部重なったことから、今回の活動地はプンツォリンの他にティンプーも加え、帰省中のCSTの学生にも同行を呼びかけ、各訪問先で専門家と議論を行うよう工夫しました。

CSTのあるプンツォリン周辺では、サムチの家具工場、プンツォリン市内の縫製店、市郊外のジュース飲料工場、ビール工場、チュカ県ゲドゥの木材加工工場などを訪問し、各工場において、製品開発だけでなく、IoTを用いた生産ラインの生産性向上や生産管理、環境モニタリング、事故防止などの装置試作導入の可能性について議論しました。これらの訪問には、CSTの教員も同行し、これらの工場で学生の見学やOJTの受入れが行えるよう、併せて申し入れも行われました。

加えてプンツォリンでは、市内にある障害児特別教育(SEN)指定校を訪問し、障害児の学習を支援する教員とも意見交換を行い、自助具製作や学校施設のアクセシビリティ改善に、デジタルファブリケーションの強いニーズがあることを確認しました。加えて郊外にブータンの看護師・助産師の養成学校もあり、渡辺専門家はこの学校も訪問して学生や教員との対話を行い、看護師の実習をより実際の現場の実践に近づけるための器具の製作に、ファブラボCSTが利用可能であることを訴えました。

ティンプーでは、ファブラボマンダラやスーパーファブラボを学生とともに訪問した他、脳卒中回復者とその家族への戸別訪問インタビューやブータン脳卒中財団事務所での脳卒中回復者のリハビリや生活改善、生計向上でのニーズを確認し、さらに市内スタートアップセンターの入居企業を個別訪問して、各入居者の事業内容の聞き取りと、デジタルファブリケーションの導入余地の検討なども行いました。これらの訪問にはすべてCST学生が同行しました。特に、7月の新学期に4年生になる学生にとっては、これらの訪問先は、卒業研究における試作プロジェクトのテーマ検討の材料としてだけではなく、カリキュラムに組み込まれているOJTの受入先ともなり得るため、渡辺専門家の訪問先での会話には、真剣に耳を傾ける様子が窺えました。

CSTからティンプーに戻る帰路、渡辺専門家は、同じく王立ブータン大学傘下のゲドゥ経営単科大学にも立ち寄り、労働省の主導によって設置されている「インキュベーションセンター」を訪問し、同センターの利用を認められた学生起業グループの相談にも応じました。経営学やマーケティング、金融などを専門とする大学ですので、提案されたビジネスモデルはしっかりしたものがありましたが、プラットフォームとするアプリの開発の知見がない点に課題も見られました。専門家からは、プログラミングのできるCSTの学生をチームに加えることの必要性などの指摘を行いました。

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サムチの家具工場を訪ね、オーナーから説明を受けるCST教員と渡辺専門家(写真/山田浩司)

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プンツォリン中期中等学校で障害児教育に関わる先生方と意見交換(写真/山田浩司)

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パサカのジュース工場のオートメーション状況を見学(写真/山田浩司)

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看護学校での生徒との対話(写真/山田浩司)

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ゲドゥ経営単科大学での学生起業グループとの対話(写真/山田浩司)

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脳卒中回復者とその家族へのインタビュー(写真/Tshering Palden)

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スタートアップセンター入居企業の1つ、ビスケット工場での対話(写真/山田浩司)

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スタートアップセンター入居企業訪問にはCST学生も同行(写真/山田浩司)

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チョコレート工場スタッフへのインタビュー(写真/Tshering Palden)