プロジェクト活動

事業概要

(1)事業目的

本事業は、コロンボ県(西部州)およびクルネガラ県(北西部州)において、特別なニーズのある子どもの就学支援体制の構築、子どもの教育的ニーズに合った指導能力の強化、並びにインクルーシブ教育アプローチのグッド・プラクティス実践例の収集および共有を行うことにより、スリランカにおける特別なニーズのある子どものためのインクルーシブ教育アプローチの開発を図り、もって特別なニーズのある子どものためのインクルーシブ教育アプローチの全国普及に寄与するものである。

(2)プロジェクトサイト/対象地域名(注1)

・西部州 コロンボ県(人口:2,324,349人、学校数:405校、児童生徒数379,840人)
・北西部州 クルネガラ県(人口:1,618,465人、学校数:890校、児童生徒数336,609人(注2))

(注1)人口規模、首都からの距離、青年海外協力隊事業における障害児者支援分野の派遣実績等を勘案して決定
(注2)スリランカ教育省 School Census Preliminary Reports 2016

(3)本事業の受益者(ターゲットグループ)

直接受益者

・教育省(MOE)(中央、西部州、北西部州含む)の行政官・専門家(約50名)
・パイロット校(約10校)の校長、教員、子ども、保護者(約3000名)

最終受益者

・教育省以外の省庁の行政官・専門家
・プロジェクトサイト内のパイロット校以外の校長、教員、子ども、保護者(約750,000名)
・全国の校長、教員、子ども、保護者(約4,500,000名)

(4)事業スケジュール(協力期間)

2019年3月から2022年2月(3年間/計36か月)

(5)総事業費(日本側)

約3.0億円

(6)相手国側実施機関

教育省 ノンフォーマル/特別教育局
(Non-Formal and Special Education Branch, Ministry of Education)

(7)投入(インプット)

1.日本側

1.専門家派遣(総括、副総括/インクルーシブ教育、就学支援体制強化、教員指導能力強化、普及・啓発活動)
2.本邦研修(特別なニーズのある子どもの教育に関する研修/年間最大15名)
3.機材(PC、プロジェクター、コピー機、ビデオカメラ等)
4.在外事業強化費
5.プロジェクトオフィス兼宿舎(地方部)

2.スリランカ側

1.カウンターパートの配置

・プロジェクトディレクター(1名):教育省次官
・プロジェクトマネージャー(1名):ノンフォーマル/特別教育課長
・西部州、北西部州のチーフ(各1名):西部州および北西部州の各教育局長
・プロジェクトチームメンバー

2.運営コスト

・研修参加者の交通費
・ガイドライン・教材の印刷費
・本邦研修に係る必要経費

3.施設機材

・研修会場
・JICA専門家用家具付き執務スペース(コロンボ県)

(8)環境社会配慮・貧困削減・社会開発

1.環境に対する影響/用地取得・住民移転

1.カテゴリ分類:C
2.カテゴリ分類の根拠:本事業は「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年公布)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望ましくない影響は最小限と判断されるため。

2.ジェンダー平等推進・平和構築・貧困削減

・ジェンダー分類:ジェンダー活動統合案件
多様な学習者が教育において排除されないよう、全ての学習者のニーズに対応するための教育システム全体を変革するというインクルーシブ教育の理念はジェンダー平等の推進に資するものであり、本案件は、包摂性及びジェンダー視点に立った活動を含むため。
・貧困分類:貧困対策案件
本案件は社会的弱者とされ、貧困層に陥りやすい障害児とその家族が最終裨益者であることから貧困対策案件とする。

(9)関連する援助活動

1.我が国の援助活動

障害児・者支援分野の青年海外協力隊、シニア海外ボランティア/シニア海外協力隊とは、スリランカの障害関連情報の共有、プロジェクトが実施する研修への招待など緩やかな連携を図る予定。

2.他ドナー等の援助活動

上述のUNICEF及びAustralian AID案件は、通常学級に在籍する学習障害などの比較的軽度の障害児への合理的配慮の促進を支援している。またKOICAは2017年から3年間、毎年25名の障害児の教育関係者を韓国に招き、特別支援教育に関する研修を実施する予定。スリランカ教育省によるインクルーシブ教育の推進を後押しすべく、研修内容や研修参加者の重複を避けるなど協調体制の構築が必要。

協力の枠組み

協力概要

1.上位目標と指標

特別なニーズのある子どものためのインクルーシブ教育アプローチが全国に普及する

【指標】

プロジェクトによって構築された特別なニーズのある子どもを対象としたインクルーシブ教育アプローチが西部州、北西部州の非パイロット県および他7州において導入される

2.プロジェクト目標と指標

特別なニーズのある子どものためのインクルーシブ教育アプローチが開発される

【指標】

(1)プロジェクトで作成されたインクルーシブ教育アプローチに係るガイドラインが教育省によって正式に承認される
(2)80%以上のパイロット校の児童に正の変化が発現する
((注)「正の変化」の具体事例はベースライン調査を通じて決定する)
(3)パイロット県において、特別なニーズのある未就学児の数が減少する

3.成果

成果1:パイロット県において、特別なニーズのある子どもの就学支援体制が構築される
成果2:パイロット校の教員の子どもの教育的ニーズに合った指導能力が向上する
成果3:蓄積されたインクルーシブ教育アプローチのグッド・プラクティス実践例が主に教員に参照される

4.活動

成果1に関する活動:就学支援体制の構築

1-1.ベースライン調査の結果に基づいてパイロット校を選定する
1-2.特別なニーズのある子どもの就学委員会のメンバー・活動内容を決定する
1-3.就学支援委員会を開催する
1-4.就学支援委員会、パイロット校、MOE等に対し、基礎的環境整備に関する研修を実施する
1-5.パイロット校の保護者に対する啓発研修を実施する
1-6.就学支援委員会の運営及び学校の施設設備に関するガイドライン(案)を作成する

成果2に関する活動:教員の指導能力向上

2-1.パイロット校における特別なニーズのある子どもの学習状況を明らかにする
2-2.特別なニーズのある子どもの指導教材を作成する
2-3.パイロット校の校長・教員に対しインクルーシブ教育アプローチに関する研修を実施する
2-4.パイロット校がインクルーシブ教育アプローチを用いた学校教育計画を作成するよう支援する
2-5.インクルーシブ教育アプローチに係る活動を記したガイドライン(案)を作成する

成果3に関する活動:実践事例の蓄積・運用

3-1.事例収集に係るフォーマットを作成する
3-2.パイロット県の指導主事に対してインクルーシブ教育アプローチ実践状況のモニタリング研修を実施する
3-3.インクルーシブ教育アプローチの実践事例を収集する
3-4.インクルーシブ教育アプローチの実践事例集案を作成する
3-5.プロジェクトの経験を全国に共有するための普及計画を作成する
3-6.プロジェクトの経験を共有するための全国セミナーを実施する

前提条件・外部条件

(1)前提条件

・就学前教育機関等、関係機関のプロジェクト参加の同意が得られる
・パイロット校の特別教育ユニットに計画されたとおりに教員が配置される

(2)外部条件

・研修を受けた教員の半分以上が公的教育行政システムに留まる
・研修を受けた行政官・専門家の半分以上が公的教育行政システムに留まる
・教育省がプロジェクトで開発されたアプローチを他州で導入されるよう、各州教育事務所に指示する
・パイロット県以外の地域の教員組合が普及計画に反対しない

評価結果

本事業は、スリランカの開発政策、開発ニーズ、日本の援助政策と十分に合致しており、また計画の適切性が認められることから、実施の意義は高い。

過去の類似案件の教訓と本事業への活用

(1)類似案件の評価結果

ミャンマー国「児童中心型教育強化プロジェクト」(フェーズ1 2004~2007年)(フェーズ2 2008~2012年)の事後評価(2014年)において、「対象地域ごとにベースライン調査を実施するなど対象地域の現状を丁寧に把握し、モデルの有用性を検証しつつ普及拡大を行う事業デザインによって、事業の有効性が高まった。この事業デザインは、小規模なパイロット活動などによって部分的に制度の導入、普及拡大をめざす他の事業にも活用されうる。」との教訓が抽出された。

(2)本事業への教訓

本事業は、パイロット活動を通じて、将来的に全国普及が可能なインクルーシブ教育アプローチ(モデル)を構築する点で上記案件に合致することから、段階的に対象地域の現状を丁寧に把握し、モデルの有用性を検証しつつ普及拡大を行うように、サイトごとのベースライン調査の実施、中間評価を通じたモデルの有用性の検証を行うようプロジェクト計画に反映させた。

今後の評価計画

(1)今後の評価に用いる主な指標

「協力の枠組み」協力概要のとおり。

(2)今後の評価計画

事業開始後から3~4か月 ベースライン調査
事業開始後から18~24か月 中間評価
事業開始後から30~36か月 エンドライン調査
事業終了3年後 事後評価

(3)実施中モニタリング計画

事業開始後6か月毎 JCCにおける相手国実施機関との合同レビュー
事業終了1か月前 終了前JCCにおける相手国実施機関との合同レビュー

広報計画

(1)当該案件の広報上の特徴

1)相手国にとっての特徴

スリランカは2016年2月に障害者権利条約を批准し、当プロジェクトは右条約に関する政府の動きとの関連性も高い。12月3日の国際障害者デーに合わせ、障害児者に関する啓発イベントを企画実施するなどして、案件を広く社会に周知していく。

2)日本にとっての特徴

インクルーシブ教育の実現は日本国内においても注目されるテーマであり、スリランカの知見を日本国内へ紹介することも検討する。

(2)広報計画

・プロジェクトホームページを通じた情報発信
・年一回の国別研修実施時期に合わせたプレスリリース
・国際障害者デー(毎年12月3日)に合わせたJICAホームページトピックスへの記事の掲載(障害分野に関する他案件との連動記事の掲載など)