「大丈夫。あなたは一人じゃない」と言いたくて…−フブスグル県でのベースライン調査から−

2017年3月22日

「うちの子、自閉症なんです。ウランバートルで診断を受けて、その結果を幼稚園に伝えたら、明日から来ないでくれと言われました。」
そう話してくれたお母さんの表情は、たとえ自分一人であってもわが子のためにできることは何でもしたいという決意と、周囲に味方を得られない心細さが入り混じったものでした。地方では、自閉症のように見た目では分かりにくい障害の診断が難しい現実、そして周囲の理解不足から、当事者やその家族が厳しい状況に置かれている現実が垣間見えました。

本プロジェクトでは、2016年10月にパイロット県として選定されたフブスグル県において、障害の早期発見、発達支援、障害のある子どもたちの教育の改善に取り組みます。その前段階として、プロジェクトが介入する前の状況を把握するためにベースライン調査を実施しました。同県の障害児の保健・教育・社会保障支部委員会、学校教員、家庭医等、今後、プロジェクト活動に参加することが想定される関係者を対象にアンケート調査を実施しました。併せて、県中心Murunソム(郡)の1つのバグ(ソムの下位区分)、県内の1つのソムを対象に、障害のある子どもたちの家庭、合計28軒を訪問し、保護者から現状や課題等について聞き取りを行いました(注) 。冒頭で紹介したのは、その一場面です。
その他、以下のような状況が明らかになりました。

  • 約半数の家庭が、福祉手当や年金以外に収入がないと回答しました。
  • 6家庭では、父、母、祖母のいずれか1人が、障害のある子どもを養育している状況でした。子どもから目を放すことができないため、働きに出ることもできず、経済的には厳しい状況にあります。
  • 「障害児の保健・教育・社会保障委員会」の障害認定会議に参加したことがあると回答した20家庭のうち7家庭から、「障害認定にどのような基準が用いられているのか分からない」「どのような手当てがもらえるのか分からない」という声が聞かれました。
  • 就学年齢に達していた21人のうち4人の子どもが就学できていませんでした。
  • フブスグル県内にも、障害児の保護者の会が運営するセンター、児童預かりサービス、子ども発達センターが設置されている学校等、子どもたちを支援する機関があります。ところが、支援を必要とする人に、それらの情報が届いていないケースもありました。

家庭訪問から見えてきたのは、経済的な困難、支援機関や情報へのアクセスできないこと、周囲から理解を得られないことなどから、社会から孤立せざるを得ない人たちの存在でした。

一人でも多くの子どもたちとその保護者に「大丈夫。あなたは一人じゃない」というメッセージを伝え、実際に支えていくことができるよう、プロジェクトではベースライン調査結果を真摯に受け止め、活動計画を策定していきたいと思います。

(注)事前に当該地域を担当する社会福祉サービス課職員、学校・幼稚園関係者、家庭医等と会議を持ち、地域に居住している子どもたちのリストを作成した。そして、調査への協力に同意が得られた世帯について、学校関係者もしくは社会福祉サービス課職員と共に訪問した。

【画像】

Murunの街を臨む丘から