チーフアドバイザーの独り言3:平和について

2020年9月30日

前回、私は、プロジェクトPASOにおけるジェンダー視点の重要性についてお話しました。今回は、エルサルバドルが内戦経験国であるということを踏まえ、エルサルバドルにおける「平和」を実現するために、プロジェクトPASOは何をすることができるか、ということについてお話ししたいと思います。

1980年代のエルサルバドル内戦は、1992年のチャプルテペック和平合意によって終結しました。しかし、現在のエルサルバドルは、マラスと呼ばれるギャングによる犯罪が頻繁に発生しており、とても平和な社会であるとは言えません。エルサルバドル人の中には、「厳密に言えば、エルサルバドル内戦はまだ終わっていない」と断言する人もいるほどです(注1)。

二度の世界大戦を経験し、唯一の被爆国である日本は、内戦経験国であるエルサルバドルに対して、他のドナーとは異なる協力ができると私は考えております。日本においては、戦争を知らない世代が戦争や原爆を単なる過去の出来事とは捉えないように、戦争体験者や被爆者が語り部となって被爆体験や戦争体験を次世代に伝えてきました。同様に、エルサルバドルにおいても、内戦経験者が内戦を知らない世代に内戦の経験を伝えていくことが、日本としてできる協力の一つであると思います。

プロジェクトPASOは、集落開発計画を作成するにあたり、「集落の歴史の振り返り」というワークショップを行っております。すると、プロジェクトPASOに参加している集落の多くは、内戦時に住民が離散して、内戦後に集落を再建しているのが分かります。例えば、私は、あるワークショップにおいて、「一度ホンジェラスに逃げて、その後、いろいろな場所をさまよった挙句、今の場所にやっとたどり着くことができた」という住民の話を聞きました。内戦時につらい経験をした人は、その経験をあまり語りたがりませんが、「集落の歴史の振り返り」の中で、内戦経験者が、内戦を知らない世代に、どのような思いをもって集落を再建したのかについてもっと語って欲しいと私は考えております。内戦経験国であるエルサルバドルにおいて、プロジェクトPASOの集落開発計画作成は、集落の開発計画であると同時に平和の尊さを学ぶ機会となっております。

(注)本文章はプロジェクト・パソのチーフアドバイザーである桑垣の「独り言」を記載したものであり、独立行政法人国際協力機構(JICA)及びエルサルバドル共和国地方開発社会投資基金(FISDL)の見解を記載したものではありません。

(注1)エルサルバドル内戦とマラスの関係については、朝日新聞GLOBEの記事が分かりやすく説明しています。