(和)統合的沿岸域生態系管理システム構築プロジェクト
(英)Project for the Development of Integrated Coastal Ecosystem Management System
モーリシャス共和国
2020年12月14日
モーリシャス南東部の沿岸域(船舶座礁の影響を受けている地域)
2022年5月21日から2027年8月20日
(和)ブルーエコノミー・海洋資源・水産・海運省
(英)Ministry of Blue Economy, Marine Resources, Fisheries and Shipping:MoBEMRFS
モーリシャスは人口126万人、国土面積2,040平方キロメートル(ほぼ東京都大)でモーリシャス島(1,865平方キロメートル)を始めとした島々で構成される。主島のモーリシャス島はサンゴ礁に囲まれ、汽水域にはマングローブ林帯(約2,000ヘクタール)があり、また同島内には3か所のラムサール湿地が存在している。これらの豊かな生態系は島民の生活を支え、また観光業(GDPの8%、雇用の10%、EIU、2018)や水産業など主要産業の基盤となり、何よりこれら豊かな自然は国のシンボルと国内外から捉えられている。
しかし、2020年7月25日に同国の南東沖で日本企業所有の貨物船わかしお号が座礁、船体に亀裂が入り、8月6日以降、約1,000トンの重油が流出する事故が発生し、重油は同国南東部の海域から沿岸域へと漂着。これら地域にはラムサール条約登録湿地2か所や自然保護区、マングローブ林、海草藻場及びサンゴ礁とそこに生息する漁業種を含む魚介類、また島嶼には鳥類、陸生小動物が生息していることから、生態系及び沿岸住民の生活への重大かつ中長期の影響が懸念されている。
日本政府はモーリシャス政府の緊急支援要請を受け、国際緊急援助隊専門家チームを派遣し、油防除作業、環境社会影響把握等の緊急支援活動を実施した。またそれに続いて同年10月より2か月にわたる基礎情報収集調査を実施。同調査を通じて、沿岸のマングローブ林における油汚染の影響や、船舶座礁による海水の濁度上昇を受けサンゴ群体にも影響が生じていることが観察された。また船舶座礁事故以前から存在する問題として、陸域の土地利用変化による沿岸域への流入土砂増加や水質悪化、温暖化による水温上昇によるサンゴの白化、沿岸域の魚介類の過剰採集等、人間活動に起因する沿岸域生態系の劣化が近年著しいことも確認されており、沿岸域の生態系サービスを持続可能なものとする取組みは喫緊の課題として、生物多様性国家戦略(National Biodiversity Strategy and Action Plan(NBSAP)2017年~2025年)でもその重要性が述べられている。
本件は民間企業による船舶座礁事故ではあるものの、本邦企業所有の船舶の事故であり日本としてのアクションに国際社会より注目が寄せられている。またモーリシャスにおける生態系の保全と回復は1)同国の社会・経済への影響緩和の観点、2)世界の中でも貴重な生物多様性ホットスポットの保全の観点などから、喫緊の課題であり、緊急援助隊活動、基礎情報収集調査に続いてシームレスに事業を展開し、これら生態系の保全・回復へ速やかに貢献することが期待されている。これらを背景として、2021年5月、モーリシャス政府より我が国政府に対して本事業実施の要請がなされた。
対モーリシャス「国別開発協力方針」(2017年10月)では、同国は小島嶼国連合(AOSIS)、環インド洋連合(IORA)、インド洋委員会(COI)等で中心的な役割を果たしているほか、広大な排他的経済水域を有していることから、「自由で開かれたインド太平洋戦略」の要となり得る位置にあり、外交や水産分野で戦略的に重要な国とされている。また、重点分野として「環境・気候変動対策・防災」が掲げられ、同国の生態系の保全は観光や水産業等の重要産業にも直接的に影響し、同国の持続的開発の観点からも不可欠な取組みとなる。またJICA課題別事業戦略「グローバル・アジェンダ」の「No.17自然環境保全」に該当する取り組みとなり、協力方針2「海域(沿岸域)における自然の豊かさを守る」に資する協力となる。
なお、本事業はSustainable Development Goals(SDGs)の「ゴール13:気候変動対策」及び「ゴール14:持続可能な開発のための、海洋と海洋資源の保全と持続可能な使用」に貢献するものであり、先述のNBSAPの実施にも貢献するものである。
国連、仏、英、インドなどが緊急支援として油防除、環境モニタリング、生態系保全等の専門家を派遣。UNDP、EU、インド洋委員会等は船舶座礁事故以前より生態系保全・持続的水産資源管理にかかる支援を実施しており、同支援を継続予定。
統合的沿岸域生態系管理システムにより、船舶座礁事故やその他人為的な影響を受けた沿岸域生態系の保全と回復が、事故前よりも健全で強靭性のある状態に向けて推進される。
船舶座礁事故やその他人為影響からの効果的で実効性のある沿岸域生態系保全・回復策の実施に向け、統合的沿岸域生態系管理システムが構築される。
1.船舶座礁及びその他人為影響により劣化した沿岸域生態系の保全・回復活動を監督するため、CEMCが設置・運用される。
2.統合的海洋モニタリング戦略(Integrated Marine Monitoring Strategy:IMMS)及びガイドラインに基づき、沿岸域生態系モニタリングが実施され、結果が保全・回復活動の評価・改善に活用される。
3.沿岸域生態系の保全・回復とエコツーリズムにかかる詳細調査が実施され、保全・回復計画の一環としてのアクションプランが策定される。
4.回復アクションプラン及びエコツーリズムアクションプランが地域コミュニティ、NGOや民間セクターと連携して実施され、結果がCEMCに報告される。
5.地域住民やコミュニティ、観光客の沿岸域生態系保全・回復に関する意識が広報・教育・啓発活動(CEPA)を通じて向上する。
1-1.CEMCの体制と役割を定めて設置し、保全・回復、持続可能な利用に関する政府、NGO、民間などの関係者が参加する会合を年1回以上開催する。
1-2.成果3で策定したアクションプランを含む沿岸域生態系の保全・回復計画を策定する。
1-3.CEMCの監督の下、活動2-4の分析結果を基に、回復アクションプランとエコツーリズムアクションプランに基づく活動の評価・改善を行う。
2-1.IMMSとガイドラインに沿った適切な沿岸域生態系モニタリングの実施に向け、研修を通じて関係機関やNGOの能力を強化する。
2-2.船舶座礁とその他人為的影響による沿岸域生態系の変化を検知するため、指標、方法、場所を含む、サンゴ、海草藻場、マングローブの沿岸域生態系モニタリングガイドラインを改善する。
2-3.関係機関やNGOと連携し、ガイドラインに沿った沿岸域生態系モニタリングを実施する。
2-4.沿岸域生態系の保全・回復計画やその他の活動を評価・改善できるよう、モニタリング結果を定期的にCEMCに報告する。
2-5.モニタリング調査や採取した試料の一次処理を行うためのBBMPVC設備を改善する。
3-1.既存の情報収集や現地調査を通じ、船舶座礁やその他人為的な影響・気候変動などによって引き起こされた沿岸域生態系やそのサービスの劣化状況を明らかにする。
3-2.沿岸域生態系の回復アクションプランを策定する。
3-3.健全な沿岸域生態系を保つのに欠かせない、より多くの幼生や種苗、株芽を他の生息地に供給している重要な生息地を、調査を通じて特定する。
3-4.海洋保護区の設定・修正、監視・巡回システムの強化等、重要な生息地の保護のためのアクションプランを策定する。
3-5.エコツーリズム資源、利用状況、エコツーリズム開発に必要な情報の調査を行う。
3-6.エコツーリズムアクションプランを策定する。
4-1.成果3で策定した回復アクションプランに基づき、優先順位が高いサンゴ、海草藻場、マングローブの生息地でパイロット活動を実施する。
4-2.エコツーリズムアクションプランに基づき、コミュニティ参加型のエコツーリズムのパイロット活動を実施し、必要な能力強化を行う。
5-1.サンゴ、海草藻場、マングローブの保全への意識を高め、情報・教育センターとして機能させるために、BBMPVCおよびAFRCの展示施設を改善する。
5-2.学生や地域社会の沿岸域生態系保全に対する意識を高めるため、政府・研究機関・NGOと連携した環境教育活動を行う。
5-3.地域住民やコミュニティ、観光客など沿岸域生態系に関心を寄せる人々に対し、ウェブサイト、SNS、小冊子、パンフレットなどのコミュニケーションツールを活用して、プロジェクトの目的や活動についての情報を共有する。
1)長期専門家派遣:業務調整/環境教育
2)短期専門家派遣(合計約57M/M):総括/生態系・保護地域管理、サンゴモニタリング・回復、海草藻場モニタリング・回復、マングローブモニタリング・回復、化学分析・モニタリング、生態系サービス評価、エコツーリズム、環境教育施設改修、衛星画像解析
3)研修員受け入れ(日本における沿岸域生態系保全・回復)
4)機材供与(車輛、プロジェクト事務所のためのPC、現地調査のための潜水調査用資機材、協議に基づきその他必要な機材)
1)カウンターパートの配置(プロジェクト・ダイレクター、プロジェクト・マネージャー、プロジェクト・サブマネージャー、その他成果ごとのカウンターパートのアサイン)
2)プロジェクト事務所(アルビオン水産研究所とブルーベイマリンパークビジターセンター(以下、BBMPVC)内)と設備・経常経費(電気・水道代)、その他案件実施のための施設等
3)他のステークホルダーとの調整
4)現地経費(モーリシャス側関係者の旅費、沿岸域調査のための小型船とその燃料費、セミナー・会議開催費など)