ローカルコンサルタントの現場調査に同行

2019年2月18日

キルギスの酪農家は多種多様です。規模の大小、酪農形態、酪農に関する経験や知識のレベル、経営状況の良し悪し等々、とても一括りにして移転すべき適性技術を特定したり、問題の解決方法を模索したりすることはできません。これまでの事前調査や現場活動を通してある程度の情報は得ているのですが、プロジェクト活動を更に実態に即したものにするために、主として生乳のバリューチェーンと家畜衛生管理について、現地コンサルタントによる現場調査を昨年末から始めました。

この業務を効果的に遂行できるのは、ただのコンサルタントではなく、現地の酪農の実態を詳細に把握していて、尚且つ多くの酪農家の信頼を得ている人でなければ酪農家の本音や実情を聞き出せません。幸いにも、公募選定の結果、これまでのプロジェクト活動でもその目標を良く理解して献身的にお手伝い頂き、人柄も専門性も申し分ない獣医さんがこの業務を引き受けてくれることになりました。そして私たちは、2018年の暮れも押し迫った日に、このローカルコンサルタントの酪農家実態調査に同行することが出来ました。

この日は、首都ビシュケク郊外の3軒の中規模酪農家を訪ねる予定で出かけました。各現場では一通りの農場紹介を聞いてから、聞取り調査が始まります。使用する調査票は、下平・木下両専門家がコンサルタントと相談しながら丹念に作り込んだものです。最初の酪農家の聞き取りは氷点下の気温の中、約1時間にわたって行われました。2軒目の酪農家は少し裕福そうな農家で、お宅にお邪魔しての調査になりました。3軒目の酪農家は、私たちが訪問した時にあいにく少しお酒が入って出来上がっていた状態だったので、残念でしたが調査を見送りました。盆も正月もなく、1年365日早朝から夕刻まで、乳牛たちのライフサイクルに合わせて作業をしなければならない酪農家の仕事は実に過酷です。ですから、真冬の午後の仕事の合間に、ちょっと一杯ひっかけたい彼らの気持ちは良く分かりますので、我々の調査も無理はできません。

幸いにも上手く調査が出来た前の2軒では、訊く方も訊かれる方も実に真摯で、直面している問題を何とか解決したいという思いがひしひしと伝わってきました。どの酪農家も、自分が生産する生乳を少しでも高く、少しでも多く売りたいと思っているので、そのためにはどうすれば良いのかをいつも真剣に考えています。本プロジェクトの目標は、EEU(ユーラシア経済連合)の基準に合致する質の良い生乳をより多く生産することですから、彼らの要求と重なっています。聞取り調査の途中では、彼らからその方法についての質問がいくつも出て、同行していた木下専門家が丁寧に対応しました。

どんなに有益な技術が有っても、それを使う酪農家の心掛けが良くなければ生乳の品質は向上しませんし生産量も増えません。だから、生乳生産者である酪農家の啓発活動も含めて、彼らと真摯に向き合うことがとても大切です。そして、正しく搾乳された生乳を、基準に即した条件で保管・輸送することができてはじめて国際的にも認められる価値の高い生乳になります。価値の高い生乳は、市場原理に従って相応の買取価格で取引されることにより、酪農家の収入の向上にもつながります。

この調査は1月末に調査報告書としてまとめられました。そして、この情報が各専門家によってプロジェクトのベースライン調査報告書に補完され、今後各分野のプロジェクト活動にしっかりと役立てられることになります。

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1軒目の酪農家のパドック。ソ連時代の広大なコルホーズの一部分を買い取ったという。

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1軒目の酪農家の牛舎。二百頭規模なのに数十頭分しか使われていない。木下専門家が牛床の長さを歩幅計測中。

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全10ページ約60問に及ぶ調査票を聞き取りながら丁寧に埋めていく現地コンサルタント(右)。

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作業手順を正しい順番に並べる設問があり、それを酪農家が直接回答している。

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2軒目の酪農家のパドック。もともと同じ村の別の場所に住んでいたということだが、ソ連時代の工場跡の土地と施設を買い取って農場にしたという。

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2軒目の酪農家の牛舎。もともとあった施設を改造して使用しているので、天井が低く換気は良くない。

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酪農家の奥さんが手順問題の回答をしている。往々にして、奥さんの方が実際の作業に詳しい。

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今回は調査できなかった3軒目の酪農家のパドック。オーナーは私たちにしきりに投資の話を持ち掛けてきた。