プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)プライマリーヘルスケアにおける母子保健の継続ケア強化プロジェクト
(英)Project for Strengthening Continuum of Care for Mothers, Newborn and Child Health in Primary Health Care Settings

対象国名

パキスタン・イスラム共和国

署名日(実施合意)

2022年7月6日

協力期間

2023年1月11日から2027年1月10日

相手国機関名

(和)KP州保健局
(英)Health department, Government of Khyber Pakhthnkhwa

背景

パキスタンは、新生児死亡率は41/出生千対(2019年)と世界で二番目に高く、妊産婦死亡率も140/出生10万対(2017年)、乳児死亡率は56/出生千対(2019)であり、母子保健指標の改善が遅れている。かかる状況の中、パキスタン政府は、「国家保健ビジョン2016-2025(National Health Vision Pakistan 2016-2025)」(2014年)にて、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成を通じ、すべての国民、特に女性と子どもの健康状態の改善を目標に掲げ、母子保健を重視する姿勢を示している。一方、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標(以下、「SDGs」という。)の目標値である新生児死亡率を12以下/出生千対、妊産婦死亡率を70以下/出生10万対と比較すると、引き続き、改善のための取り組みが求められる。
中でも、ハイバル・パフトゥンハー州(以下、「KP州」という。)は、難民流入、自然災害等の影響を受け、パキスタンの中でも開発が遅れている州の一つである。KP州では、施設分娩率が61.8%(全国平均66.2%)、妊娠中に医師の健診を受けた妊婦の割合は76.1%(全国平均82%)であり、妊産婦健診によるハイリスク妊娠の早期発見と早期対応および、妊娠中と出産後の継続的なフォローができないことにより、対応への遅れと症状の悪化を招き、妊産婦と新生児の死亡に繋がっていると考えられる。
これまでKP州においては技術協力プロジェクト「プライマリ・ヘルスケアにおける定期予防接種システム強化プロジェクト」(2019年-2022年)を実施しており、アクセス困難地域の住民や流動人口を主な対象とした定期予防接種システムの改善・強化を図っている。当該案件において定期予防接種の未接種児が多く残る要因を分析したところ、医療従事者による妊婦への分娩介助を行わない家庭分娩率が高いことで、新生児が正確に把握されないことに起因していることも明らかになっている。こうした背景には、女性への行動制約や、母子対象の保健医療サービス利用のための決定権が女性にないといった、ジェンダー不平等な文化・社会的な習慣により、女性の保健医療サービスへのアクセスが阻まれているという課題が関係しているとされており、上記の先行案件で導入した、産前産後ケアや予防接種などの情報を正確に伝えるための啓発活動の強化等が求められている。さらに、一次医療施設のうち基礎的緊急産科・新生児ケア(BEmONC)を提供できる施設が保健医療従事者の能力不足により制約があり、当該ケアを提供する為の医療従事者の能力強化が急務である。また、妊娠、出産、産後、子どもが成長する各過程におけるサービスは、KP州保健局傘下の統合保健プログラム下の「予防接種拡大計画(以下、EPI)プログラム」、「母子保健プログラム」、そして「女性保健ワーカープログラム」で分担して提供されており、母子保健の継続ケア強化においては、それらプログラムの協働が重要である一方、現状これらのプログラムはそれぞれが縦割りの組織としてサービスを提供しており、その結果母子保健サービスの提供状況が予防接種率にも影響していることから、これらの連携強化が喫緊の課題である。
かかる状況を踏まえ、本事業はKP州において予防接種を母子保健継続ケアに統合し、併せてコミュニティ及び医療施設の両者における母子保健ケアの質向上を目指す。これにより、妊産婦から新生児、乳幼児、小児に対して継ぎ目のないケアを行える体制を構築し、母子保健全体の「ケアの継続性」の強化を図るものである。

目標

上位目標

KP州の対象地域において、母子継続ケアの質が向上する。

プロジェクト目標

KP州の対象地域において、プライマリーレベルの母子継続ケアサービスが強化される。

成果

1.コミュニティレベルにおいて、ソーシャルモビライゼーションを含む母子保健ケアが強化される。
2.施設レベルにおいて母子保健ケアが適切に提供される。
3.総合保健プログラム下の各種プログラム間の調整が強化される。
4.母子の救急リファラル体制が各施設レベル間で強化される。
5.州および地区レベルにおいて母子保健継続ケアのモニタリング評価が強化される。

活動

1-1.コミュニティレベルを対象とした既存の母子保健ケアの共同アセスメントが実施される。
1-2.コミュニティレベルにおいて、ケアの継続を含め、質の高いケアの改善計画が策定される。
1-3.健康教育のための家族保健冊子(Family Health Book)等のコミュニケーションツールが開発・改訂される。
1-4.コミュニティレベルの母子保健ワーカーの研修が、改善計画に基づき実施される。
1-5.コミュニティを対象とした母子保健ケア(予防接種を含め)が改善計画に基づき提供される。
1-6.ソーシャルモビライゼーションに関する活動が実施される。

2-1.施設レベルにおいて既存の母子保健ケアの共同アセスメントが実施される。
2-2.施設レベルにおいて、ケアの継続を含め、質の高いケアの改善計画が策定される。
2-3.母子のための医療ケアの基本的環境が改善される。
2-4.活動1-3と合わせ、統合保健サービス提供のための、家族保健冊子(Family Health Book)等のコミュニケーションツールが開発・改訂される。
2-5.施設レベルの母子保健ワーカーの研修が、改善計画に基づき実施される。
2-6.施設レベルにおいて母子保健ケア(予防接種を含め)が改善計画に基づき提供される。
2-7.対象地区の間で成果および知見が共有される。

3-1.プライマリーレベルにおいてケアの継続性を改善するプログラム調整メカニズムが確立・強化される
3-2.プライマリーレベルにおいて各種保健プログラム間の調整を図る改善計画が策定される。
3-3.母子の定期予防接種を含む総合的ケアが、プライマリーヘルスケアにおいて提供される。

4-1.リファラル体制に係るワーキンググループが設置される。
4-2.地域から3次医療施設への既存の母子リファラル体制について共同アセスメントが実施される。
4-3.リファラル体制の改善計画が策定される。
4-4.各施設が、改善計画に基づき患者をリファーする。

5-1.母子保健ケアの既存のモニタリング評価が査定される。
5-2.モニタリング評価の改善計画が策定される。
5-3.モニタリング評価のツールが既存ツールに基づき改訂される。
5-4.モニタリング評価の研修が実施される。
5-5.プライマリーレベルにおいて母子保健ケアの監督が、改善計画および改訂ツールに基づき実施される。
5-6.プロジェクト活動から得た成果および知見が、KP州に普及される。

投入

日本側投入

・専門家派遣:母子保健、予防接種、リファラル体制、保健行政、モニタリング・評価
・研修員受け入れ:本邦研修、第三国研修

相手国側投入

・カウンターパートの配置
・案件実施のためのサービスや施設、現地経費の提供