家畜衛生管理のお話し(2)

2018年6月22日

私たちのプロジェクトでは、キルギス国立農業大学の「農業科学イノベーションセンター」をモデル農場として、ここを技術移転の拠点と位置付けています。そこで、まずはこの農場の生乳生産の現状を詳しく把握する必要があります。現在モデル農場で出荷している生乳は温度管理に問題はありませんが、「モデル」としてはもう少し細菌数を減らす必要があります。また潜在性乳房炎にかかっている牛の割合も日本の酪農家と比べると多い状況なので、牛を飼育する環境の整備、搾乳方法の見直し、乳房炎の予防や治療などについての改善も図る必要があります。

乳房炎を起こす細菌の種類はたくさんありますが、感染源は細菌の種類により、牛の乳頭、乳房を拭くタオル、糞や土壌とそれぞれ異なり、予防対策もそれらに応じて考える必要があります。また、細菌の種類によって治療効果のある抗生物質も異なり、治療の難しい細菌の場合には、牛の処分も検討する必要があります。このように、乳房炎の対策にはまず細菌の種類をつきとめることが重要なため、その種類を判定する検査も始めました。

こうした検査は、本来であれば清潔な検査室で整った機材と十分な消耗品のそろった環境で実施すべきですが、現場では限られた条件の中でやらなければなりません。例えば、細菌検査にはインキュベーターという温度を一定に保つ保管庫のようなものが必要ですがキルギスでは簡単には入手できません。そこで実験用のインキュベーターの代わりに、鶏用の安いふ卵器を農機具店で購入し、このふ卵器の空気穴をプラスチック板で塞ぐなどの細工をして使っています。細菌検査は衛生的な操作を常に心がける必要がありますが、このような簡易なインキュベーターを応用しても、衛生面に留意すれば一定レベルの判定ができることが分かりキルギスにおいても細菌検査を実施しやすくなると考えています。現地で入手できる物を応用して活動を進めていくことは、技術の移転において非常に重要な視点の一つです。

【画像】

牛乳を保管するバルクタンクからサンプルの採取

【画像】

生乳中の生菌数の検査

【画像】

乳房炎の原因となる細菌を推定する検査

【画像】

ふ卵器応用の自作インキュベーター