馬とこう疫とモンゴル人

2019年4月3日

日本は桜の季節になりましたね。日本人にとって桜が特別なように、モンゴル人にとって馬は特別な存在です。「モンゴル人は馬上で育つ」とか「モンゴル人の足は4本」といったことわざもあるくらい、馬とモンゴル人は切っても切り離せません。また騎馬民族として、馬は彼らの誇りでもあります。

そんなモンゴル人が熱狂するのが、夏の間に国内各地で行われる競馬です。モンゴルの競馬は、5~13歳くらいの子供たちが騎手を務め、馬の年齢ごとに距離が違う直線コースで競います。モンゴル馬は足が短く長距離走に適していることから、一番短いコースでも18キロ、一番長いコースになると56キロも走ります。それぞれのレースで1000頭近い数の馬が参加しますが、ゴール直前で力つきてしまう馬や落馬してしまう子供もいて、とても過酷なレースとなります。が、そんな過酷なレースで優勝することは、馬や騎手やその調教師にとって非常に名誉なこととされ、モンゴル国民からたくさんの祝福を受けるのです。

なので調教師たちは、速い馬を育てようと一生懸命!最近は、外国からサラブレット等の足の速い種馬を買い付けて交配させ、少しでも足の速い馬を産み育てようとします。

これは実際見聞したある調教師の話です。ロシアから種馬1頭を約160万円(!)で購入。ちなみに、ウランバートルの平均月収は4万円前後と言われています。いかに160万円がモンゴル人にとって巨額か、お分かりいただけると思います。ところが、この買った馬の様子がどうもおかしい。何か病気にかかっているようだと、栄養剤を与えたり手持ちの薬を与えても、どんどん弱っていってしまいます。万策尽き、とうとう地元の獣医師に相談します。

当プロジェクトの研究者が、たまたまその獣医師と一緒にいたため見に行ってみると、明らかにトリパノソーマ病(こう疫)の末期症状が現れています。こう疫は、急激に悪化することはなく、感染してから何年もかけて悪くなる病気です。なので1ヶ月前に購入したというこの種馬は、売買時にはすでにかなり悪化していた状態だったのでしょう。

160万円も投資するのだから、購入する前に獣医に検査してもらわなかったのですか?との質問に、売人から「検査は時間がかかる。」「他にも購入希望者がいるから、早くお支払いできる人に売りたい。」と言われ、検査せずに購入したという調教師。しかも売人も調教師も様々な薬を投与していたため(売人は、恐らく馬を元気に見せるために投与したと思われます)こう疫だけでなく内臓にもかなりの悪影響が出ていたそうです。

プロジェクトのモンゴル人スタッフによると、速い馬を育てたいという熱心な調教師はかなり多いそう。種馬に大金を投資する調教師たちに、ぜひ簡易迅速検査キットの存在を知ってもらいたい…そう思わされた出来事でした。

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馬を乗りこなすモンゴルの少年。

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馬のレースでたくさんのメダル(背後に飾ってあるもの)を獲得した調教師さん(真ん中)。今回の記事の調教師さんとは別の人。

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ロシアから160万円で購入したトリパノソーマ病の種馬。