ラクダのトリパノソーマ調査 in ホブド

2018年7月12日

本SATREPSではモンゴル国での原虫病対策のために、モンゴル国で流行しているトリパノソーマ原虫の培養馴化株の樹立を目的としています。本SATREPSプロジェクトで研究中のトリパノソーマ症は主に2つで、1つは媾疫(こうえき)と呼ばれる交尾によって感染する「ウマのHIV」とも言える馬の感染症であり、これは媾疫トリパノソーマ(Trypanosoma equiperdum)によって引き起こされます。2つめは、トリパノソーマ・エバンシ(Trypanosoma evansi)によって引き起こされるスーラ病と呼ばれる疾患で、主にアブやサシバエによって媒介されるのですが、馬だけでなくラクダ、牛をはじめとする種々の家畜や野生動物が罹患します。これまでに複数の媾疫トリパノソーマ培養馴化株を樹立し、様々な実験成果がSATREPSプロジェクトを進展させてきました。一方でトリパノソーマ・エバンシに関しては過去にモンゴル国で流行していた記録はあるものの、これまでに原虫の発見と培養馴化株の樹立には至っていませんでした。そこで今回は過去にラクダのトリパノソーマ症が大流行し、対策が施されたホブド県に狙いを定め野外調査を実施しました。

ホブド県はモンゴルの西の果て、首都のウランバートルからは1,500km程度離れた中国との国境に位置する県です。必要な機材をプロジェクトカーに積み込み、まる二日間かけてたどり着いた調査地。そこは日本で一般的に想像されるような“草原の国、モンゴル”ではなく荒涼とした大地でした。家畜もウランバートル周辺ではあまり飼養されていないラクダやヤクの姿が目立ちます。モンゴル国では草原から砂漠地帯、高山地帯、そしてタイガ(針葉樹林帯)と様々な気候区分が存在し、数千年もの長い間遊牧民がそれぞれの土地に最適な遊牧形態で生き抜いてきたことを改めて感じました。ここで我々は野外ラボを設営し、ラクダやその他の家畜から採血したサンプルの簡易血液検査を行いました。血液検査の結果、トリパノソーマ症が疑われる家畜は認められず、過去にモンゴル国政府が実施したトリパノソーマ症対策が十分に機能している事が示唆されました。一方で、線虫(フィラリア)様虫体の感染が複数のラクダで認められました。この寄生虫がラクダに対して寄生虫病を引き起こしているのか否かについては今回の結果ではわかりませんが、我々がターゲットとしている原虫病以外にも様々な寄生虫・感染症の対策を総合的に行うことがモンゴル国の畜産業を発展させるために必要だということを改めて感じた野外調査でした。

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ラクダの血液中に認められたフィラリア様虫体

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荒涼とした大地で力強く生きるフタコブラクダたち。

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野外ラボとナランツァツラル研究員。顕微鏡、遠心機を設置し、回収した血液サンプルを即座に検査する。

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モンゴルの伝統衣装デールをまとった菅沼専門家とゲル

【画像】ヒャルガス湖での集合写真
左からナンバルドライバー、菅沼専門家、バトトゥル教授、ナランツァツラル研究員、ソヨルマ研究員、ジャガードライバー、バトラー研究員