はじめに

保健省は、2010年12月に国家保健政策「ユニバーサル・ヘルス・ケア(Kalusugan Pangkalahatan:KP)を公布し、「全ての国民、とりわけ貧困層や僻地の住民など不利な状況におかれた人々が、過大な経済的負担をこうむることなく保健サービスを公平に受けられること」を目標としました。また2008年からは、「妊産婦・新生児死亡の早急な削減に向けた保健セクター改革(通称MNCHN政策)」を実施に移し、上記国家保健政策(KP)の枠組みにおいて、母子保健サービスの強化も推進しています。

本プロジェクトの協力対象地域であるルソン島コーディレラ地域は山岳地であり、医療施設へのアクセスが非常に困難な地区が多く存在します。特に雨季の間は、土砂崩れや川の氾濫などにより、移動が一層困難になります。また、先住民族が人口の70%を占めており、妊娠・出産に関し独自の文化を持っている人々も多く、さらには、貧困層の割合が全国的に高い地域でもあります。この地域では、(1)保健人材や訓練の不足、(2)医療機材・医薬品の不足、(3)非効率なリファラル(患者紹介や医療機関の役割分担)、(4)保健予算の不足などが問題となっています。

また、母子保健に関しては、施設分娩率が55%(2009年:コーディレラ地域平均)と、国の目標である80%よりも低く、結果として妊産婦死亡率も79対100,000出生(2009年:コーディレラ地域平均)と、国の目標(2015年)である52対100,000出生よりも依然高い率となっています。ちなみに、日本の妊産婦死亡率は6対100,000出生(2011年:WHO保健統計)です。

以上の背景を受け、本プロジェクトは、コーディレラ地域における現行の国家保健政策(KP)や母子保健政策(MNCHN政策)の推進に寄与することを目指し、2012年2月から5年間の予定で開始されました。

本プロジェクトでは、「コーディレラ地域において母子保健サービスが効果的・効率的に提供されるための保健システムが強化される」ことを目標としており、期待される成果は4つあります。プロジェクト活動の対象州は、同地域に所属する6州のうち3州(ベンゲット州、アパヤオ州、アブラ州)ですが、残り3州に対しても、教材の配布やTOT研修を通じて支援を行っていきます。


1)成果1
自治体間保健ゾーン制度が活性化され、州病院と町保健所との連携強化やガバナンスを強化します(州知事や町長など政策決定者が、保健サービスの拡充に積極的に関与すること)。また、特に貧困者の国民健康保険加入を促進し、保健サービス利用者の経済的負担の軽減や、保健医療施設が健康保険から還付金を得ることで保健財政を向上させることを目指します。

2)成果2
母子保健サービス提供マニュアル(国の指針・手引き)を、コーディレラ地域の状況(山岳地であること・妊娠や出産に関し独自の文化を持っている)に合わせて改訂し、地元住民のニーズに合わせたサービスを提供できるようにします。また、妊産婦・新生児死亡が起こった際の検討会を確実に実施し、予防措置の徹底を図っていくことでこれら死亡率の低減を目指します。

3)成果3
病院や保健所が質の高い母子保健サービス(特に基礎的緊急産科・新生児ケア)を提供できるよう機材供与や研修を実施します。

4)成果4
これら保健システムの強化や母子保健サービス改善は、国家保健政策(KP)や母子保健政策(MNCHN政策)に沿ってフィリピン全土で実施されているため、本プロジェクトの経験や成果を他地域に向け積極的に発信します。