日本のファブラボ運営者による、初の技術指導

2023年3月10日

2月13日から3月3日まで、ファブラボ運営指導を担当する竹村真郷専門家が短期渡航し、カウンターパート機関である王立ブータン大学科学技術単科大学(CST)で現地活動を行いました。竹村専門家は、日本ではファブラボ浜松TAKE-SPACEの代表を務め、私たちの技術協力プロジェクトの専門家チームのメンバーとしては、唯一の日本のファブラボ関係者です。

竹村専門家のブータン渡航は三度目となりますが、前回の渡航では供与機材の到着が遅れ、ファブラボCSTの開所が当初予定からうしろにずれ込みました。竹村専門家の活動は、順次搬入された機材のセットアップと、カウンターパートに対する機材の操作方法のデモンストレーションに費やされ、ファブラボCSTが日の目を見る前に現地活動期間が終了しました。

ファブラボCST開所後初めてとなる今回の現地活動に先立ち、プロジェクト側からは事前に、鋳型成形の実践体験を活動に組み込んでほしいと要望していました。開所から5カ月を経過した現在も、ファブラボの利用者のほとんどがレーザー加工や3Dプリントしたものを、最終製品や組立用パーツとして用いていましたが、これを金属加工の下準備として用いる生産の形を、利用者に示したいと考えたからです。具体的には、電気溶解炉を用いたアルミ缶の溶解や、レーザー加工や3Dプリントと組み合わせた鋳型づくりの体験機会を、利用者に提供してほしいと、プロジェクトからは竹村専門家に要望しました。

竹村専門家は、これに加え、さらに2つの領域での実践機会の提供を準備しました。1つめは「デジタルテキスタイル」の紹介です。デジタルミシンを装備し、実際にこれを活用しているブータン唯一のファブラボとして、これまでの型紙とハサミを用いた裁断から、3D CADやレーザー加工機を用いた生地のデザインと裁断を、これを機に普及させることにしました。

もう1つは新たなユーザー層の開拓で、子ども向けの3Dスキャナ操作体験会やアクセサリーづくりワークショップなどを通じ、子どもや女子にもデジタルものづくりに関心を持ってもらうことを目ざすことになりました。

竹村専門家の現地活動は、CSTの春学期開始と重なり、教員、学生ともに学業での負担が比較的軽い時期となりました。このため、プロジェクトで用意したワークショップの機会は、ファブラボCSTのウェブサイトに情報を掲載した直後に定員がすべて埋まってしまうほどの盛況を博しました。使用する機械や材料の点数による制約もあって、大人数の募集はかなわなかったものの、金属加工ワークショップは4回開催して延べ30名、デジタルテキスタイル製作に関するワークショップは2回開催して延べ8名、そして3D CADを用いたアクセサリー製作のワークショップはわずか1回ながら、8名が参加しました。

金属加工に関するワークショップは、大学構内でも深刻化しているアルミ缶の処理問題に関して、解決策をもたらす可能性があると好評で、教職員対象のワークショップを行った後、急遽学生対象で2回のワークショップを開催することになりました。デジタルテキスタイル製作に関するワークショップには、近隣で縫製研修施設を営む若手スタートアップも参加しました。

また、アクセサリー製作のワークショップは、女子学生の受講が大多数を占める好評ぶりで、小物であるために3Dプリントの時間もあまりかからず、女性が参加しやすいコンテンツとして、今後の活用に期待を抱かせる結果となりました。

加えて、竹村専門家は、日曜日にはプンツォリン市内のユースセンターにおいて、青少年向け3Dスキャニング体験会を開き、ファブラボCSTが有する3Dスキャナだけでなく、スマホでダウンロード可能なアプリによるスキャニングで、身の回りのものを三次元データ化する体験を、13人の参加者に提供しました。

この他にも、竹村専門家は、2月18日にJICAと政府デジタル庁(GovTech)が共催してCSTで開催された、ウェアラブル端末の開発に関するアイデアソンの最終審査会で、JICAブータン事務所の要請により審査員を務め、さらにはカウンターパートと協力して電子工作デスクやテキスタイルセクションの内装の整備を進めるなど、ファブラボCSTの施設の充実にも貢献する活躍を見せ、約3週間の活動を終了しました。

【関連リンク】

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アルミ缶の電気溶解に挑戦するCST教職員(写真/山田浩司)

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ワックスをやすりがけして指輪作りに挑戦するCST教職員(写真/山田浩司)

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ベニヤ板のレーザー加工でメダルの鋳型を作る参加者たち(写真/山田浩司)

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鋳型と出来上がったメダル(写真/山田浩司)

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1回の講習会でアルミ缶を約200グラムのインゴットに変換(写真/山田浩司)

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3D CADプログラム「CLO」を用いて体形に応じたカット生地をデザイン(写真/山田浩司)

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3D CADプログラム「Tinkercad」を用いたアクセサリーのデザイン(写真/山田浩司)

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3時間のワークショップで、参加者がデザイン、3Dプリントしたアクセサリー(写真/山田浩司)

【画像】アクセサリー作りに参加した学生と竹村専門家(写真/山田浩司)