【活動報告1】モンゴルの企業と障害当事者向けに啓発セミナーを開催

2022年5月30日

DPUB2は4月18日と19日、モンゴル企業の人事担当者を対象に「第2回企業啓発セミナー」を、続く20日と21日には、障害当事者を対象に「第1回企業啓発人材育成研修」を開きました。これは、企業への障害者の就職と定着をうながすために、障害者に対する企業の意識を変え、職場でどのような配慮を提供すればいいか知ってもらうとともに、障害当事者に企業に対する効果的な啓発の方法を学んでもらい、将来的に企業啓発セミナーを行えるようになってもらうために企画されたものです。

4日間を通じて講師を務めたのは、株式会社ミライロの3人の日本人専門家です。同社は、障害(バリア)を強みや価値(バリュー)に変えることで新しい社会をデザインすることをミッションに掲げ、2009年に大阪で創設されました。日本国内で企業や障害当事者にさまざまな意識啓発を行ってきた実績を生かし、DPUB2ではモンゴル企業に対する意識啓発を担当しています。

バリアの原因を機能と社会に分けて解決策を考える

「第2回企業啓発セミナー」には、伝統的な衣服を製作する中小企業のゾーソンヘート社や、国内トップレベルの大手銀行であるハーン銀行など、23社から計26人が参加。労働社会保障省から障害者の法定雇用率と納付金制度について説明を受けた後で、障害者が企業にもたらす価値や、日本の職場で実際に障害者に行われている合理的な配慮に関するミライロの講義に熱心に耳を傾けました。その後、2人1組となって視覚障害や聴覚障害、車椅子利用を疑似体験しながらサポートの方法と接遇を学ぶ「障害体験」では、アイマスクをしたパートナーに声がけしつつ、真剣な表情で、一段一段、一緒に階段を上り下りしたり、実演された通りの順番で車椅子の車輪を上げながらゆっくり段差を越えたりしていました。

また、「第1回企業啓発人材育成研修」には、障害者支援団体やNGOなどから、精神障害や聴覚障害、身体障害、視覚障害がある当事者19人が参加。自己紹介の際、自身の障害特性をどう説明すると良いかや、違いを理解してもらうために障害当事者が啓発研修を行う重要性などについて、ミライロの講義を受けました。さらに、自分の抱えている困りごとが、機能と社会、どちらの障壁(バリア)によるものか分けた上で、解決策を考えるグループワークも実施。参加者からは、「外見からは障害者だと分からない内部障害があるため、障害者手帳を見せるとバスの運転手にいぶかしがられる」「企業の求人情報には“関心があれば電話するように”と書かれているものが多いが、聴覚障害者にはできない」といった困りごとが挙げられ、「社会の認知度を高める」「手話通訳をビデオでつなぐ」といった解決策の提案が寄せられるなど、活発な意見交換が行われました。

日本の事例や経験に寄せられる高い期待

今回、講師を務めたミライロの3人の日本人専門家のうち、原口淳さんは生まれた時から目が見えません。高校まで盲学校で学んだ後、大学に通い、就職活動や就職直後に直面したさまざまな苦労を乗り越え、今、当事者の立場から講師として日本で精力的に啓発研修を行っている原口さんの体験談や講演に、参加した障害当事者たちから「大変参考になった」「非常に勇気づけられた」といった感想が口々に寄せられました。

そんな原口さんは、4日間の研修について「モンゴルでも、日本で講演する時と同じように共感してもらえた」と振り返った上で、「企業向け研修では、特に障害体験の反応が良かった」「障害当事者向け研修では、向上心の高さと旺盛なハングリー精神に驚かされた」と、手応えを語りました。

また、原口さんと同時期にミライロに入社した石井匠さんが、当時、原口さんとのコミュニケーションにどんな苦労を抱えていたのか同僚の立場から講演した時には、企業の人事担当者らが、時にメモを取りながら大きくうなずく姿が印象的でした。

石井さんは、モンゴルの企業関係者について「彼らがいかに日本や世界の事例を望んでいるか、ひしひしと伝わってきた。より多くの方々に情報を届けることがミッションだと感じた」と指摘。さらに、今後、障害当事者について「彼らが今後、講師になるためには、自分自身の体験か、人の経験かを問わず、さまざまな事例をできるだけ多く蓄積し、社会の障壁を解決する方法を導き出していく必要がある。今回、そのきっかけを提供できた」と、手応えを語りました。

さらに、今後、企業啓発のための教材作成を担当する近藤茜さんは、障害当事者らの理解を深めるために、グループワークの内容をグラフィックレコーディングでホワイトボードに記録し、参加者の注目を集めていました。

近藤さんは、「日本では自分の意見を発表することを躊躇する人もいるが、今回の参加者たちは、皆、自分の意見や思いをしっかり持っていて印象的だった」と4日間を振り返った上で、特に障害当事者について、「障害をネガティブにとらえていない人が多かった」と指摘。「今後、講師になるには、自分の言葉で伝えられるようになる必要があるが、その素地は十分にある」と期待を寄せました。

DPUB2は、今後も継続的に企業への意識啓発を行うとともに、将来的に企業に対して障害理解研修を実施できるような障害当事者の育成に取り組んでいく予定です。今後の進捗も、どうぞご期待ください。

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企業向けに行われた「障害体験」の様子

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グループワークの議論を発表する障害当事者

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活発に意見交換する障害当事者たち

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グループディスカッションの内容を記録したグラフィックレコーディング

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集合写真