CST学生以外の利用者の獲得に向けて

2022年12月1日

ファブラボCSTは、王立ブータン大学科学技術単科大学(CST)の構内にあることから、開所からの2カ月間、利用者獲得に向けたプロジェクトのターゲットとして、主に大学構内の寮で暮らす学生向けのオリエンテーションやハンズオン研修を実施してきました。しかし、CSTの時間割では、月曜から金曜まで、午前中は講義がびっしり入り、午後は個別指導や実習が入るため、学生は平日午後4時以降にならないとファブラボへの足は向きません。土曜日も課外プログラムで多くの時間が取られるため、学生を対象とするプログラムには、そろそろ飽和感が感じられるようになってきました。

また、11月中旬以降は秋学期の期末試験の時期を迎えます。学科の必須プログラムとして、「ミニプロジェクト」と呼ばれるモデル試作が課題として課された一部の学科を除き、11月のファブラボ利用者は激減しました。

このため、私たちは、平日の来訪者を積極的に受け入れ、それを将来の継続利用につなげるため、多くの営業努力を1カ月間行いました。

1つめのターゲットは、CSTの近くにある看護師・助産師養成学校「アルラ医学アカデミー」でした。生徒数約270人、3年制の医療従事者養成学校ですが、同校教務長との協議の結果、彼らが実習で忙殺されるのは12月ということがわかり、急遽、11月24日、25日の2日間にわたり、1年生から3年生まで、2時間の入替制で、計160人に対してオリエンテーションを実施しました。

アルラ医学アカデミーでも、3年生の卒業研究では医療や実習の現場で利用される器具の試作が行われます。同アカデミー向けオリエンテーションでは、渡辺智暁専門家が、日本の看護学科生が取り組んだ医療器具や自助具の事例を紹介し、日本の同世代の看護師の卵がすでにデジタル工作に取り組んでいることを強調しました。また、オリエンテーション後半には、3Dデザインプログラム「Tinkercad」を使った操作の体験をしてもらいました。

2つめのターゲットは、地元の初等・中等学校です。これは、9月に行われたプンツォリン初期中等学校生受入れを皮切りに、すでに着手されていましたが、地元の公立学校も12月に入ると期末試験で多忙になるため、その前に駆け込みでファブラボCSTを生徒に見学させたいとの要望を2校からいただきました。11月19日にはソナムガン中期中等学校の生徒105人、29日にはプンツォリン後期中等学校の生徒75人を受け入れ、半日がかりでのオリエンテーションを行いました。

地元の初等・中等学校の生徒は、期末試験後は長い冬休みに入ります。この期間中に科学ワークショップなどの機会を生徒に提供することがプロジェクトには求められており、今回の生徒受入れは、冬休み中の大学の施設利用の確保に向けた、大きな布石として期待されます。

3つめのターゲットは、地元産業界です。このために、今年9月に行われた日本での技術研修には、プンツォリン市内にある「ブータン工業会(ABI)」の事務局長が参加し、日本のファブラボと周辺の中小製造業企業とのつながりについても学んでもらっていました。ABIを巻き込むことよって、会員企業の間で、ファブラボCSTへの関心を高めてもらってきたのです。研修から戻ったABIのゲレ事務局長と協議し、早急に会員企業によるファブラボ訪問を実現させることになりました。

ABIは全国の製造業をカバーするネットワーク組織ですが、11月30日に開いたABI加盟企業向けオリエンテーションには、プンツォリン市やパサカ工業団地に工場を有する企業16社から、ABI事務局員も合わせて計29人が参加しました。各社の生産性向上や安全衛生の確保などにおけるデジタル工作機械の活用について、議論が行われた後、参加者からは、特に「住宅建設での3Dプリント技術の活用」や「工場で破損する歯車の即時複製」への高い関心が示されました。

こうして開拓を進めている新たな利用者が、冬休みの閑散期や、学期中の平日日中の施設利用率を高めていってくれることを期待したいと思います。なお、これらのオリエンテーションには、プロジェクトの山田浩司専門家、渡辺智暁専門家、ファブアカデミー修了生のほか、9月の日本での研修から戻ったラボ専属技師や教員、さらには期末試験を終えてインターンとしてファブラボCSTで冬休みを過ごす、CSTの学生数名も運営に参加しました。

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アルラ医学アカデミー学生向けオリエンテーション(写真/Karma Kelzang Eudon)

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アルラ医学アカデミー学生向けオリエンテーションでは、Tinkercadを使った3Dモデリングの操作体験も実施(写真/山田浩司)

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アルラ医学アカデミー学生から早くも要望があった妊婦の3Dプリント模型(写真/山田浩司)

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プンツォリン後期高等学校の生徒向けオリエンテーション(写真/山田浩司)

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オリエンテーションでは、ファブアカデミー修了生も卒業製作について紹介(写真/山田浩司)

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帰国研修員が来訪者にデジタル刺繍ミシンの操作を説明(写真/山田浩司)

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ファブアカデミー修了生による大型CNC加工機の操作説明(写真/山田浩司)

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ブータン工業会会員企業向けオリエンテーション(写真/山田浩司)

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3Dプリンターを前に利用法を議論するブータン工業会会員企業代表者(写真/Karma Kelzang Eudon)