第二回非ツェツェ媒介性動物トリパノソーマ症国際会議(2nd International Conference on Non Tsetse Transmitted Animal Trypanosomosis)に参加

2018年4月5日

モンゴル獣医学研究所(IVM)の所長及びプロジェクトディレクターでもあるバトツェツェグ所長、モンゴル生命科学大学院学長及びプロジェクトマネージャーであるバトトゥル教授、帯広畜産大学 菅沼特任助教は、2017年12月18-19日に熱帯医学研究所(Institute of Tropical Medicine, Antwerp, Belgium)で開催された第二回非ツェツェ媒介性動物トリパノソーマ症国際会議(2nd International Conference on Non Tsetse Transmitted Animal Trypanosomosis)に参加し、本SATREPSプロジェクトに関する研究成果を発表しました。

トリパノソーマ症とは、トリパノソーマと呼ばれる原生生物によって引き起こされる疾患で、皆さんも一度は聞いたことがあるとは思いますが、ツェツェバエが媒介するアフリカの風土病である眠り病。あれの感染源もトリパノソーマです。眠り病は怖い病気ですが、本SATREPSプロジェクトが研究しているモンゴルのトリパノソーマ症は、交尾やアブによる吸血によって動物のみに感染するトリパノソーマ症であり、今回の国際会議が「非ツェツェ媒介性動物トリパノソーマ症」と呼ばれる所以もそこから来ています。

本SATREPSプロジェクトで研究中のトリパノソーマ症は主に2つで、1つは媾疫(こうえき)と呼ばれる交尾によって感染する「ウマのHIV」とも言える馬の感染症であり、これは媾疫トリパノソーマ(Trypanosoma equiperdum)によって引き起こされます。2つめは、トリパノソーマ・エバンシ(Trypanosoma evansi)によって引き起こされるスーラ病と呼ばれる疾患で、主にアブやサシバエによって媒介されるのですが、馬だけでなくラクダ、牛をはじめとする種々の家畜や野生動物が罹患します。

今回プロジェクトメンバーが参加した国際会議は、モンゴル国でも流行が確認されている上記2つの感染症及びその病原となるトリパノソーマに関する国際学会であり、国際的な家畜の安全基準を司る国際獣疫事務局(OIE)によって認定されたリファレンスラボラトリー専門家に加え世界各国から非ツェツェ媒介動物トリパノソーマ症に関する研究者が参加し、それぞれの研究成果の発表と発表内容に関する討議が行われました。昨年度開催された第一回国際会議には帯広畜産大学 五十嵐郁男教授及びIVMナランツァツァラル研究員が参加し、研究成果を発表しています。今回の学会発表では、モンゴル国における媾疫の流行状況と媾疫トリパノソーマの分離培養(バトツェツェグ所長)、媾疫ウマの治療実験(バトトゥル教授)及び媾疫トリパノソーマ モンゴル株の分子生物学的解析(菅沼)についてそれぞれ発表しました。

ちなみに媾疫トリパノソーマの分離培養は、研究室での実験・研究を進めるために必要な技術なのですが、本SATREPSプロジェクトが始まる以前は世界的にもきちんとした技術が確立されていませんでした。それが、本SATREPSプロジェクトで培養順化(研究室で継続的に病原体を培養・維持できるようにすること)に成功し、今では7株(培養順化したコロニー)もの「培養順化株」をIVMで保管、実験・研究に役立てています。また媾疫には効果的な治療法がなく、予防には発症したウマを隔離・殺処分するしかないのですが、本SATREPSプロジェクトでは発症したウマを保有する遊牧民の協力を仰ぎ、様々な治療を試みています。

発表後会場からは、モンゴル国における媾疫の流行状況とその対策について、既存の媾疫トリパノソーマ株と我々が分離培養に成功したモンゴル株との違いについて等数多くの質問をいただき、本SATREPSプロジェクトにおける媾疫トリパノソーマ及び媾疫の研究に対して、世界各国の研究者から大きな期待が寄せられていることを感じました。さらに、我々がSATREPSプロジェクトで実施している媾疫ウマの治療実験、媾疫ウマの病理解剖、また7株もの新規媾疫トリパノソーマの分離培養に成功している点は世界に類を見ない研究成果であり、今後の媾疫及び媾疫トリパノソーマに関する研究をリードするものとなります。来年度開催予定の第三回非ツェツェ媒介性動物トリパノソーマ症国際会議(2018年12月、南アフリカ ノースウエスト大学)では、SATREPSの総仕上げとなる研究成果の発表を予定しています。

【画像】

顕微鏡で見る血液中のトリパノソーマ(濃いピンク)

【画像】

媾疫トリパノソーマ症を発症したウマ。神経が麻痺し、口先が歪んでしまっている。

【画像】

学会でプレゼンするプロジェクトディレクターのバトツェツェグ所長