電子基準点データ利活用促進のための実証プロジェクト4件を選定

2023年4月11日

はじめに

カンボジアでは、第四次四辺形戦略(2019~2023年)における優先課題「都市化の管理の強化」や経済社会基盤強化のためのインフラ開発の促進に向けて、開発用地の測量・地形図作成・土木工事等の効率的な実施が課題となっており、この解決策として電子基準点(注1)による高精度測位環境の整備が有効とされています。また電子基準点は測量以外の様々な分野でも新たなサービスやビジネスの創出への活用が期待されています。

本プロジェクトでは、実施機関である地籍地理総局(GDCG : General Department of Cadastre and Geography)と連携し、2022年、下図に示す5点の電子基準点とデータセンターから構成される『Khmer GEONET』を構築しました(https://khmergeonet.xyz/)。技術検証やウェブサイトの開設等の準備を経て、2022年10月から高精度測位データの試験配信が始まっています。国の測量機関が民間も含めたユーザーに高精度測位サービスを提供するのは初めてとなります。

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電子基準点の配点図

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電子基準点(国土管理・都市計画・建設省の敷地内に設置された1点)

実証プロジェクトの実施

本プロジェクトの次のステップとして、Khmer GEONETから配信される高精度測位データの評価や利活用促進を目的とした実証プロジェクトを実施します。

JICAプロジェクトチームは日本とカンボジアの企業や機関に対してSNSを活用した告知や個別の説明等を通して参加を呼びかけ、測量、建設、農業分野の様々なアイディアをご応募いただきました。応募者へのヒアリングやGDCGとの協議を経て、以下に示す4件の実証プロジェクトを選定し活動を開始しました。

測量分野1

タイトル:Flood Inundation Study in Siem Reap Town Using Khmer GEONET(Khmer GEONETを用いたシェムリアップの洪水氾濫の調査)

実施企業:Key Consultants (Cambodia) Ltd.(https://www.keyconsultantscambodia.com/)

概要:Khmer GEONETを用いてシェムリアップ川の洪水予測図を作成する。ドローンを使用して空中写真を撮影しデジタル標高データを作成する。ドローンの基地局をKhmer GEONETにより測量し設置する。シェムリアップ川の横断測量をリアルタイム測位(注2)で行う。国家基準点を使用した従来の測量手法と精度や効率を比較する。このプロジェクトの結果、ドローンによる測量の効率化や災害時にKhmer GEONETを使用して迅速に測量調査を行うことが期待される。

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使用するドローンのKhmer GEONETへの接続確認

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使用するGNSS受信機の点検

測量分野2

タイトル:Transmission Main DN500mm on National Road 3 - Extension project water services(国道3号線の水道施設拡張のための測量へのKhmer GEONETの活用)

実施企業:Phnom Penh Water Supply Authorities(プノンペン水道公社)(http://www.ppwsa.com.kh/en.php)

概要:プノンペンの水道施設管理図作成のためのマンホールや道路形状の測量作業に、Khmer GEONETを使用する。従来手法とKhmer GEONETを用いたリアルタイム測位手法で作業を行い、精度や効率を比較する。このプロジェクトの結果、公共施設の測量や地図の作成が効率化され管理図面の作成が迅速に行われることが期待される。

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使用するGNSS受信機の点検

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現場付近での測量の実施

建設分野

タイトル:Utilize Khmer GEONET data in the construction project(建設プロジェクトにおけるKhmer GEONETの活用)

実施企業:IKEE PAVING SYSTEMS CO., LTD.(https://ikee.jp/)、TOPCON CORPORATION(https://www.topcon.co.jp/)、TOPCON POSITIONING ASIA、CAM-ES

概要:国道5号線(バッタンバン)の舗装工事に、Khmer GEONETを使用する。従来手法とKhmer GEONETを用いた手法で測量と道路舗装面の評価を実施し、作業効率や精度を比較する。このプロジェクトの結果、道路工事においてもKhmer GEONETが活用できることが示され道路工事の効率化が期待される。また将来的にICT建機の道路工事への適用も期待される。

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現地基準点の設置のための測量

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舗装面の評価のための測量

農業分野

タイトル:Accuracy Verification of Agri-Drone auto flight for spraying fertilizer and chemicals(農業用ドローンの肥料や薬品散布のための自動飛行の精度検証)

実施企業:JC Agricultural Cooperatives Co., Ltd.(http://jcgroup.asia/)、JC Leadings Co., Ltd.

概要:農業用ドローンによる肥料散布に、Khmer GEONETを使用する。GPSによる単独測位でのドローンの飛行とKhmer GEONETを利用したドローンの飛行を比較して、散布作業の正確性や効率性を比較する。このプロジェクトの結果、精度よくドローンを飛行させて従来よりも効率的に肥料散布ができることは示され、農業分野でのKhmer GEONETの活用が広がることが期待される。また正確に計画したコースを飛行できるようになりドローンの安全運航にも寄与できる。

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使用するドローンのKhmer GEONETへの接続確認

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Khmer GEONETを使用したドローンの飛行テスト

今回選定された4件に加えてGDCGによる地籍測量分野での実証プロジェクトも別途予定しており、全ての実証プロジェクトを2023年8月までに完了する計画としております。

JICAプロジェクトチーム及びGDCGでは、この活動がKhmer GEONETの有用性を多くの方々に知っていただく機会になることを目指して実証プロジェクトの実施支援やPRを行います。こちらのプロジェクトニュースでも進捗や現場の様子をお伝えする予定です。

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選定に関するGDCGとの協議の様子

(注1)電子基準点…GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム)からの位置情報に関する電波を連続的に受信する基準点のことです。電子基準点網が統合的に管理・運用され、データセンターにおいて電子基準点網からの正確な位置情報や補正情報が適切に解析・配信されることにより、地球上の位置や標高等を正確に測定すること(高精度測位)が可能となります。

(注2)リアルタイム測位…地上に設置した電子基準点からの位置情報データによって、高い精度の測位をリアルタイムで実現する技術です。