JICA初のスポーツ・技プロ スタート!!「スポーツ教育を通じた信頼醸成プロジェクト」in ボスニア・ヘルツェゴビナ

2017年1月12日

スポーツには計り知れないパワーがあります。
スポーツを通じて、私たちは健康な躰だけではなく、健全な精神を手に入れたり、仲間とともに目標に向かって取り組むことで一体感や達成感を味わったり、ひとつのルールを皆で共有することで、社会の一員としてのモラルを身に付けることができます。世界ではたくさんの子どもたちが、スポーツを通してこのようなかけがえのない経験をしています。

2016年11月よりボスニア・ヘルツェゴビナ(以下、BiH)において、新しいプロジェクトが始まりました。異なる民族同士が争い、約20万人もの犠牲者を出した紛争(注1)が終結して20年以上が経つBiHでは、未だにそれぞれの民族が別々の政治経済、教育システムのもとで暮らしており、EU加盟を目指しているBiHにとって、民族間の信頼醸成を促し、国民がひとつになっていくことが大きな課題となっています。

プロジェクトの拠点は、首都サラエボから南に130キロメートルほど行ったところにあるモスタル市です。ネレトバ川が悠々と流れる歴史ある町で、スタリ・モスト(古い橋)と呼ばれる美しい橋が世界遺産となっている観光地でもあります。しかし、紛争時には激戦地となり、今なおネレトバ川を挟んで西と東にクロアチア系とムスリムの人々が分かれて生活をしており、それぞれに水供給会社が存在するなど二重行政が行われています。

(注1)旧ユーゴ連邦の崩壊が進む中、1992年4月、同共和国の独立をめぐって民族間で紛争が勃発し、3年半以上にわたり各民族が同共和国全土で覇権を争って戦闘を繰り広げた結果、死者20万、難民・避難民200万と言われる戦後欧州で最悪の紛争となった。※外務省ホームページより抜粋

【画像】

モスタル市を流れるネレトバ川

このプロジェクトでは、BiHが目指す民族融和の実現のため、就学前・初等・中等教育庁(以下、APOSO)が主導する、保健体育の共通コア・カリキュラム(以下、CCC。3つの主要民族毎に異なっているカリキュラムを統合するもの。)策定支援、ならびにモスタル市スポーツ協会(以下、スポーツ協会)が担う、市民スポーツの振興支援、を通じてスポーツの力で人々の心を繋げていくことを目標としています。カウンターパート機関の一つであるスポーツ協会は、市内のスポーツクラブすべての登録を受け付けており、二重行政下のモスタル市で唯一、両民族双方へのサービスを担っています。このため、プロジェクト開始以前より、両民族双方が参加できるイベントの開催にも努めてきています。
JICAのプロジェクト専門家は、チーフアドバイザー:橋本敬市氏(JICA国際協力専門員)、プロジェクトリーダー:デヤン・バリッチ氏(シニアコンサルタント)、同コーディネーター/保健体育教育/平和構築担当:辻康子氏の3名です。12月2日、キックオフとして最初の合同調整会議(以下、JCC)が開催され、日本・BiH双方の関係者が一堂に会しました。デヤン氏の司会のもと、在BiH日本国大使館安田一等書記官、及びJICAバルカン事務所阿部所長から、プロジェクト開始を祝うスピーチがあり、草の根無償で改修されたカンタレバッツスポーツセンターの活用促進への期待、また日本政府が進めている“Sports for Tomorrow”の取り組みの一環として、さらにJICAとしてスポーツ教育・体育分野を対象とする初めての本格的な技術協力として(注2)、大きな期待を寄せていることが述べられました。

辻専門家からは、2月に実施する第1回本邦研修の目的や内容、日程の説明がなされ、早急な研修参加者選出の必要性が確認されました。またプロジェクト・カウンターパートで、共通コア・カリキュラム推進コンポーネントの責任者であるAPOSOのマヤ・ストイキッチ長官、及び市民スポーツ振興コンポーネントの責任者であるスポーツ協会プロジェクトマネージャーのジェナン・シュタ氏から、各コンポーネントの活動予定が報告されました。
2017年2月に計画されている本邦研修では、日本における保健体育教育の現状や、カリキュラム構成の思想、教員養成システム等にかかる講義の他、スポーツ庁、国立スポーツ科学センター、日本アンチ・ドーピング機構等の訪問が予定されています。

今回JCCではプロジェクトの本格的な始動にあたり、関係者がそれぞれの役割を改めて認識し、心をひとつにして目標に向かって取り組んでいくことが確認され、上々のスタートとなりました。

(注2)これまでにも、JICAボランティアの派遣や、本邦研修の受入、草の根技術協力による協力実績はあり、また技術協力プロジェクトとしても、教育カリキュラム改善として複数の教科のカリキュラム改善を平行してすすめる中で、保健体育を含めた協力を行った実績はある。但し、学校体育・スポーツ教育に焦点を当てた技術協力プロジェクトとしては始めて。

【画像】JCCにて。左から平島企画調査員(バルカン事務所ボスニア担当)、辻専門家、阿部所長、ジェナン・シュタ氏(スポーツ協会)、マヤ・ストイキッチ氏(APOSO)、ラドミラ・コマディナ氏(モスタル市役所)、安田書記官、デヤン専門家(プロジェクトリーダー)